• 2025年3月31日
  • 2025年3月29日

2025年4月11日発売の肥満症治療薬ゼップバウンドについて解説!

東京のJR中野駅南口からすぐの場所にある「中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科」の院長、大庭健史です。私は、糖尿病専門医および内分泌代謝科専門医として診療を行っています。

 

当クリニックのブログ 「2024年12月27日に製造販売承認された肥満症治療薬ゼップバウンドとは」でも取り上げた GIP/GLP-1受容体作動薬「ゼップバウンド」 が、いよいよ2024年4月11日に発売されることになりました。

 

さらに、すでに2025年3月18日には、ゼップバウンドに関する最適使用推進ガイドラインが公表され、対象となる患者さんや処方可能な医療機関が明確になりました。

 

そこで今回は、肥満症治療を大きく変える可能性のあるゼップバウンドについて、詳しく解説していきます。

 

(出典:田辺三菱製薬ホームページ)

 

ゼップバウンドとは

ゼップバウンドは、2022年6月にアメリカで発売され、日本では2023年4月に発売された2型糖尿病治療薬「マンジャロ(チルゼパチド)」の適応を、肥満症患者向けに拡大した薬剤です。

 

この薬剤は、主に小腸から分泌されるGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)のペプチド配列をベースに開発されました。

 

さらに、GIP受容体だけでなくGLP-1受容体にも長時間作用する特性を持っています。 その結果、血糖改善効果や体重減少効果は、ウゴービを含む既存のGLP-1受容体作動薬を上回るとされています。

 

次に、ゼップバウンドの臨床試験の結果について詳しく解説していきます。

 

ゼップバウンドの臨床試験の結果について

アメリカのイェール大学のJastreboffらが実施した大規模臨床研究(SURMOUNT-1)によると、治療開始から72週後の体重変化量は、食事療法と運動療法のみを行ったプラセボ群では3.1%の減少にとどまりました。

 

一方で、ゼップバウンドを使用した群では、5 mg投与群で15.0%、10 mg投与群で19.5%、15 mg投与群で20.9%の体重減少が認められました。

 

 

また、体重5%以上の減量を達成した割合は、プラセボ群が34.5%だったのに対し、5 mg群は85.1%、10 mg群は88.9%、15 mg群は90.9%と有意な改善を認めました。

 

さらに、体重20%以上の減量を達成した割合は、プラセボ群が3.1%だったのに対し、5 mg群は30.0%、10 mg群は50.1%、15 mg群は56.7%と有意な改善を認めました。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2206038)

 

 

SURMOUNT-1研究は優れた成果を示しましたが、対象となった患者のほとんどが欧米人であり、研究参加者の平均体重は104.8 kg、平均BMIは38.0 kg/m²でした。そのため、高度肥満症の少ない日本人において同様の有効性が発揮されるかは不明でした。

 

この疑問に応えるために実施されたのが、日本人の肥満症患者さんを対象とした「SURMOUNT-J研究」です。

 

この研究では、治療開始から72週後の体重変化量を比較したところ、プラセボ群では1.7%の減少にとどまりましたが、ゼップバウンド10 mg投与群では17.8%、15 mg投与群では22.7%の減少が認められました。

 

 

また、体重5%以上の減量を達成した割合は、プラセボ群で20.0%だったのに対し、10 mg群では94.4%、15 mg群では96.1%と有意な改善が見られました。

 

さらに、体重20%以上の減量を達成した割合は、プラセボ群では0.0%だったのに対し、10 mg群では39.4%、15 mg群では64.5%と、大幅な改善が確認されました。(https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2213858724003772)

 

 

これらの結果から、ゼップバウンドは欧米人だけでなく日本人に対しても有効であることが示されました。そのため、本剤は日本でも製造承認され、4月11日より発売されることになりました。

 

ゼップバウンドが使用できる方は?

ゼップバウンドを使用できる方は、昨年発売されたウゴービ(セマグルチド)と同様となります。

 

高血圧、脂質異常症、又は2型糖尿病のいずれかを有する肥満症があり、かつ食事・運動療法を行っても十分な効果が得られない20歳以上のうち、高度肥満症(BMI≧35 kg/m2)、もしくは以下の示す肥満に関連する健康障害を2つ以上有する BMI≧27 kg/m2がゼップバウンド使用の対象になります。

・耐糖能障害 (2型糖尿病、耐糖能異常など)

・脂質異常症

・高血圧

・高尿酸血症、痛風

・冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)

・脳梗塞、一過性脳虚血発作

・非アルコール性脂肪性肝疾患

・月経異常、女性不妊

・閉塞性睡眠時無呼吸症候群、肥満低換気症候群

・運動器疾患(変形性関節症、変形性脊椎症)

・肥満関連腎臓病

 

ゼップバウンドを処方できる医療機関は?

ゼップバウンドは、先に述べた最適使用推進ガイドラインを満たす医療機関でのみ処方が可能です。

 

具体的には、高血圧、脂質異常症又は 2 型糖尿病を有する肥満症の診療に関連する学会(日本内分泌学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会)のいずれかから教育研修施設として認定されるなどの条件があるため、大学病院などの大規模医療機関に限られます。

 

当クリニックではゼップバウンドを処方できませんが、2型糖尿病の方には必要に応じてマンジャロを処方し、それ以外の方については医療連携を結んでいる高度医療機関へご紹介いたします。

 

ゼップバウンドを使用すべき人は?

ゼップバウンドは、新薬のため発売から約1年間は2週間分しか処方できません。

 

また、類似薬であるウゴービが既に使用可能であることを考慮すると、今すぐゼップバウンドで治療を開始すべき患者さんは限られると考えられます。

 

私個人の見解ですが、まずは半年以上にわたる栄養指導を受け、それでも改善が見られない場合にウゴービによる治療を検討するのが適切でしょう。

 

そのうえで、ウゴービを使用しても十分な効果が得られなかった肥満症患者さんに対して、ゼップバウンドの使用を検討すべきと考えます。

 

ゼップバウンドの発売による期待と課題

ウゴービに加えて、より高い体重減少効果が期待されるゼップバウンドが発売されることは、肥満症で悩む方々にとって非常に喜ばしいニュースです。

 

また、アメリカでは2024年12月から、ゼップバウンドが中等度から重度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群を伴う肥満症の治療にも使用可能となりました。今後、日本においても睡眠時無呼吸症候群の新たな治療選択肢として加わる可能性があります。

 

しかしながら、有効性の高い肥満症治療薬であるにもかかわらず、ゼップバウンドが大規模医療機関でのみ処方可能な現状は非常に残念です。

 

当クリニックのような、肥満症を含む生活習慣病を専門とするクリニックでも処方が可能になり、患者さんが大規模医療機関へ行かずとも治療を受けられる環境が整うことを期待します。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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