- 2024年5月16日
副腎疲労症候群は存在しない病気!ステロイド服用の危険性について
内分泌疾患と生活習慣病を専門にしている中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の院長の大庭健史です。
当クリニックのブログをご覧になっている方の中には、「副腎疲労症候群」という名称を聞いたことがある方もいらっしゃると思います。
私は後期研修医(現在の専攻医)時代に、外来に来られた患者さんから「疲れが取れなくて、副腎疲労症候群かもしれないので検査してください」と言われ、初めてこの名称を知りました。
なぜなら、急性副腎不全(副腎クリーゼ)や副腎皮質機能低下症は医学書に記載されている病気ですが、「副腎疲労症候群」という名称は医学書に記載されていないからです。
そこで今回は、副腎疲労症候群についてお話し、その治療と称してステロイドが使われることの問題点についてお話させていただきます。
副腎疲労症候群という概念が生まれた歴史について
副腎疲労症候群は、1990年代にアメリカのジェームズ・L・ウイルソンによって提唱された概念です。
これは、ステロイドホルモンを測定して評価するのではなく、質問票を用いて評価するものであり、あくまでも概念にすぎません。
それにもかかわらず、アメリカだけでなくヨーロッパや日本でも、一部の医療機関で副腎疲労症候群という概念に対する診療を行うところが出てきました。
しかしながら、世界各国の内分泌学会は、副腎疲労症候群という病気は存在しないということで一致しています。そして、それを裏付ける論文が2016年に発表されました。
副腎疲労症候群が病気と認定されない根拠について
2016年にBMC Endocrine Disordersから「Adrenal fatigue does not exist: a systematic review(副腎疲労症候群は存在しない:系統的レビュー)」という論文が発表されました。(https://bmcendocrdisord.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12902-016-0128-4)
この論文の著者たちは、副腎疲労症候群に関連する3470件の論文の中から、ステロイドホルモンを評価していない論文やステロイド治療が行われていない論文などを除き、比較的質が高いと推測される58件の論文を抽出して解析を行いました。
その結果、これらの論文には研究デザインに問題があったり、疲労の評価に客観性が乏しかったり、ステロイドホルモンの評価に問題があったり、研究結果から得られた考察に問題があったりすることが分かりました。
そのため、この論文の著者たちは、「adrenal fatigue is still a myth.(副腎疲労症候群は依然として神話である)」と結論付けています。
この論文は、様々な研究結果を統合した系統的レビューであり、エビデンスレベルは比較的高いものです。 ゆえに、私も含めたほとんどの内分泌科の医師は「副腎疲労症候群という病気は存在しない」と考えています。
副腎疲労症候群の治療と称してステロイドが使用されることについて
現在、一部の医療機関では、副腎疲労症候群の治療と称してさまざまな治療が行われています。生活習慣の改善を促したり、漢方薬やビタミン剤を処方したりすることが多く、これらの治療は倦怠感などの諸症状に有効であり、費用の問題を除けば概ね問題はないと考えられます。
しかし、一部の患者さんにはコートリルなどのステロイドを処方されることがあり、これは深刻な問題だと考えます。
ステロイドの補充は、本来、副腎皮質機能低下症や病気の治療でステロイドが必要と判断される場合に限って行うべきです。
さらに、本当にステロイド補充が必要な副腎皮質機能低下症の方でも、ステロイド投与量の調整が難しく、過剰投与が課題となっています。
そのため、ステロイドの補充が必要ない副腎疲労症候群の方にコートリルなどのステロイドを内服させることは、生活習慣病(糖尿病や脂質異常症など)や骨粗鬆症、感染症などのリスクを高めます。したがって、副腎疲労症候群へのステロイドの使用は不適切と考えます。
副腎疲労症候群の治療と称してステロイドを内服されている方へ
副腎疲労症候群は副腎皮質機能低下症ではないため、ステロイド治療を直ちに中止すべきですが、一度ステロイドを開始するとそう簡単に中止することができません。
なぜなら、ステロイド内服によって体内で生成されるステロイドホルモンが減少することがあるためです。また、体内のステロイドホルモンの分泌に問題がなくても、ステロイド依存状態になり、中止が困難な場合もあります。
そのため、ステロイドの内服を自己判断でやめることは絶対に避けてください。ステロイド治療を中止したい場合は、内分泌内科の医師に相談することをお勧めします。
当クリニックでは、再度血液中のステロイドホルモン値を測定し、ステロイドが必要かどうかを判断します。また、負荷試験が必要と判断されれば大学病院などのより高度な医療機関への紹介も行います。
そして、ステロイドが必要ないと確定した場合にのみ、ステロイドの中止または減量を行います。
最後に
副腎疾患を含む内分泌疾患は、病態が複雑なことが多く、患者さんだけでなく専門外の医師にも十分に理解されていないのが現状です。そのため、当クリニックでは内分泌疾患に関する情報をホームページやブログで定期的に更新しています。
また、「もしかしたら自分は内分泌疾患かもしれない」と思われる方は、一度当クリニックにお気軽にご相談ください。
(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)