• 2024年12月1日
  • 2024年11月27日

女性の約3〜10%が罹患している橋本病(慢性甲状腺炎)について徹底解説!

JR中野駅南口からすぐの場所にある「中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科」院長の大庭健史です。

 

私の研究分野は糖尿病に関するものが多いですが、かつて日本医科大学千葉北総病院で週1回の甲状腺専門外来を担当し、甲状腺エコー検査の技術指導も行っておりました。

 

その経験を生かし、当クリニックでは甲状腺疾患(橋本病やバセドウ病など)に対する専門的な診療を行っています。また、甲状腺がんの疑いがある場合には、迅速に甲状腺専門病院をご紹介しております。

 

今回は、日本人の名前がついた病気の一つである「橋本病(慢性甲状腺炎)」について、その歴史、原因、診断、症状、治療方法などを詳しくお話させていただきます。

 

 

橋本病とは

橋本病は男性よりも女性に多く見られ、成人女性では約3〜10%が罹患していると言われています。

 

この病気は自己免疫疾患の一つで、ウイルスや細菌などの病原体から体を守るための免疫が、自分の甲状腺を標的として慢性的な炎症を引き起こします。

 

この炎症により甲状腺の細胞は徐々に破壊されますが、甲状腺組織には高い予備能があるため、すべての方が甲状腺機能低下症を発症するわけではありません。実際、橋本病に罹患した方の少なくとも75%以上の方が甲状腺機能を正常に保っています。

 

また、甲状腺機能が低下した場合でも、ヨード(ヨウ素)の過剰摂取などが原因であれば回復することもあります。しかし一度甲状腺機能が低下すると、多くの方が一生涯にわたり甲状腺ホルモンの補充が必要となります。

 

橋本病の歴史について

橋本病の名前の由来は、日本人医師の橋本策(はかる)先生が1912年にドイツの医学誌で報告した研究にあります。

 

この報告では、唾液腺や涙腺がびまん性に腫大するミクリッツ病に類似した甲状腺組織の病態が記述されました。しかし、この発表は当時の日本国内ではあまり注目されませんでした。

 

その後、1931年にアメリカのアレン・グラハムらが「Atrophy and fibrosis associated with lymphoid tissue in the thyroid. Struma lymphomatosa(Hashimoto)」という論文を Archives of Surgery 誌に発表したことで、この疾患が広く知られるようになります。(https://jamanetwork.com/journals/jamasurgery/article-abstract/540416)

 

これをきっかけに、欧米の医学書に「Hashimoto disease」として記載され、世界的に認められる疾患となりました。

 

橋本病の原因について

橋本病は自己免疫の異常によって生じる疾患ですが、同じく自己免疫性甲状腺疾患であるバセドウ病と同様に、その具体的な原因はまだ完全には解明されていません。

 

遺伝的要因や環境要因(ストレス、感染症、妊娠など)、さらにヨードの過剰摂取(昆布、イソジン、造影剤など)が関与していると考えられています。

 

橋本病の診断方法

日本甲状腺学会の慢性甲状腺炎(橋本病)の診断ガイドラインによると、臨床所見で甲状腺がびまん性に腫大もしくは萎縮があり(バセドウ病などは除く)、かつ以下の3つのうち1つ以上認める場合を「橋本病」と診断されます。

①抗TPO抗体(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)が陽性であること

②抗サイログロブリン抗体陽性が陽性であること

③細胞診でリンパ球浸潤を認めること

 

ただし、橋本病の診断のために細胞診を行うことはほとんどありません。代わりに甲状腺エコー検査を行い、甲状腺の内部が黒っぽくなったり、色にムラが見られる場合に橋本病の可能性が高いと判断されます。

 

 

橋本病の症状について

橋本病では、甲状腺が腫れて頚部の違和感や圧迫感などが生じることもありますが、甲状腺機能が正常な方の多くは無症状であることがほとんどです。

 

一方、甲状腺の細胞が破壊され甲状腺機能低下症を発症すると、全身の代謝が低下します。

 

その結果、疲れやすさ、倦怠感、むくみ、体重増加、寒がり、便秘、抜け毛などの症状が現れます。さらに、女性では月経不順や月経過多の原因となることがあります。

 

また、高齢者では記憶力の低下により、誤って認知症と判断される場合もあります。

 

橋本病の治療について

橋本病の多くの方は甲状腺機能が正常なため、治療の必要はありません。

 

潜在性甲状腺機能低下症(軽度の甲状腺機能低下症)の場合も、原則として治療は不要です。ただし、妊娠を希望する女性や妊娠中の女性については例外とし、治療が検討されます。

 

一方、FT4が低下する顕性甲状腺機能低下症や、TSH(甲状腺刺激ホルモン)が10 µU/ml以上の場合、または高コレステロール血症を伴う場合には、チラージンS(レボチロキシン)による治療を検討します。

 

また、当クリニックのブログ「昆布はたくさん食べると甲状腺に悪影響というのは本当?」でも述べましたが、造影剤による検査やイソジンうがい薬(ヨードうがい薬)、昆布の過剰摂取は甲状腺機能低下を引き起こす可能性があるため注意が必要です。

 

 

まとめ

橋本病の患者さんの中には甲状腺機能低下症を発症する方もいますが、適切な治療を受ければ日常生活に大きな支障なく過ごせます。

 

また、橋本病は症状や進行の程度に個人差があるため、甲状腺機能が正常な場合でも、6か月から1年に1回の定期的な検査をおすすめします。

 

橋本病に関する不安や疑問がありましたら、専門医のいる当クリニックまでお気軽にご相談ください。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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