• 2024年2月21日

2月22日から変わる!肥満症治療(ウゴービの発売)と今後の展望について

中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の院長の大庭健史です。今回は話題となっている最新の肥満症治療についてお話させていただきます。

 

肥満症については、日本は欧米と比較して「肥満は自己管理能力が低いから」といった偏見が根強いばかりでなく、行政の新規薬剤の承認が遅れているとも指摘されています。そのような肥満に対する医療の遅れが指摘されている日本でも、2024年2月22日に大きな変化が起きます。

 

それは30年ぶりに新たな肥満治療薬のウゴービ(GLP-1受容体作動薬)が発売されることです。

そのため、今回は発売直前のウゴービについてと肥満症治療の将来展望についてお話させていただきます。

 

 

ウゴービについて

これまでの肥満症治療薬は、効果が乏しいものや長期処方できないものなどいくつかの問題がありました。その点、ウゴービは肥満症治療における安全性と有効性が共に高い初めての薬剤なのです。

 

当クリニックのブログ「2024年2月22日から保険診療で使用できる肥満症治療薬ウゴービについて」でも触れましたが、ウゴービを最大容量(1日2.4 mg)投与して治療を行うと、約12.4%の体重減少効果が報告されています。(https://www.nejm.jp/abstract/vol384.p989)

 

また、ウゴービは約20%の心血管系イベントを抑制させることも報告されています。 (https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2307563)

 

しかしながら、肥満症の人であれば、誰もがウゴービを使用できるわけではありません。

保険診療でウゴービを利用できるのは2型糖尿病、脂質異常症、または高血圧症のいずれかを有する一部の肥満症患者さんで、BMIが35 kg/m2以上の高度肥満症の患者さん、または肥満に関連する健康障害(高尿酸血症や閉塞性睡眠時無呼吸症候群など)を2つ以上有するBMIが27 kg/m2以上の患者さんです。

 

さらに、この治療が受けられるのは、最適使用推進ガイドラインを満たす限られた医療機関のみで、食事療法などの肥満症治療を6ヶ月以上実施しても十分な効果が得られない場合にのみ、ウゴービによる治療が受けられます。

 

これはGLP-1受容体作動薬の乱用を防ぐためであり、ウゴービの治療を受けることができる医療機関は専門医が常勤している教育研修施設、つまり大学病院などの大規模な医療機関に限られます。

 

当クリニックには日本糖尿病学会と日本内分泌学会の専門医が在籍していますが、教育施設ではないためウゴービによる治療を行うことはできません。当クリニックにもウゴービによる治療を希望される方がすでにいらっしゃっていますが、残念ながら当クリニックでは実施できない状況です。

 

当クリニックでの肥満症治療について

当クリニックでは、肥満症の改善を目的に受診される方には、まず二次性肥満(明らかな原因のある肥満)の有無について検査を行います。肥満の原因としては、以下のような疾患が考えられます。

・甲状腺機能低下症(橋本病など)

・クッシング症候群

・成人成長ホルモン分泌不全症

・インスリノーマ

・性腺機能低下症

・多嚢胞性卵巣症候群

・視床下部性肥満

・遺伝性肥満(Prader-Willi症候群など)

 

当クリニックの検査でこれらの疾患が疑われた場合は、甲状腺機能低下症を除き、大学病院などの大規模な医療機関に紹介して更なる精査を行っていただきます。甲状腺機能低下症については、当クリニックで甲状腺エコー検査を行った上で治療を行います。

 

そして、上記の疾患がない肥満を原発性肥満(単純性肥満)と言います。この原発性肥満については、食事療法と運動療法などの普段の生活習慣の改善が非常に重要です。

 

食事療法については、肥満症診療ガイドライン2022によれば、BMI 35未満の肥満症の方は、1日の摂取カロリーを25×目標体重(65歳未満は22×[身長m]2、65歳以上は22~25×[身長m]2)(kcal)以下に制限することを推奨しています。またBMI 35以上の高度肥満症の方は、1日の摂取カロリーを20~25×目標体重(kcal)以下に制限することを推奨しています。

 

このガイドラインを踏まえ当クリニックでは、肥満症の食事療法について、1日の摂取カロリーを25~27.5×目標体重(kcal)以下と、あえて少し緩やかな目標値を設定しています。

 

その理由は、厳格すぎる食事療法では治療を自己中断してリバウンドするリスクが高まるからです。まずは無理なく継続できる食事療法が良いと考えています。

 

これは運動療法についても同じです。運動も最初は無理をせず、ゆっくりと始めることが大切です。運動療法については、当クリニックのブログ「2024年2月22日から保険診療で使用できる肥満症治療薬ウゴービについて」でも触れましたが、負担が少なく継続可能な運動を日常生活に取り入れることをお勧めします。何か1つだけでも生活習慣を変えてみるという姿勢が重要です。

 

肥満症治療の今後の展望

肥満症の内科的治療は、ウゴービが発売されることで大きく変わりますが、これは序章に過ぎません。

 

アメリカでは2023年11月にゼップバウンド(GIP/GLP-1受容体作動薬)が承認され、12月から発売されています。このゼップバウンドは、肥満症を対象とした大規模臨床研究において最大容量(1日15 mg)を投与して治療を行うと、投与から72週間後には約22.5%の体重減少が認められました。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37366315)

 

(出典:N Engl J Med 2022; 387: 205-216)

 

また比較的小規模な臨床研究(第Ⅱ相臨床試験)ですが、ゼップバウンドを上回る効果が期待されるレタトルチド(GIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬)は、12 mgの使用により投与してから48週間後で約24.2%の体重減少が認められました。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37366315)

 

(出典:N Engl J Med 2023; 389: 514-526)

 

現在、日本ではゼップバウンドと同一成分のマンジャロが2型糖尿病患者さんにのみ使用されています。そのため、肥満症治療で有効性が示されているゼップバウンドも、将来的には日本でも使用可能となることが期待されます。

 

最後に

内科的治療が難しいとされる肥満症に対して、GLP-1受容体作動薬のウゴービが保険診療で使用できるようになることは画期的なことだと思います。

 

しかしながら、当クリニックのような肥満症治療に関連する学会の専門医が常勤しているにもかかわらず、現状ではウゴービを処方できないことは残念に思います。

 

今後、施設要件が緩和され、当クリニックのような生活習慣病を専門とする小規模な医療機関でもウゴービが処方できるようになり、限られた病院に行かずとも患者さんが治療を受けやすい環境となることを期待します。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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