- 2023年11月12日
GLP-1受容体作動薬はダイエットために使用して良いのか?
11月14日は世界糖尿病デーです。この日は、インスリンを発見したフレデリック・バンティングの誕生日であり、国際糖尿病連合(IDF)と世界保健機関(WHO)が1991年に制定し、2006年12月の国際連合総会で公認されました。当日は、世界中でブルーにライトアップする行事が行われます。
日本では、この世界糖尿病デーを含む1週間(2023年は11月12日~18日)を全国糖尿病週間としています。また、今年も世界糖尿病デーに合わせて、都庁など様々な施設がブルーライトアップされる予定です。
(出典:東京都)
当クリニックは特別なイベント(ブルーライトアップなど)は実施いたしませんが、糖尿病週間に合わせて糖尿病に関連するテーマを順次ブログにアップすることにしています。今回はその第1回目として、今話題のGLP-1受容体作動薬についてお話させていただきます。
近年、日本では痩身クリニックを中心に、自費でGLP-1受容体作動薬によるダイエットが大ブームとなっています。しかしながら、自費でのGLP-1治療は高額であることから、それを保険診療で行えないかという問い合わせが当クリニックにも寄せられています。
ダイエットのみを目的とするGLP-1治療については、現時点では保険診療で行うことはできないため、当クリニックではこのような依頼はお断りさせていただいています。
また、2023年4月12日に日本糖尿病学会から、「GLP-1 受容体作動薬および GIP/GLP-1 受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解」が発表され、美容・痩身・ダイエットなどを目的とした適応外使用は避けるよう勧告されています。
その理由として、欧米で肥満症治療におけるGLP-1受容体作動薬の使用が急増したことが挙げられ、これにより世界的にGLP-1受容体作動薬が不足している状況が大きく影響しています。
日本ではGLP-1受容体作動薬の薬価が他国と比較して安いこともあり、製薬メーカーが日本市場においてあまり積極的にGLP-1受容体作動薬を提供しないことも一因です。また、将来的にはさらに体重減少が期待できる新薬(GIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬)が発売される可能性があるため、現行のGLP-1受容体作動薬の増産にはあまり積極的ではないとも言われています。
この結果、特に日本ではGLP-1受容体作動薬の供給不足が生じ、本来使用すべき患者さん(肥満を伴う2型糖尿病の患者さん)にGLP-1受容体作動薬が提供できなくなる可能性が高まっているため、このような勧告が出されました。
では、もしもGLP-1受容体作動薬が安定的に供給できるようになった場合、ダイエットのためだけにGLP-1受容体作動薬を使用してもよいのかという疑問が浮かぶかもしれません。それについて、当クリニックの見解は「No」となります。
その理由は、GLP-1受容体作動薬には様々な副作用があり、また長期投与による安全性が十分に確認されたとは言い難いからです。
GLP-1受容体作動薬には吐き気、下痢、便秘などの消化器症状が多く見られます。これらの症状が発生した場合は、GLP-1受容体作動薬の使用を速やかに中止すべきですが、それを分からず使用を続け、症状が悪化するケースもあります。
また、GLP-1受容体作動薬に関しては、質の高い76件の臨床研究をまとめたメタ解析(メタアナリシス)において、急性胆道系疾患(胆嚢炎、胆管炎、胆石症など)のリスクが高まることが報告されています。さらに、胆のうがんについては、統計学的な有意差は認められないものの1.43倍のリスクと報告されています。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8961394)
(出典:JAMA Intern Med 182: 513–519, 2022)
また、イギリスで行われた大規模臨床研究において、インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬など)の使用が胆管がんのリスクを高める可能性があると報告されています。その論文によると、DPP-4阻害薬は胆管がんのリスクが1.77倍、GLP-1受容体作動薬は統計学的な有意差は認められないものの胆管がんのリスクが1.97倍と報告されています。(https://www.bmj.com/content/363/bmj.k4880.long)
以上のことから、ダイエットのみを理由にGLP-1受容体作動薬を使用することはお勧めできません。しかしながら、糖尿病でない方でもGLP-1受容体作動薬を使用しても良い人がいると私は考えています。
それは、今後発売される予定であるウゴービ(セマグルチド)というGLP-1受容体作動薬の治療対象に含まれる方です。具体的には、脂質異常症または高血圧症のいずれかがあり、それに加えて食事および運動療法を行っても十分な効果が得られず、BMIが35 kg/m2以上、あるいはBMIが27 kg/m2以上で2つ以上の肥満に関連する健康障害がある方です。
その理由は、このような方に対して現在の日本の保険診療では効果的な内科治療がないと言っても過言ではないからです。このような方の治療が十分にできないことは深刻と考えます。
私個人としては、製薬メーカーには一刻も早くGLP-1受容体作動薬を大量に生産し、糖尿病患者さんだけでなく肥満に関連する健康障害が複数ある患者さんにも使用できるようになることを願っております。
最後にまとめますと、当クリニックではダイエット目的のみでGLP-1受容体作動薬を使用することはお勧めしません。そして地道に食事療法と運動療法を徹底し、時間をかけてゆっくり減量するのが最善です。これについては、当クリニックのブログ「糖尿病の食事療法と当クリニックの栄養指導について」と「糖尿病の運動療法について」を参考に実践していただければと思います。
また、当クリニックでは専門の医師と管理栄養士がおりますので、肥満症などの生活習慣病でお悩みの方は、一度当クリニックにいらしてご相談ください。