• 2023年11月25日

2024年2月22日から保険診療で使用できる肥満症治療薬ウゴービについて

中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の院長の大庭健史です。当クリニックホームページの「生活習慣病」のページでも取り上げた肥満症治療薬であるGLP-1受容体作動薬のウゴービ(セマグルチド)が、2023年11月22日に薬価収載されました。

 

 

薬価収載とは、厚生労働省が製造と販売を認めた新薬に価格を設定することで、これにより新薬は保険診療で使用できるようになります。そして、新薬であるウゴービは2024年2月22日に発売されることが決定しました。この発売はアジアで初めてであり、世界では6ヶ国目となります。

 

ウゴービは、もともと2型糖尿病の治療薬として開発されたセマグルチドを、肥満症患者にも使用できるようにした薬剤です。このウゴービは、最大容量の2.4 mgを使用すると、ウゴービを使用していないコントロール群と比較して68週までに体重が12.4%減少することがアメリカの医学雑誌であるThe New England Journal of Medicineで報告されています。(https://www.nejm.jp/abstract/vol384.p989)

 

(出典:N Engl J Med 2021; 384:989-1002)

 

また、狭心症などの心血管疾患を有する糖尿病ではない肥満患者さんにウゴービを2.4mg使用することで、心血管系イベント(非致死性心筋梗塞と心血管疾患または非致死性脳卒中による死亡)を20%低下させることもThe New England Journal of Medicineで報告されています。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2307563)

 

このような良好な治療成績を出したウゴービは、いままでは瘦身クリニックなどで自費でしか使用できませんでしたが、いよいよ一般的に使用されていくこととなります。ただし、当クリニックのブログ「GLP-1受容体作動薬はダイエットために使用して良いのか?」でもお話しましたが、ウゴービなどのGLP-1 受容体作動薬をダイエットのみを目的に使用することはできません。

 

高血圧、脂質異常症、または2型糖尿病のいずれかを有する肥満症があり、かつ食事療法と運動療法を行っても十分な効果が得られない人のうち、BMIが35 kg/m2以上、もしくは以下の示す肥満に関連する健康障害を2つ以上有する BMIが27 kg/m2以上がウゴービ使用の対象になります。

 

・耐糖能障害 (2型糖尿病、耐糖能異常)

・脂質異常症(高脂血症)

・高血圧症

・高尿酸血症(痛風も含む)

・冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)

・脳梗塞または一過性脳虚血発作

・非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)

・月経異常または女性不妊

・閉塞性睡眠時無呼吸症候群

・運動器疾患

・肥満関連腎臓病

 

しかし、これらの基準を満たした方がウゴービを直ちに使用できるかというと、そうではありません。厚生労働省は、GLP-1受容体作動薬の乱用を防ぐため、最適使用推進ガイドラインを満たす施設でのみの使用を想定しています。

 

このガイドラインを満たす施設は、肥満症治療に関連する学会(日本糖尿病学会、日本内分泌学会、日本循環器学会)の専門医が常勤している教育研修施設、つまり大学病院などの大規模な医療機関に限られる可能性が高いとされています。

 

また、ウゴービは発売されてから約1年間は2週間分の薬剤しか処方できません。

 

以上のことから、ほとんどのクリニックでは保険診療でウゴービを発売直後から使用することは難しいと言えます。当クリニックにおいても日本糖尿病学会と日本内分泌学会の専門医は在籍しておりますが、教育研修施設の基準を満たしていないため、現時点ではウゴービを処方できない可能性が高いと考えます。

 

そこで、当クリニックでは肥満症患者さんに対してウゴービの使用が適切かどうかを判断し、必要であれば大規模な医療機関に紹介することを検討しています。

 

特に発売してから1年は2週間分の薬剤しか処方できないため、ウゴービの処方は早急に減量が必要な方に限るのが適切だと考えます。その一つの目安としては、食事療法と運動療法を適切に実施してもBMIが35 kg/m2以上の高度肥満症があり、かつコントール不良となっている肥満に関連する健康障害が複数ある場合と考えます。このような患者さんにおいては、ウゴービの長期処方を待つのではなく、早期の治療が望ましいのではないかと思います。

 

それ以外の肥満症の方については、糖尿病を有する方はウゴービ以外のGLP-1受容体作動薬を使用し、糖尿病のない方は食事療法と運動療法を継続されるのが良いでしょう。

 

いずれにしても肥満症の方は、食事療法と運動療法が大切です。

 

食事療法においては、過度な糖質制限よりも摂取カロリーを制限する方が望ましいと考えます。過度な糖質制限をあまり勧めない理由としては、確かに体重は減りますが、同時に筋肉量も減少しやすく、また瘦せにくくリバウンドしやすい体質になるためです。そのため、糖質制限を希望される方は、過度な糖質制限は避け、比較的マイルドな糖質制限に留めることをお勧めします。

 

1日の摂取カロリーについては、25×理想体重(=22×[身長m]2)カロリー以下に制限するのが望ましいですが、それが難しい場合は27.5×理想体重カロリー以下を目標にするのが良いでしょう。

 

また運動療法については、日常生活において「何か1つだけ変えてみよう」という気持ちが大切です。まずはご自身にとって継続可能かつ負担のかからない運動を1つ追加することをお勧めします。

 

最後になりますが、治療が難しいとされる肥満症治療の選択肢にGLP-1受容体作動薬のウゴービが加わることは喜ばしいことです。また、アメリカでは2023年11月にこのウゴービの効果を上回る「Zepbound」も新薬として承認されており、今後日本でも肥満症の治療が更に充実してくると推測されます。

 

将来的には当クリニックのような肥満症治療に関連する学会の専門医が常勤しているクリニックでもウゴービが保険診療で処方できるようになり、肥満症治療がより身近になることを期待しております。

 

なお、当クリニックではBMI 30以上の肥満症患者さんに対して管理栄養士による栄養指導も行っております。肥満症の食事療法でお困りの方は、ぜひご利用になってみてください。

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