- 2025年9月30日
- 2025年7月17日
肥満症にはどれくらいの運動が必要? ─ 2024年の注目研究から読み解く
中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の院長、大庭健史です。
当クリニックには、生活習慣病を専門とする特性から、肥満および肥満症の患者さんが多く来院されます。肥満症に対する治療では、食事療法と運動療法が基本となります。
このうち食事や運動の具体的な進め方については、以前のブログ「肥満症の食事療法と運動療法について専門家が分かりやすく解説」でご紹介しました。
今回は、最新の臨床研究をもとに、特に“運動療法”に焦点を当てて、その重要性と実践のポイントについてあらためてお伝えしたいと思います。

なぜ「運動」が大事なのか?
肥満症は、糖尿病・高血圧症・脂質異常症などの生活習慣病を引き起こす一因であり、さらに心筋梗塞や脳卒中、がんなどの重大な病気のリスクを高めることが知られています。
特に注意が必要なのは、体重の増加そのものよりも「内臓脂肪」が増えることで、これが深刻な健康被害を引き起こすことが分かっています。
こうした背景から、肥満を改善するためにまず最も大切なのは「食事の見直し」ですが、その次に重要なのが「運動」になります。
運動には、体脂肪や内臓脂肪を減らす効果だけでなく、基礎代謝を高めたり、体力や気分を改善したり、減量後の体重を維持しやすくするなど、さまざまな健康効果が期待できます。
ただ、「どのくらい運動すれば、こうした効果がしっかり得られるのか?」という点については、これまでの研究では明確な答えが得られていませんでした。
そこで参考になるのが、2024年に発表された世界中の研究結果をまとめて分析した最新の報告です。この報告では、信頼性の高いデータに基づき、多くの人にとって現実的かつ継続しやすい運動量の目安が示されています。
大規模臨床研究が示す「運動量と効果」の関係
2024年に発表されたこの大規模な臨床研究では、肥満や過体重の成人6,880人(平均年齢46歳、女性61%)を対象とした116件のランダム化比較試験の結果を統合し、運動量と体重・体脂肪・ウエスト周囲径との関係が詳しく分析されました。
この研究によると、有酸素運動を週あたり30分増やすごとに、体重は平均で約0.52kg減少し、腹囲は0.56cm縮小、体脂肪率は0.37%減少することが明らかになりました。
さらに、内臓脂肪の面積は平均1.60cm²、皮下脂肪の面積は1.37cm²、それぞれ減少しており、運動量の増加がさまざまな脂肪指標にわたって効果をもたらすことが分かっています。

(出典:JAMA Netw Open. 2024)
また、運動時間を最大300分/週まで増やすことで、体重や腹囲、脂肪量は直線的にさらに減少していきます。
たとえば、週150分の有酸素運動で体重は平均2.8kg減少し、週300分ではおよそ4.2kgの減少が見込まれると報告されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39724371)
最新の大規模研究で明らかになった、肥満症に効果的な運動療法
この研究では、運動による体重・体脂肪・ウエストの改善効果が科学的に示されました。これを踏まえ、肥満症の方が無理なく、そして効果的に取り組める運動プログラムについて、5つのステップでご紹介します。
ステップ1: まずは「週150分」の有酸素運動から始めましょう
ウォーキングや軽いジョギング、サイクリング、水中ウォーキングなど、“中強度”の有酸素運動を、1日30分×週5日、合計150分を目標に始めてみましょう。これだけでも体重や腹囲、体脂肪にしっかりとした効果が見られます。

ステップ2: 慣れてきたら「週300分」にチャレンジ
より高い効果を目指したい方は、週300分(1日60分×週5日)を目安に運動量を増やしてみましょう。研究によれば、これにより体重は約4 kg減少、体脂肪率は約2%低下、ウエストは平均5 cm縮小するという結果が得られています。体力に応じて、少しずつステップアップしていきましょう。
ステップ3: レジスタンス運動(筋力トレーニング)も取り入れると効果アップ
今回の研究では主に有酸素運動が検討されましたが、筋力トレーニングを併用することで筋肉量を保ち、基礎代謝を高めたり、リバウンドの予防にもつながります。週2〜3回、スクワットや腹筋、ゴムバンドを使ったトレーニングなども取り入れてみましょう。

ステップ4: 続けることが一番大切です
運動は一時的でなく、続けることに意味があります。特別な時間を作らずとも、日常生活に取り込む工夫がポイントになります。通勤時に歩く、階段を使う、家事をしながら意識的に体を動かすなど、日常に“運動の種”を散りばめてみましょう。
ステップ5: ケガや痛みに注意しながら無理なく進める
急に運動量を増やすと、膝や腰を痛めるリスクがあります。違和感や痛みがあれば無理をせず、医師や理学療法士に相談してください。自分に合ったペースで進めることが、運動を長く続けるコツです。
最後に:自分らしく続けられる運動を
「運動」と聞くと、「きつい」「大変」と感じる方も多いかもしれません。けれども大切なのは、自分に合った“楽しく続けられる”運動を見つけることです。
たとえば、自然の中をゆっくり歩く、好きな音楽をかけながら体を動かす、家族と一緒にラジオ体操をする――そんなちょっとした工夫が、運動を習慣に変える大きな一歩になります。
今回ご紹介した研究は、世界中の信頼性の高いデータをまとめて分析した、根拠に基づく信頼性の高い報告です。この結果から、運動の“量”や“質”によって、体重・体脂肪・ウエストの減少効果が異なることが、よりはっきりと示されました。
ただし、運動だけで体重を落とすことは難しく、肥満症治療の基本はあくまで「食事療法」です。まずは日々の食べ方を見直すことが、治療の第一歩となります。
当クリニックでは、隔週月曜日の午後に、管理栄養士による栄養指導を行っています。お一人おひとりに20~30分かけて、食事の内容や栄養バランス、日常生活でのちょっとした疑問まで、丁寧にご相談をお受けしています。ご希望の方は、どうぞお気軽にお声がけください。
そしてもう一度お伝えしたいのは、運動は“できることから無理なく、楽しみながら続ける”ことが何よりも大切だということです。
小さな積み重ねが、確実に健康という大きな成果につながります。今日から、自分らしい一歩を踏み出してみませんか?
(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)
