• 2023年11月15日

日本でしか使用できないツイミーグ(イメグリミン)の魅力

2023年11月12日から11月18日は糖尿病週間です。本日は糖尿病週間ということもあり、前回に引き続き糖尿病に関連するテーマでお話させていただきます。今回は糖尿病治療薬のツイミーグ(イメグリミン)の魅力についてお話させていただきます。

 

(出典:東京都)

 

現在、糖尿病の内服薬は全部で9種類ありますが、ツイミーグはその中で最も新しい薬剤で、2021年9月16日に発売されました。そして2023年11月現在、日本でのみ使用できる薬剤です。

 

そうなると、ツイミーグはメイドインジャパンのように思われるかもしれませんが、これはフランスのポクセル社が開発し、日本の製薬メーカーと連携して臨床研究を行い、製造販売にこぎつけた薬剤です。

 

ツイミーグは、糖尿病の内服薬であるメトグルコ(メトホルミン)の重篤な副作用である乳酸アシドーシスを回避することを目的に開発されました。そのため、下図に示すようにツイミーグはメトグルコと非常に類似した構造を有しています。この類似性により、ツイミーグはメトグルコと一部で同様の作用を有していますが、同時にメトグルコには見られない独自の作用もあります。

 

(出典:糖尿病ソースガイド)

 

主に4つの作用があり、これについてわかりやすく説明いたします。

 

1つ目は、インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬など)で認められる、血糖値が高くなるほど多くのインスリンを分泌する効果です。ツイミーグが膵臓のβ細胞のミトコンドリアに作用し、細胞内のエネルギー代謝に関与するNAD+という補酵素を増加させることで、インスリン分泌が促進されると報告されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25694060

 

つまり、血糖値が低い時にはあまりインスリン分泌を促進しないため、ツイミーグ単剤で治療している場合は低血糖のリスクが非常に少ないとされています。また、インクレチン関連薬と同様、食後の血糖上昇を抑え、血糖変動を少なくすることが期待されます。

 

低血糖のリスクを軽減し、血糖変動を抑制することは、以前のブログ「血糖変動とHbA1cについて」でも触れましたが、このことは糖尿病合併症のリスク低減にとって非常に重要です。

 

2つ目は、体内のインスリンを生成する膵臓のβ細胞を保護する作用があり、これは類似薬のメトグルコにはない特有の作用です。ツイミーグが細胞内のミトコンドリアに作用し、活性酸素の産生を減少させることで、インスリンを作る膵臓のβ細胞を守るのです。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27551496

 

また、マウスを用いた研究では、ツイミーグの投与によって膵臓のβ細胞が増加したとの報告もあります。この結果から、ツイミーグが糖尿病や加齢に伴うインスリン分泌の低下を防ぎ、インスリン治療が必要な人を減らす可能性があります。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34588186)

 

3つ目は、筋肉や肝臓など、血糖を取り込む臓器においてインスリンの効果を高める効果、つまりインスリン抵抗性を改善させます。この作用により、筋肉や肝臓などが糖をより効果的に取り込むことが可能となり、その結果として血糖値が低下します。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25552598

 

4つ目は、類似薬のメトグルコでも認められる肝臓での糖新生(糖質以外の物質からグルコースを合成)を抑える働きです。これにより、体内での糖の生成が減少し、血糖値が低下します。

 

以上4つの作用を総合すると、以下の図に示す通りです。

 

(引用:新薬情報オンライン)

 

この中で特に注目すべき作用は、膵臓のβ細胞数の増加です。2型糖尿病は、膵臓のβ細胞数とその機能が徐々に減少していく進行性の病気であり、完治することのない特徴があります。ツイミーグはこの問題を改善できる可能性があるという点で画期的です。

 

しかし、2型糖尿病と診断されてから長い時間が経過している方の場合、膵臓のβ細胞数とその機能はすでに低下している可能性が高いため、ツイミーグのこのような作用の利点をあまり享受できない可能性があります。そのため、2型糖尿病と診断され、まだそれほど時間が経過していない(インスリン分泌が比較的保たれている)段階で、最初に使用する糖尿病治療薬としてツイミーグを選択するのも良いと思います。

 

ただし、ツイミーグにはいくつかの欠点があります。まずは、ツイミーグとメトグルコを同時に内服すると副作用が生じやすいことが挙げられます。日本人を対象に行った臨床研究(TIMES 2試験)では、この2剤併用が原因で25%の患者に胃腸障害(悪心や下痢など)が生じたと報告されています。(https://dom-pubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/dom.14613)

 

メトグルコは、欧米のガイドラインではまず初めに使用すべき薬剤(第一選択薬)として推奨されており、日本の糖尿病患者さんでも広く使用されています。そのため、メトグルコをすでに内服している患者さんには、新たにツイミーグを追加しづらいのが現状です。

 

また、腎臓の機能が低下している患者さんには使用が制限されます。ツイミーグは腎臓から排泄される薬剤であり、腎機能が悪い場合に使用するとツイミーグの血中濃度が過剰に上昇する可能性があります。そのため、腎機能の評価に使う指標であるeGFR(推算糸球体濾過量)が45未満の方に対しては使用が禁忌ではないものの、推奨されていないという点が欠点と言えます。

 

さらに日本でしか使用されていない新薬ということもあり、現時点では長期的な安全性については分からないという問題もあります。 以上のことから、ツイミーグは他の糖尿病治療薬にはない作用を持つことから大変魅力的ですが、現時点ではその使用は限定的になります。ただし、今後世界中での使用が拡大され、ツイミーグの安全性と有効性がより明らかになれば、糖尿病治療の中核的な薬剤になる可能性は大いになるでしょう。

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