• 2024年9月13日
  • 2024年9月9日

GLP-1受容体作動薬を超えるマンジャロの予後改善効果について

東京のJR中野駅南口からすぐのところで開業している糖尿病専門医の大庭健史です。

 

当クリニックでは、肥満を伴う糖尿病患者さんからのご相談が増えており、GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ」の使用が増えています。

 

(出典:田辺三菱製薬ホームページ)

 

GLP-1受容体作動薬は、膵臓のβ細胞を刺激してインスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制することで血糖値を低下させます。

また、胃内容物の排出を遅らせて食後の血糖上昇を抑制し、食欲中枢に作用して食欲を抑える効果もあります。

 

これらの多面的な作用により、GLP-1受容体作動薬は多くの経口血糖降下薬と比べて、より強力な血糖降下作用と体重減少効果を示します。

また、心臓や腎臓への保護作用が報告されており、生命予後の改善にも寄与することが確認されています。

 

一方、マンジャロは以前ブログ「GLP-1受容体作動薬の効果を超えるマンジャロという薬剤について」でも詳しく解説しましたが、天然のGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)をベースに作られており、GIP受容体だけでなくGLP-1受容体にも作用します。

 

この薬剤は、第2相臨床試験で最大用量15 mgを使用した場合、約半年で平均11.3 kgの体重減少が見られ、既存のGLP-1製剤であるトルリシティを大幅に上回る効果が確認されています。 (https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30293770)

 

(出典:Lancet. 2018 17; 392: 2180-2193)

 

ただし、マンジャロは比較的新しい薬剤であるため、GLP-1受容体作動薬のように生命予後を改善させるという明確な報告はこれまでありませんでした。

 

しかし、2024年8月12日、米国医師会雑誌「JAMA Network Open」において「Clinical Outcomes of Tirzepatide or GLP-1 Receptor Agonists in Individuals With Type 2 Diabetes」という、マンジャロと既存のGLP-1受容体作動薬を比較した研究結果が公表されました。

 

この論文では、どちらの薬剤がより生命予後を改善するかなどについて報告しています。

この研究成果は、今後の糖尿病治療に大きな影響を与える可能性があり、非常に重要なものと考えています。

 

そこで今回は、この論文の詳細を解説し、当クリニックでの今後の治療方針についてもお話させていただきます。

 

マンジャロと既存のGLP-1受容体作動薬を比較した研究結果について

この研究は、2022年6月1日から2023年6月30日の間に、マンジャロまたはGLP-1受容体作動薬を開始したアメリカの2型糖尿病患者140,308人を対象としています。

 

両薬剤を使用した患者において、全死亡率、主要心血管イベント(MACE: Major Adverse Cardiovascular Events)、腎イベント(腎機能の低下や透析導入など)、急性腎障害のリスクを比較しました。

 

その結果、下図に示す通り、GLP-1受容体作動薬と比較して、マンジャロは全死亡率を約42%、主要心血管イベントを約20%、腎イベントを約48%、急性腎障害を約22%減少させることが報告されました。

 

(出典:JAMA Netw Open. 2024 1; 7: e2427258)

この結果から、マンジャロは体重や血糖の改善だけでなく、心血管および腎イベント、生命予後においても、GLP-1受容体作動薬の効果を上回る可能性があることが示唆されました。

 

マンジャロは最善の治療薬なのか?

それでは、心腎イベントや生命予後の改善が期待されるマンジャロが、GLP-1受容体作動薬を上回る最善の糖尿病治療薬かというと、私はそうとは言い切れないと考えます。

 

GLP-1受容体作動薬の中でも、体重減少効果が最も高いオゼンピックやウゴービについては、現時点でマンジャロとの直接比較研究がないため、優劣を決めることはできません。

 

さらに、体重減少効果が比較的弱いビクトーザやトルリシティにおいても、それぞれ心血管イベントを減少させる効果が確認されており、肥満がない2型糖尿病患者さんにとっては、マンジャロよりも優れた選択肢となる可能性があります。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1603827#t=article)(https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(19)31149-3/abstract)

 

以上の点から、この論文によってマンジャロの優位性が示された一方で、GLP-1受容体作動薬も依然として優れた糖尿病治療薬であることに変わりはありません。

 

GLP-1受容体作動薬からマンジャロへの切り替えについて

当クリニックでは、現在GLP-1受容体作動薬で治療が安定している方に対して、マンジャロへの切り替えを強くお勧めすることはあまりありません。

 

しかし、BMIが35 kg/m2以上の高度肥満がある方や、肥満に関連する健康障害(脂質異常症や高血圧症など)を複数抱えている方には、オゼンピック以外のGLP-1受容体作動薬を使用している場合、マンジャロへの切り替えをお勧めしています。

 

今後のマンジャロについて

マンジャロの糖尿病患者さんへの心腎イベントや生命予後などを改善させる効果は、糖尿病患者さん以外でも認められる可能性があります。

 

すでにアメリカでは、2023年12月に糖尿病のない肥満の方を対象に、マンジャロと同じ成分であるゼップバウンドが発売されており、その効果が立証されることが期待されています。

 

また、日本でも2025年頃には、保険診療で糖尿病のない方にもマンジャロまたはゼップバウンドが使用できるようになる可能性があると言われています。

 

このように、高額な自由診療ではなく、保険診療の範囲でマンジャロが広く使用されることを期待しています。

 

最後に

糖尿病治療薬は毎年のように新たなものが発売され、糖尿病治療は急速に進歩しています。当クリニックは、3名の糖尿病専門医が在籍する糖尿病専門のクリニックです。

 

最新の医学論文を常に参考にしながら、最先端の医療を提供できるよう日々努めています。

 

現在の糖尿病治療に不安や疑問をお持ちの方は、ぜひ一度当クリニックを受診ください。

糖尿病専門医が、分かりやすく丁寧にご説明いたします。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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