• 2023年12月1日

半年に1回の注射で治療できる脂質異常症治療薬レクビオについて

中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の院長の大庭健史です。当クリニックホームページの「脂質異常症」やブログなどで脂質異常症の治療の重要性についてお話ししてまいりましたが、今回は新たな脂質異常症治療薬であるレクビオ(インクリシランナトリウム)についてお話させていただきます。

 

(出典:NOVARTIS ホームページより)

 

レクビオは、これまでに90ヶ国以上で承認を受けた薬剤であり、日本では2023年9月25日に薬価収載され、同年11月24日に発売が開始されました。この薬剤は、1回300 mgを初回とその3ヶ月後に皮下注射し、その後は半年に1回の間隔で皮下注射します。従来の脂質異常症治療薬であるレパーサ(エボロクマブ)と同じく、本薬剤もPCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)を標的としたものです。

 

PCSK9は、主に肝臓のLDL受容体の分解を促進させるタンパク質であり、このタンパクは血中のLDLコレステロールが減らないように調整しています。PCSK9阻害薬であるレパーサは、文字通りPCSK9を抑制することでLDL受容体の分解を抑制し、結果として血中のLDLコレステロール値を著しく改善させます。

 

一方、レクビオは、PCSK9を生成する遺伝情報を持つmRNA(メッセンジャーRNA)を標的としたsiRNA(短鎖干渉RNA)製剤です。レクビオを投与すると肝臓に取り込まれ、肝臓のPCSK9関連mRNAの分解が促進され、これによってLDL受容体が増加しその結果、血中LDLコレステロール値が改善されます。

 

ただし、どちらの薬剤も脂質異常症治療の第一選択薬ではありません。第一選択薬は、比較的安価でエビデンスが豊富なスタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)になります。

 

そのスタチンを最大容量で使用しても効果が不十分であるか、またはスタチンを服用できない場合、かつ心血管イベントのリスクが高い家族性高コレステロール血症または高コレステロール血症の方が、レパーサまたはレクビオの使用対象となります。そのため、両剤ともスタチンによる治療が適さない場合を除き、スタチンと併用することが必要です。

 

レパーサとレクビオは、特に家族性高コレステロール血症の患者さんにとって有効な治療選択肢となります。この疾患は遺伝的な要因により、若い頃からLDLコレステロールが高くなり、動脈硬化が進行します。特に冠動脈(心臓に栄養を与える血管)の動脈硬化が進みやすく、若年性の心筋梗塞や狭心症を引き起こしやくなります。LDLコレステロール値を少なくとも100 mg/dL未満に抑える必要があるこの疾患において、内服薬だけでは目標達成が難しい場合があり、その際にはレパーサまたはレクビオの追加が検討されることがあります。

 

これら2つの薬剤の有効性を比較すると、下図に示すレパーサからレクビオに切り替えを行った臨床研究(ORION-3試験)の結果からも、LDLコレステロールの低下作用について明らかな差はないと考えます。(https://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(22)00353-9/fulltext)

 

(出典:Lancet Diabetes Endocrinol. 2023; 11: 109-119)

 

また、安全性についてもこの2剤には明らかな差がないと報告されています。

 

ただし、この2剤には心血管イベントに関するエビデンスに差があります。レパーサは大規模臨床試験であるFOURIER試験において、心血管イベントのリスクを約15%低下させることが、医学界で最も影響力がある医学雑誌であるThe New England Journal of Medicineに報告されています。しかしながら、レクビオに関してはまだそのような効果についての報告はありません。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28304224)

 

(出典:N Engl J Med. 2017; 376: 1713-1722)

 

そのため、現時点では2剤を比較すると心血管イベントに関するエビデンスのあるレパーサの方が有利と考えますが、レパーサは2週間もしくは4週間に1回、患者さん自身が皮下注射を行う必要があり、やや使用しづらい面があります。

 

それに対して、レクビオは患者さんが自分で投与することはなく、医療機関での投与が必要です。また、1回目と2回目の接種を除けば半年に1回の投与で済むため、服薬アドヒアランス(服薬コンプライアンス)の面で優れています。注射手技に自信がない方や、薬の投与を忘れやすい方にとっては、特にレクビオの使用が推奨されます。

 

ただし、レクビオは高額な治療薬であるレパーサと比較しても薬価がさらに高く、3割負担の患者さんであれば年間の薬価は約26万6千円になります。そのため、レクビオを使用される方の多くが高額療養費制度の対象となります。治療費の一部が返還されるものの、レパーサに比べると割高であることは避けられません。

 

以上のことから、レクビオの使用は何らかの理由でレパーサを使用できない家族性高コレステロール血症の方や、虚血性心疾患後の高LDLコレステロール血症の方などに限られると考えます。

 

そのため、当クリニックでレクビオを使用することはそれほど頻繁ではないと見ていますが、もしもレパーサよりもレクビオの使用が適していると判断される場合、その必要性を丁寧にご説明した上で導入したいと考えております。

 

また、今後レクビオが心血管イベントのリスクを低下させることが立証され、薬価もレパーサと同等になれば、当クリニックでも積極的に使用しようと考えております。

 

加えて、脂質異常症の治療においては食事療法が非常に重要です。当クリニックでは、外来で専門の医師が食事療法について分かりやすくご説明いたします。また管理栄養士による栄養指導も行っておりますので、ぜひご利用になってみてください。

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