- 2024年8月31日
- 2024年8月30日
炭水化物制限は本当に有効?糖尿病診療ガイドライン2024について解説!
東京のJR中野駅南口からすぐのところにある「中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科」の院長、大庭健史です。
まず前提として、当クリニックでは炭水化物制限(糖質制限)を積極的には推奨しておりません。特に、極端な炭水化物制限はまったく推奨していません。
当クリニックにおける糖尿病患者さんの食事療法の方針は、従来の糖尿病学会の見解に沿ったものとなっています。
しかし、2024年5月に糖尿病学会から発表された「糖尿病診療ガイドライン2024」では、初めて炭水化物制限の一部が有用であることが示されました。
そこで今回は、「糖尿病診療ガイドライン2024」に記載された炭水化物制限の有効性について解説するとともに、なぜ当クリニックでは炭水化物制限をあまりお勧めしていないのかについてお話しさせていただきます。
糖尿病診療ガイドライン2024での炭水化物制限の有効性について
今回の糖尿病診療ガイドライン2024では、日本人を対象とした臨床研究は少ないものの、短期間での炭水化物制限がHbA1cの改善に寄与することが報告されました。(https://www.clinicalnutritionjournal.com/article/S0261-5614(16)30169-8/abstract)(https://www.jstage.jst.go.jp/article/internalmedicine/53/1/53_53.0861/_pdf/-char/en)
一方、この他にも欧米では炭水化物制限に関する多くの論文がありますが、6~12ヶ月以内の短期間では血糖コントロールが有意に改善したものの、12~24ヶ月以降では改善が見られない、もしくは悪化したとの報告もあります。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5871653)(https://link.springer.com/article/10.1007/s00592-020-01568-8)
このような研究結果を受けて、日本糖尿病学会は炭水化物制限の有効性を認めました。
ただし、推奨グレードはBとされ、比較的弱めの推奨であり、6~12ヶ月以内という短期間での炭水化物制限で2型糖尿病患者さんの血糖コントロールを目的とする場合に限定されています。
さらに、日本糖尿病学会は、炭水化物制限を行う場合は緩やかな制限を推奨しており、その際にはエネルギー摂取量が適正であることが前提とされています。
つまり、日本糖尿病学会は、ごく一部の特定の状況でのみ炭水化物制限が有効であると認めていますが、長期的な効果については科学的根拠が不足しているため、現時点では推奨していません。
(出典:日本糖尿病学会ホームページ)
炭水化物制限をあまりお勧めしない理由について
炭水化物制限は、短期間に限れば体重減少や血糖コントロールの改善に有効な食事療法です。しかし、長期間にわたると話は変わってきます。
炭水化物制限は手軽に始められる点がメリットですが、これを長期間継続することは難しいとされています。
実際、途中で離脱してしまう方も多く、過度な炭水化物制限によって筋肉量が減少し、代謝機能が低下した状態で元の食事に戻ると、ダイエット開始時よりも体重が増えてしまうことがしばしばあります。
また、長期間にわたって炭水化物制限を継続している方には、さまざまなリスクが伴います。
過去の臨床研究では、長期間の炭水化物制限が発がんリスクや死亡リスクの増加につながる可能性が報告されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34821435)(https://www.thelancet.com/article/S2468-2667(18)30135-X/fulltext)
以上のことから、当クリニックでは炭水化物制限をあまり推奨しておりません。
当クリニックがお勧めする食事療法について
食事療法の基本は、体格に応じた1日の目標摂取カロリーを設定し、1日3食を栄養バランスに偏りがないように摂ることです。
しかし、これも炭水化物制限と同様に、長期間継続することは難しいのが現実です。
そのため、当クリニックのブログ「糖尿病の食事療法と当クリニックの栄養指導について」でもお話していますが、私たちは「何か1つだけ変えてみよう」という気持ちで、現在の食事を少し見直すことから始めることをお勧めしています。
例えば、食べる速度を落とすことや、食事の最初に野菜を食べる「ベジファースト」を実践すること、コーヒーや紅茶などの飲み物を糖入りから無糖に変えること、白米を玄米や雑穀米といったグリセミック・インデックスの低いものに切り替えることなど、小さなことから少しずつ変えていくことをお勧めします。
特に、低グリセミック・インデックス食については、糖尿病診療ガイドライン2024でも推奨グレードBと弱めですが、2型糖尿病の血糖コントロールに有効であるとの見解が示されており、当クリニックでもお勧めしています。
最後に
ここまで炭水化物制限を中心に、糖尿病患者さんの食事療法についてお話ししてきましたが、どのような食事療法であっても長期にわたって継続することは容易ではありません。
ご家族のサポートなどがあると良いですが、やはり食事療法をしっかりと教えてくれる専門家の存在が重要だと考えます。
当クリニックでは、糖尿病を専門とする医師が外来で分かりやすく食事療法についてお話させていただきます。また、管理栄養士による栄養指導も受けることをおすすめしています。
栄養指導は、主に第2・第4月曜日の午後(14時30分から18時まで)に行っております。
栄養指導は、お一人に対して少なくとも20分以上の時間をかけて行います。
食事に関する様々な疑問や質問に丁寧にお答えし、食事に関するアドバイスを行いますので、どうぞお気軽にご利用ください。
(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)