- 2025年1月27日
2024年12月27日に製造販売承認された肥満症治療薬ゼップバウンドとは
東京都中野区にある「中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科」院長の大庭健史です。私は、内分泌代謝科専門医および糖尿病専門医として診療を行っています。
当クリニックホームページの「生活習慣病」でも取り上げている肥満症治療薬、GIP/GLP-1受容体作動薬「ゼップバウンド(チルゼパチド)」が、2024年12月27日に製造販売承認されました。
これにより、2025年中には薬価収載を経て発売されることが予想されます。仮に2025年にゼップバウンドが発売される場合、2024年に発売された「ウゴービ(セマグルチド)」に続き、2年連続で肥満症治療薬の新薬が登場することになります。
ゼップバウンドは、もともと2型糖尿病治療薬として開発された「マンジャロ(チルゼパチド)」を肥満症患者向けに適応拡大した薬剤です。
この薬は、マンジャロと同様に週1回の注射となります。最大容量の15mgを使用した場合、ゼップバウンドを使用しないコントロール群と比較して、72週で体重が約20.1%減少することが確認されています。この結果は、世界的に権威のある医学雑誌「The New England Journal of Medicine」に報告されています。(https://www.nejm.jp/abstract/vol387.p205)
(出典:N Engl J Med 2022; 387: 205-216)
また国内で実施された臨床試験(SURMOUNT-J試験)では、ゼップバウンドの最大容量である15mgを使用した場合、使用していないコントロール群と比較して、72週で体重が約21%減少するという結果が報告されています。
さらに、2型糖尿病患者にゼップバウンドと同じ成分である「マンジャロ」を使用した場合、既存のGLP-1受容体作動薬と比較して以下の効果が確認されています:
・全死亡率を約42%減少
・主要心血管イベント(MACE)を約20%減少
・急性腎障害を約22%減少
・腎イベントを約48%減少
これらの優れた治療成績を示したゼップバウンド(マンジャロ)は、これまで2型糖尿病患者を除けば瘦身クリニックなどで自費診療でしか使用できませんでした。
しかし、早ければ2025年中には保険適用のもと、一般的な医療機関で使用されるようになることが期待されています。ただし、ゼップバウンドは単なるダイエット目的では使用できません。
高血圧症、脂質異常症、または2型糖尿病のいずれかを有する肥満症があり、かつ食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られない人のうち、BMIが35 kg/m2以上、もしくは以下の示す肥満に関連する健康障害を2つ以上有する BMIが27 kg/m2以上がゼップバウンド使用の対象になります。
・耐糖能障害 (2型糖尿病、耐糖能異常)
・脂質異常症(高脂血症)
・高血圧症
・高尿酸血症(痛風も含む)
・冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)
・脳梗塞または一過性脳虚血発作
・非アルコール性脂肪性肝疾患
・月経異常または女性不妊
・閉塞性睡眠時無呼吸症候群または肥満低換気症候群
・運動器疾患(変形性関節症:膝・股関節・手指関節、変形性脊椎症)
・肥満関連腎臓病
しかし、基準を満たしている方がゼップバウンドを直ちに使用できるわけではありません。ゼップバウンドは、類似薬である肥満症治療薬「ウゴービ」と同様に、最適使用推進ガイドラインを満たす医療機関でのみ使用可能と想定されます。
このガイドラインを満たす医療機関とは、肥満症治療に関連する学会(日本内分泌学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会)の専門医が常勤している教育研修施設を指し、多くの場合、大学病院などの大規模医療機関に限られる可能性が高いとされています。
以上のことから、仮に2025年にゼップバウンドが発売されても、クリニックで保険診療として処方することは難しいと考えられます。
当クリニックには日本内分泌学会および日本糖尿病学会の専門医が在籍しておりますが、教育研修施設の基準を満たしていないため、ゼップバウンドを処方できる可能性は低いと見込んでいます。
当クリニックでは、肥満症治療薬による治療を希望される患者さんに対し、薬剤の使用が適切かどうかを慎重に判断しています。そのうえで必要に応じて、肥満症治療薬の処方が可能な大規模医療機関をご紹介しております。
ゼップバウンドとウゴービのどちらを使用するかについては、大規模な医療機関の担当医が判断することになりますが、私はゼップバウンドの使用を推奨します。
その理由として、現時点(2025年1月)ではゼップバウンドとウゴービを直接比較した研究は存在しませんが、それぞれの臨床試験データや薬剤の作用機序を総合的に考慮すると、ゼップバウンドの方がより体重減少効果があると推測されるからです。
ただし、仮に2025年にゼップバウンドが発売された場合でも、薬価収載後約1年間は2週間分の薬剤しか処方できない制約があります。
そのため、現在肥満症治療薬による治療を希望される方には、ゼップバウンドの発売や長期処方の開始を待たず、ウゴービを用いた治療を受けることをおすすめします。
また肥満症治療薬を使用する場合でも、食事療法を怠ることはできません。食事療法が守れない場合、治療薬を使用しても十分な効果が得られないことがあります。そのため、正しい食事療法を実践することが肥満症治療の成功には欠かせません。
当クリニックでは、リバウンドしやすい過度な糖質制限ではなく、摂取カロリーの制限を推奨しています。理想的な1日の摂取カロリーは理想体重(=22×[身長m]2)×25(kcal)以下ですが、それが難しい場合はまずは理想体重×27.5(kcal)以下を目指しましょう。
例えば身長が165 cmの方の場合、1日の摂取カロリーは約1500 kcal(≒1.65×1.65×22×25)となり、1食あたりの摂取カロリーは約500 kcalとなります。肥満症の方は、このようにして決められた摂取カロリーを意識して食事をすることが大切です。
最後に、治療が難しいとされる肥満症に対し、GIP/GLP-1受容体作動薬「ゼップバウンド」が治療の選択肢として加わることは非常に喜ばしいことです。
さらに、ゼップバウンドを上回る効果が期待されるGIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬「レタトルチド」の臨床研究も進行中です。
今後、肥満症治療薬の選択肢がさらに充実し、クリニックでもこれらの薬剤を処方できる日が訪れることを心から期待しています。
(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)