- 2025年4月30日
- 2025年4月23日
生まれる前から赤ちゃんを守る!2024年登場のアブリスボとは?
東京都中野区で開業している、中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の院長、大庭健史です。
近年、乳幼児や高齢者を中心に重症化しやすいRSウイルス(正式名称:Respiratory Syncytial Virus=呼吸器合胞体ウイルス)に対するワクチンや、新しい抗体製剤であるベイフォータスが相次いで登場し、重症化予防への効果が期待されています。

以前、当クリニックのブログ「高齢者のRSウイルス感染の脅威とアレックスビーによる予防について」では、RSウイルスワクチン「アレックスビー」について解説しました。
今回は、2024年5月31日に発売されたもう一つのRSウイルスワクチン「アブリスボ」について、詳しくご紹介していきます。

(出典:ファイザー社 ホームページ)
RSウイルスとは?
RSウイルスは、ニューモウイルス科に属するRNAウイルスで、特に乳幼児で重症化しやすい呼吸器感染症を引き起こします。
一般的には、発熱・咳・鼻水などの風邪のような症状から始まりますが、乳幼児が感染すると肺炎や細気管支炎を発症し、入院が必要となるケースもあります。
特に注意が必要なのは、
・生後6か月未満の乳児
・低出生体重児
・心臓や肺に基礎疾患のある乳幼児 など
また、RSウイルスは乳幼児だけでなく、高齢者や基礎疾患を持つ成人においても重症化する可能性があるため、全年齢における感染予防が重要とされています。
なぜ妊婦さんにRSウイルスワクチン?
これまで、赤ちゃん自身にRSウイルス感染を防ぐための方法としては、シナジスなどの抗体製剤を投与する方法に限られており、対象もハイリスクの乳児に限定されていました。
そのため、すべての乳児を対象とした有効な予防策は限られていたのが実情です。
しかし、2023年にアメリカで承認されたRSウイルスワクチン「アブリスボ」は、これまでとは異なる新しい予防アプローチを可能にしました。
このワクチンは、妊婦さんが妊娠後期に接種することで、母体で作られた抗体が胎盤を通じて赤ちゃんに移行し、出生後すぐの感染リスクを軽減するとされています。
つまり、妊婦さんがワクチンを接種することによって、生まれてくる赤ちゃんをRSウイルス感染から守ることができるのです。
アブリスボとは?
アブリスボ(Abrysvo)は、ファイザー社が開発したRSウイルスに対するワクチンです。
2023年5月31日、アメリカ食品医薬品局(FDA)により、60歳以上の高齢者を対象としたRSウイルスによる下気道疾患の予防ワクチンとして初めて承認されました。さらに同年8月21日には、妊娠32〜36週の妊婦を対象とした接種がアメリカで承認されました。
これにより、母体を通じて赤ちゃんに抗体が移行し、生後6か月までのRSウイルス感染から守ることが期待されています。2023年8月24日にはEU加盟国においても承認され、日本でも2024年5月31日に厚生労働省によって承認され、現在は順次接種が始まっています。
アブリスボは不活化ワクチンであり、RSウイルスの感染力を無くした上で、免疫系を刺激するように設計されています。そのため、高い安全性を備えたワクチンとして評価されています。
特に妊婦さんへの接種については、厳格な審査基準をクリアしており、臨床試験でも有効性と安全性が確認されました。次に、妊婦さんに対して実施された臨床試験の結果についてご説明いたします。
妊婦さんに対して実施されたアブリスボの臨床試験について
日本を含む世界18か国の約7,000人の妊婦さんを対象に実施されたMATISSE試験では、妊娠中にアブリスボを接種した妊婦さんから生まれたお子さんにおいて、RSウイルスによる下気道感染症や重症の下気道疾患に対するワクチンの効果が評価されました。
この試験では、アブリスボを接種した約3,500人の妊婦さんのグループと、プラセボ(偽薬)を接種した約3,500人の妊婦さんのグループを比較しました。
その結果、アブリスボを接種した妊婦さんから生まれたお子さんは、
・出生後90日以内の重症下気道疾患のリスクが81.8%減少
・出生後180日以内では69.4%減少
という、非常に高い予防効果が確認されました。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2216480)

(出典:N Engl J Med 2023; 388: 1451-1464)
アブリスボの安全性は、2,973名の妊婦さんを対象としたコホート研究において評価されました。この研究では、アブリスボを接種しても以下のようなリスクが増加しないことが報告されています。
・妊娠37週未満の早産
・妊娠高血圧症候群
・死産
・在胎週数に対して大きすぎる出生体重(LGA)
・新生児集中治療室(NICU)への入院
・NICU入院を伴う新生児呼吸窮迫
・新生児黄疸または高ビリルビン血症
・新生児低血糖
・新生児敗血症
こうした結果から、妊娠中にアブリスボを接種しても、妊婦さんとお子さんにとって特別に大きなリスクはないと考えられています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38976271)
接種のタイミングは?
日本では、妊娠24~36週の間にアブリスボを接種することが可能です。
しかし、MATISSE試験においては、妊娠28週以降に接種した方がより高い予防効果が示されたことから、妊娠28~36週での接種が推奨されています。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2216480)
また、同じRSウイルスワクチンであるアレックスビーにおいて早産リスクの報告があることや、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が妊娠32~36週での接種を推奨していることも踏まえ、当クリニックでは妊娠32~36週での接種をおすすめしています。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2305478)
接種費用は?
2025年4月現在、アブリスボは任意接種であり、公費助成の対象にはなっていません。
費用は医療機関によって異なりますが、当クリニックでは、1回あたり29,500円(税込)で接種を行っております。今後、国の助成や補助制度の拡充が期待されます。
最後に
RSウイルスは、これまで多くの赤ちゃんにとって避けることの難しい感染症でした。
しかし、アブリスボの登場により、母体から赤ちゃんへ「生まれる前からのバリア」を築くことが可能となりました。
赤ちゃんが最も弱い時期を安心して乗り越えられるよう、妊婦さんご自身が備えることのできる選択肢が増えたことは、大きな前進だと感じています。
アブリスボにご興味のある方は、ぜひかかりつけの産婦人科や当クリニックまでご相談ください。
(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)
