• 2024年3月5日

2024年4月8日に発売!肥満を改善させる薬アライについて分かりやすく解説

中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の院長の大庭健史です。

最近話題となっている肥満症治療薬のウゴービは、2024年2月22日に発売されましたが、4月8日にも新たな肥満治療薬アライ(オルリスタット)が発売されます。

 

ただし、アライは「肥満症治療薬」ではなく「肥満治療薬(内臓脂肪減少薬)」ですので、ウゴービとは適応が大きく異なります。今回は、このアライについて分かりやすく解説したいと思います。

 

(出典:大正製薬ホームページ)

 

アライとは

アライは、摂取した脂肪を消化管内で分解する酵素であるリパーゼの作用を阻害する薬剤です。この薬剤を摂取することで、食事から摂取した脂肪の約25%を便として排泄することが期待されます。

 

令和元年の国民健康・栄養調査によると、日本人の1日あたりの平均脂質摂取量は61.3gです。このことから、アライを内服することで1日の摂取カロリーから約110 kcal減らすことが期待されています。

 

しかし、アライは肥満症(健康障害が1つ以上ある、もしくは内臓脂肪蓄積がある肥満)の患者さんに対しては使用できません。その理由について次の項目でお話させていただきます。

 

アライがなぜ肥満症患者さんでは内服できないのか?

肥満を改善するリパーゼ阻害薬に関して、2013年にアライの類似薬であるオブリーン(セチリスタット)が、2型糖尿病と脂質異常症があり、食事療法と運動療法を行っても改善しない肥満症患者さんを対象に製造販売承認を取得しました。

 

しかし、オブリーンの有効性と保険医療上の必要性が乏しいと判断され、公的薬価を付けることが保留となり、日本では発売されないこととなりました。

 

このようなことから、オブリーンの類似薬であるアライは「肥満症治療薬」ではなく「肥満治療薬(内臓脂肪減少薬)」として販売することを目指したと推測されます。そのため、アライは肥満症患者さんや高度肥満(BMI 35 kg/m2以上)の方には使用できません。

 

アライを服用するには

アライは市販薬であり、医療機関で処方することはできません。また、アライは市販薬ですが要指導医薬品のため、薬局に行けば誰でもすぐに購入できるわけではありません。

 

アライを購入するには、アライを販売する資格のある薬剤師との対面相談が必要であり、定期的に健康診断を受けていること、3か月以上の生活習慣改善(食事と運動)に取り組んでいること、体重や腹囲などを少なくともアライの購入の1か月前から記録していることなどの条件を満たす必要があります。

 

また服用の要件として、18歳以上で、腹囲が男性で85cm以上、女性で90cm以上であり、BMIが25以上35未満であること、さらに以下に示す肥満に関連する健康障害がないことが必要です。

・耐糖能障害 (2型糖尿病、耐糖能異常)

・脂質異常症(高脂血症)

・高血圧症

・高尿酸血症(痛風も含む)

・冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)

・脳梗塞または一過性脳虚血発作

・非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)

・月経異常または女性不妊

・閉塞性睡眠時無呼吸症候群または肥満低換気症候群

・運動器疾患(変形性関節症、変形性脊椎症)

・肥満関連腎臓病

 

これらの条件を全て満たした方が、アライを服用することができます。

 

アライの有効性について

3000人以上を対象とした5つの大規模臨床研究のメタ解析によると、アライによる治療を受けた方は、偽薬(プラセボ)を使用した方と比較して1年間で約3.2%の体重減少を示しました。また、アライによる治療はLDLコレステロール、拡張期血圧、および空腹時血糖値も減少することが報告されています。 (https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10730683)

 

国内の臨床試験においても、アライによる治療を受けた方は、偽薬を使用した方と比較して、24週間で約8%の内臓脂肪面積の減少が確認されました。

 

アライの安全性について

国内の臨床試験によると、アライの副作用のほとんどは薬理作用(食事から摂取した脂肪の一部を便に排泄する作用)に関連していると報告されています。

 

具体的には、肛門からの油の漏れが20.0~34.2%、おなら(放屁)をすると便がもれるのが21.0~23.3%、便失禁が4.0~6.7%と報告されています。

 

これらの「無意識のうちに自分ではコントロールできずに油や便がでる」「おならをすると便や油がもれる」副作用は、時に日常生活に影響を及ぼすことがあるため、その使用には注意が必要です。

 

また、肝機能検査異常が1.7~2.0%の割合で報告されていますが、これ以外の副作用はあまり報告されていません。

 

 

どのような人がアライを服用すべきか?

生活習慣病を専門とする当クリニックとしては、食事療法と運動療法が十分に行われても肥満が解消できない場合には、アライの使用を検討することが適切だと考えます。

 

ただし、アライの効果が比較的弱い割に副作用である消化器症状が多い点は気になります。 そのため、便秘傾向のある肥満の方にはアライの使用を一定程度おすすめしますが、そうでない方にはあまりおすすめしません。

 

また、アライはLDLコレステロール値を下げる効果があるため、年齢とともにLDLコレステロール値が上昇している境界域高LDLコレステロール血症(LDLコレステロールが120~139 mg/dL)を伴う肥満の方にも、その使用を一定程度おすすめします。

 

最後に

肥満に対する新規薬剤が発売されることは、予防医学の観点から見ても大変良いことです。しかし、アライの効果が比較的弱いため、あまり大きな期待をするべきではないと思います。それよりも、現在の食事と運動を見直すことの方が効果的であるかもしれません。

 

特に食事療法は重要です。当クリニックのホームページ「生活習慣病」でも述べていますが、1日の摂取カロリーを25~27.5×理想体重(=22×[身長m]2)kcal以下にできれば、アライの服用を凌駕する成果が得られると考えます。

 

BMI 30以上の肥満の方であれば、管理栄養士による栄養指導が可能ですので、食事療法でお困りの方は当クリニックの栄養指導(毎月第2・4月曜日14:30~17:30)をぜひご利用ください。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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