- 2025年10月25日
- 2025年10月4日
インフルエンザ対策2025 ワクチン接種の重要性について
昨年の冬、インフルエンザはかつてない規模で流行し、厚生労働省の集計では1医療機関あたりの患者数が過去最多となる64.39人に達しました。当クリニックも例外ではなく、連日多くの患者さんが受診されました。

(出典:NHKニュース)
このとき特に印象に残ったのは、流行が始まってから慌ててワクチンを接種されたものの、接種直後に発症してしまう患者さんが少なくなかったことです。
インフルエンザワクチンは接種してすぐに効果を発揮するわけではなく、効果が現れるまでにおよそ2週間、さらに1か月ほどで最大の効果に達します。
そのため、流行の波が押し寄せてから接種しても、十分に防御効果が得られる前に感染してしまうリスクが高くなるのです。 こうした経験を踏まえると、何より早めの接種が重要です。
そこで本ブログでは、インフルエンザワクチンの効果や限界、持続性に関する科学的根拠を交えながら、なぜ早めにワクチン接種をお勧めするかについて解説していきます。

インフルエンザワクチンについて
インフルエンザワクチンによる予防接種は、アメリカでは1940年代から、日本では1962年から導入されています。
このワクチンは残念ながら発症を完全に防ぐことはできません。しかし、多くの研究で示されているのは、接種によって発症リスクを下げられるだけでなく、たとえ感染した場合でも重症化や入院、さらには死亡を抑える効果があるという点です。
厚生労働省のまとめによれば、65歳以上の高齢者施設入所者では、ワクチン接種により発病が約34〜55%減少し、死亡率は実に約82%も低下するとされています。
また、2016年に The Lancet 誌に掲載された論文では、有効率には年ごとに差があるものの、60歳以上の高齢者で約24~63%、20~59歳の成人で約35~74%、20歳未満の若年層で約43~69%と報告されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27061888)
このように、インフルエンザワクチンの意義は「かからないため」だけではなく、「かかっても重症にならないため」にあります。
実際に、昨年当クリニックを受診された患者さんの中にも、接種をしていたことで症状が比較的軽く済んだ方が多くいらっしゃいました。特に高齢者や基礎疾患をお持ちの方にとって、インフルエンザワクチンは命を守る大切な手段となります。
インフルエンザワクチンはいつ打つべきか?
インフルエンザワクチンの効果を最大限に活かすためには、接種のタイミングが非常に重要です。接種後に体内でつくられる抗体は、時間の経過とともに徐々に低下し、一般的に5か月ほど経つと効果が半減するといわれています。
したがって、あまりに早く接種してしまうと流行のピーク時には効果が弱まってしまう可能性があります。一方で、遅すぎると免疫が十分に完成する前に感染が拡大し、流行の波に巻き込まれてしまうリスクがあります。
実際に昨年の流行状況からも明らかなように、12月以降の接種では間に合わないケースが少なくありません。
さらに注意すべき点は、インフルエンザは毎年流行するウイルス株が異なり、変異のスピードも速いということです。
ワクチンと流行株との一致度によって予防効果には差が出ることがあり、とくにA型H3N2株(いわゆる香港型)は抗原変異が頻繁に起こるため、効果が十分に得られにくい年もあります。
それでもなお、ワクチンの接種には大きな意味があります。発症そのものを完全に防げない場合でも、重症化や入院を防ぐ効果は一貫して確認されており、高齢者や基礎疾患を持つ方にとって命を守る重要な手段であることに変わりはありません。
インフルエンザワクチンの安全性について
近年、ワクチンの安全性に注目が集まっていることから、インフルエンザワクチンについてもご説明いたします。
接種後によくみられる副反応としては、接種部位の赤みや腫れ、軽い発熱、倦怠感などがあります。これらの症状は通常2〜3日以内に自然に改善します。
重い副反応はきわめて稀ですが、アナフィラキシーのような強いアレルギー反応が起こる可能性が全くないわけではありません。
そのため、特に初めてインフルエンザワクチンを接種される方には、一定時間院内で様子を見ていただくようお願いしています。
総合的にみれば、インフルエンザ感染による重症化や合併症のリスクの方がはるかに大きく、ワクチンの安全性は十分に確立されています。そのため、安心して接種を受けていただけるといえるでしょう。
まとめ
昨冬、接種のタイミングを逃してしまった方々からは「もっと早く打っておけばよかった」という声を少なからずいただきました。
インフルエンザは個人の問題にとどまらず、家庭や社会全体に影響を及ぼす疾患です。今年は一人ひとりが早めに準備を整えることが、昨年のような大流行を防ぐことにつながります。
2025年のシーズンが始まろうとしている今、昨年の大流行を教訓に計画的にインフルエンザに対する予防を進める時期です。
また、ワクチン接種はもちろん重要ですが、それだけでは十分ではありません。日常生活での基本的な対策、特に「手洗い」と「うがい」が感染予防の大きな力になります。
手洗いについては、以前のブログ「当院における感染症対策と予防接種について」で詳しく解説しましたが、石鹸をよく泡立て、手のひらや手の甲だけでなく、指先や指の間、手首まで丁寧に洗うことが大切です。
さらに、アルコールによる手指消毒を併用するとより効果的です。うがいについては、少なくとも1日2回以上行うと良いでしょう。
ワクチン接種とこうした基本的な予防対策を組み合わせることで、より安全に感染症から身を守ることができます。

なお、当クリニックでのインフルエンザワクチン接種は今年も3,000円で行っています。生後6か月から中学3年生までは中野区の一部助成により自己負担額が1,000円、65歳以上の方、もしくは60〜64歳で心臓・腎臓・呼吸器・免疫機能のいずれかに身体障害者手帳1級相当の障害がある方は2,500円で接種可能です。
早めの接種と日常の感染対策で、今年の冬も安心して過ごしましょう。
(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)
