• 2024年1月11日
  • 2024年1月12日

高齢者のRSウイルス感染の脅威とアレックスビーによる予防について

中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の院長の大庭健史です。お正月も終わり、これからはますます乾燥し、寒くなる時期です。

 

この季節には、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症だけでなく、さまざまなウイルス疾患が流行します。今回のテーマであるRSウイルス感染症も同様です。

 

このコラムでは、高齢者の方にとって命に関わることもあるRSウイルス感染症とその予防についてお話させていただきます。

 

 

RSウイルスとは

RSウイルス(respiratory syncytial virus)は、ニューモウイルス科に属するRNAウイルスで、一般的な風邪の原因とされるウイルスです。このウイルスは、1歳までには半数以上の人が感染し、2歳までにはほぼ100%が感染すると言われています。

 

RSウイルスは繰り返し感染することがありますが、成人ではほとんどが軽症で風邪の症状で収束します。しかしながら高齢者では、しばしばRSウイルスによる肺炎などの重症化が問題となっています。

 

アメリカのテネシー州のデータによれば、毎年冬になるとRSウイルスが介護施設の高齢者の入院および死亡を大幅に増加させ、それがインフルエンザに匹敵するとの報告があります。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12757561)

 

また、基礎疾患とRSウイルス感染症による入院のリスクを調査した論文によれば、気管支喘息を有する患者さんは入院リスクが2.0~3.6倍、COPD(慢性閉塞肺疾患)では3.2~13.4倍、糖尿病では2.4~11.4倍、冠動脈疾患では3.7~7.0倍、うっ血性心不全では4.0~33.2倍と報告されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34244735)

 

RSウイルス感染症の診断と治療

小児では、細気管支炎による呼気性喘鳴などの特徴的な症状がみられ、また鼻腔から吸引したものを用いた迅速抗原検査を行うことが多いため、RSウイルス感染症と診断される場合がよくあります。

 

一方、高齢者では小児のような特徴的な症状が少なく、ウイルスの排出量も小児に比べて少なく、また鼻腔から吸引して検査することも稀なため、RSウイルス感染症と診断されず風邪として扱われることが多いとされています。

 

その結果、重症化するリスクがある病気として認識されず、初期治療が遅れてしまい、重症化するケースがあると推測されています。

 

また治療については、RSウイルスに対する抗ウイルス薬は存在せず、風邪と同様に対症療法が主体です。したがって、高齢者ではRSウイルス感染症を予防することが肝要であります。

 

RSウイルス感染症の予防

RSウイルスに限らず、ウイルス感染症の基本的な予防方法は手洗いとうがいです。

 

手洗いにおいては、手のひらや甲をしっかり洗っている方は多いですが、指先や指の間などを十分に洗えていないケースが見受けられます。

 

手洗いが不十分な場合、手に付着したウイルスが残存し、その手を使って鼻や口を触ることでウイルス感染症が広がります。そのため、以下の図に示す手順に従って手を洗うことをお勧めします。

 

 

手洗いが終わった後にアルコールによる手指消毒を行うと、さらにウイルス感染症の予防に効果的です。

 

また、うがいについては、うがい薬を使用せず水うがいを帰宅時などに1~2回行うことをおすすめします。うがい薬の使用を控える理由などについては、当クリニックのブログ「当院における感染症対策と予防接種について」をご参照いただければと思います。

 

そして、手洗いとうがい以外の予防方法として、今回新たに発売予定のRSウイルスワクチン「アレックスビー」があります。これについては次の項目で詳しく解説いたします。

 

RSウイルス感染症予防のワクチンであるアレックスビー

 

アレックスビーは、RSウイルス感染症を予防するワクチンで、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンなどと同じく不活化ワクチンとなります。このワクチンは、1回の接種で比較的長い期間RSウイルス感染症に対する予防効果があります。

 

アメリカでは2023年5月に承認され、同年にイギリス、EU、カナダでも承認されました。そして、日本でも2023年9月26日に60歳以上の成人を対象に製造販売承認を取得し、2024年1月15日に発売予定となります。

 

このワクチンは、日本を含めた世界17か国で行われた大規模臨床研究で、60歳以上の対象者においてRSウイルスによる肺炎などの下気道疾患を約82.6%の予防効果があると報告されています。また、基礎疾患(肺疾患や糖尿病など)のある60歳以上では約94.6%の予防効果があると報告されています。(https://www.nejm.jp/abstract/vol388.p595)

 

また、アレックスビーの副反応は、注射部位疼痛が60.9%、疲労感が33.6%、筋肉痛が28.9%、頭痛が27.2%などと報告されていますが、これらのほとんどが一過性のものであり、また症状も軽症から中等度とされています。(https://www.nejm.jp/abstract/vol388.p595)

 

そのため、RSウイルス感染症による入院リスクが高まるとされる気管支喘息、COPD、糖尿病、冠動脈疾患、うっ血性心不全の方には、アレックスビーの接種が勧められます。

 

最後に

当クリニックでは、感染症治療だけでなく感染症予防にも注力しています。

 

RSウイルスワクチンであるアレックスビーについては、当クリニックでは2024年1月17日より接種を開始します。

 

ワクチン接種にかかる費用は26800円となります。安価なものではありませんので、当クリニックでは特に基礎疾患のある60歳以上の高齢者にアレックスビーの接種をお勧めします。

 

ワクチン接種をご希望の方は、Webもしくはお電話でご予約をお願いします。

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