• 2024年3月31日

高血圧症の原因として見逃せない!原発性アルドステロン症について解説

中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の院長の大庭健史です。中野区で生活習慣病・内分泌疾患(甲状腺疾患など)を専門に診療しています。

 

今回は、あまり知られていない「原発性アルドステロン症」という内分泌疾患による高血圧症について、内分泌代謝科専門医が詳しく解説します。

 

 

原発性アルドステロン症とは

アルドステロンというホルモンは副腎皮質から分泌され、ナトリウムを体内に溜めるように働くことで循環血液量を増やして血圧を上昇させます。通常アルドステロンの分泌は、腎臓の傍糸球体細胞が腎血流量の低下などを感知することでレニンというホルモンが分泌されることで調整されています。

 

 

しかし、原発性アルドステロン症の場合は、副腎皮質から何らかの原因でアルドステロンがレニンでの調節を受けずに過剰に分泌されてしまいます。その結果として、体内にナトリウムが過剰に貯留することで血圧は上昇し、レニンの分泌は抑制されます。また、低カリウム血症を伴うことが多いのがこの疾患の特徴になります。

 

原発性アルドステロン症は、2005年にアメリカ心臓病学会誌で報告された研究によると、本態性高血圧症と比較して脳卒中のリスクが約4.2倍、非致死性心筋梗塞が約6.5倍、心房細動が約12.1倍と報告されています。(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0735109705002184?via%3Dihub)

 

そのため高血圧症と診断された方は、一度アルドステロンとレニンについて検査することが大切です。

 

原発性アルドステロン症は珍しい病気?

原発性アルドステロン症は、決して珍しい病気ではありません。この疾患は、本態性高血圧症を除く高血圧症の中で最も多く認められる疾患です。

 

以前は高血圧患者さんに占める割合は約1%と考えられていましたが、最近では全ての高血圧症患者さんに対してスクリーニング検査することが推奨されるため、高血圧症患者さんの約5~10%が原発性アルドステロン症と推定されています。

 

特に重症高血圧症患者さんの中では、その割合がさらに多くなると考えられています。

 

原発性アルドステロン症と診断するには?

原発性アルドステロン症と本態性高血圧症を区別するには血液検査が必須になります。先ほどお話したアルドステロンとレニンという2つのホルモンを検査する必要があります。

 

この検査で、[アルドステロン]÷[レニン活性]≧100以上(施設によっては200以上)かつ血中アルドステロンが60 pg/mL以上で原発性アルドステロン症疑いとなります。

 

原発性アルドステロン症疑いとなった場合は、負荷試験という精密検査を行います。当クリニックでは、原発性アルドステロン症関連の負荷試験を実施していないため、連携している大学病院などにご紹介しています。次の項目で、負荷試験について具体的にお話させていただきます。

 

原発性アルドステロン症と診断するための負荷試験について

原発性アルドステロン症疑いとなった方は、まずは外来でカプトプリル負荷試験という検査を行うのが一般的です。

 

カプトプリル負荷試験は、効き目が短いために現在では治療薬としてはほとんど用いられないカプトプリルという降圧薬を内服して、その後60分後と90分後にレニンとアルドステロンを測定する検査になります。

 

この検査で、[アルドステロン]÷[レニン活性]≧100以上(施設によっては200以上)であれば陽性と判断し、原発性アルドステロン症と診断します。ただしこの検査だけで原発性アルドステロン症を否定することはできず、この検査で陰性の場合は生理食塩水負荷試験を実施することが一般的です。

 

生理食塩水負荷試験は、4時間の間に生理食塩水を点滴で2 L投与した後にアルドステロンを測定する検査になります。この負荷試験は生理食塩水を短時間で大量に投与するため、検査後の心不全などのリスクがあるため入院して検査を行うのが一般的です。

 

この検査で、アルドステロン≧12以上(施設によっては60以上)であれば原発性アルドステロン症と診断し、そうでなければ原発性アルドステロン症ではないと診断するのが一般的です。 また、施設によってはフロセミド立位負荷試験、経口食塩負荷試験、迅速ACTH負荷試験などを実施して診断することもあります。

 

原発性アルドステロン症と診断されたら?

原発性アルドステロン症と診断されても、まだ検査が必要になる場合があります。それは、原発性アルドステロン症は副腎腫瘍が原因となるアルドステロン産生腺腫と、両側副腎過形成による特発性アルドステロン症に分類することができ、この2つの疾患で治療法が少し異なるからです。

 

アルドステロン産生腺腫は、特発性アルドステロン症と比較してより治療抵抗性の高血圧と低カリウム血症を伴っていることが多いですが、手術を行えば高血圧症が完治する場合があります。

 

そのため画像検査で副腎腫瘍が確認されている場合、手術を希望される方にはその腫瘍がアルドステロンを過剰に産生しているかを調べるために、副腎静脈サンプリングという検査を行います。

 

副腎静脈サンプリングは、足の付け根からカテーテルを挿入し、大腿静脈から両側の副腎静脈にカテーテルを進め、そこから血液を採取する検査になります。副腎静脈はとても細い血管のため、この検査は技術的にとても難しく、施設によって診断成功率に差がでる検査になります。

 

そのため、当クリニックではアルドステロン産生腺腫を疑う患者さんには、副腎静脈サンプリングを得意としている施設に紹介するようにしています。

 

原発性アルドステロン症の治療について

特発性アルドステロン症は手術が最善ですが、それを希望されない方と特発性アルドステロン症の方は、薬物治療が基本になります。

 

本態性高血圧症の場合、一般的にはカルシウム拮抗薬(アムロジピンやニフェジピンなど)やARB(アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬:テルミサルタンやアジルサルタンなど)などが使用されます。

 

しかし原発性アルドステロン症では、これらの薬剤だけでは脳卒中や非致死性心筋梗塞などのリスクを抑える効果は乏しいとされています。そのため、この疾患の場合はミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MR拮抗薬:エサキセレノンやエプレノノンなど)による薬物療法が基本になり、レニン活性が1 ng/mL/hr以上になるように治療を行うのが良いとされています。

 

最後に

ご自身の高血圧が、本態性高血圧症なのか、それとも原発性アルドステロン症を含む二次性高血圧症なのかを知っておくことはとても重要です。まだ正確な診断を受けていない方は、主治医または当クリニックに相談することをおすすめします。

 

ただし、MR拮抗薬、ARB、ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)、β遮断薬、利尿薬などを内服されている場合は、一度服薬を中止してから検査する必要があります。

 

また、原発性アルドステロン症以外の二次性高血圧症については、当クリニックのホームページの「高血圧症」をご覧ください。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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