- 2025年9月15日
- 2025年9月13日
75歳以上でも血圧は125/75未満に!最新ガイドラインが示す新しい常識
高血圧症は「サイレントキラー」と呼ばれるほど、自覚症状がほとんどないまま進行し、気づかないうちに心筋梗塞や脳卒中、腎不全といった重い病気につながることがあります。
体調に変化を感じにくいため、つい「自分は大丈夫」と思ってしまう方も多いのですが、血圧管理は若い世代だけでなく、高齢の方にとってもとても大切です。
2025年8月29日に日本高血圧学会から発表された新しいガイドラインでは、大きな変更点のひとつとして、75歳以上の方も含めて「家庭血圧の目標値を125/75 mmHg未満とする」ことが示されました。
これまで高齢の方は135/85 mmHg未満を目標とすることが多かったため、「どうしてこんなに厳しい数値になったのだろう」「自分もその目標を目指せるのだろうか」と不安に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
そこで今回は、この変更が行われた背景や、その根拠となった研究、そして当クリニックでの取り組みについて、わかりやすくお話ししたいと思います。

厳格な血圧管理が勧められる理由について
まず、ガイドラインが変更された理由の一つは、年齢にかかわらず血圧をしっかり下げることで心筋梗塞や脳梗塞などの重大な病気のリスクが減るという科学的な証拠が積み重なってきたことです。
この流れを作った代表的な研究の一つがSPRINT試験です。以前のブログ「血圧120の衝撃 SPRINT試験が世界の高血圧治療を変えた理由とは」でも取り上げましたが、この研究では75歳以上の高齢者を含む患者さんを対象に、収縮期血圧を120mmHg未満まで下げたグループと、140mmHg未満にとどめたグループを比べました。
その結果、より厳しく血圧を下げたグループでは心血管イベントが約35%減少することが明らかになり、世界の高血圧治療の常識を大きく塗り替えました。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1901281)

(出典:The New England Journal of Medicine)
日本国内からも重要なエビデンスが出ています。岩手県花巻市大迫町で行われたOhasama Studyでは、診察室で測る血圧よりも家庭で測る血圧の方が、その人が将来心臓や脳の病気を起こすかどうかをよく予測できることが分かりました。
特に家庭血圧が125/75 mmHgを下回っている人では、脳卒中や心筋梗塞の発症が少なかったことが報告されており、日常生活の中で血圧をしっかり管理することの大切さを裏付けています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15917279)
さらに2025年8月に発表された最新のシステマティックレビューでは、75歳以上の高齢者に対しても収縮期血圧を130mmHg未満に下げる強化治療が有効であることが示されました。
より厳格な血圧管理を行った場合、心臓や脳の病気のリスクは約4割減少し、全ての原因による死亡のリスクも3割近く減少、さらに心臓病で亡くなるリスクに関しては半分近くまで減るという結果が報告されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40790093)

(出典:Hypertension Research)
厳格な管理に伴う注意点
もちろん、血圧は下げれば下げるほどよいわけではありません。過度に下げすぎると、ふらつきや転倒、腎機能の悪化といったリスクが生じることがあります。
そのため、125/75 mmHg未満を一律に押し付けるのではなく、薬の副作用や日常生活への影響を避けながら、一人ひとりの体調や合併症の有無に応じて主治医と相談しつつ調整していくことが大切です。
それでも、研究から分かっているのは、年齢を問わず血圧をしっかり管理することで将来の病気や死亡のリスクを確実に減らせるということです。
血圧管理の目的は単なる数字合わせではなく、これからの生活の質を守るための取り組みです。ご自宅での測定や生活習慣の工夫とあわせて、無理のない形で一緒に続けていきましょう。
大切なのは「年齢が高いから仕方ない」と諦めず、できる範囲でしっかり管理しようとする姿勢です。
当クリニックでの取り組み
当クリニックでは、薬による治療だけでなく、生活習慣改善にも力を入れています。特に食事は血圧管理の基盤です。
日本人は塩分摂取量が多く、それが高血圧の一因になっています。当クリニックでは、管理栄養士による個別栄養指導(隔週・月曜午後)を行っており、無理なく減塩できる工夫や、血圧を下げる効果が期待できる食材のとり入れ方をアドバイスしています。
また、運動療法については、糖尿病患者さんや肥満症患者さんと同様に、速歩やジョギングなどの比較的軽めの有酸素運動が効果的とされています。
定期的かつ(できれば毎日)30分以上持続して行うことが推奨されています。薬に頼るだけでなく、生活の改善を通じて「安全に」「長く」血圧をコントロールできるよう支援しています。

まとめ
75歳以上であっても、家庭血圧125/75 mmHg未満を目指すことは心筋梗塞や脳卒中の予防につながります。最新のガイドライン改訂は「高齢だから血圧の目標値は緩めでよい」という従来の考えを改める大きな一歩です。
ガイドラインで「75歳以上でも家庭血圧125/75 mmHg未満」とされた背景には、大規模な臨床試験や日本人を対象とした研究から、高齢者でも血圧をしっかり下げることが脳卒中や心疾患の予防につながるという確かな証拠があることが大きく関わっています。
もちろん個々の体調や生活状況に応じた柔軟な調整は必要ですが、従来よりも「少しでも良い血圧を目指す」という前向きな姿勢が求められる時代になったといえるでしょう。
当クリニックでは、薬物治療だけでなく栄養指導を中心とした生活習慣改善を組み合わせ、医師と管理栄養士が連携して、患者さんと共に安全で持続可能な血圧管理を目指しています。
高血圧症は放置していても症状が出にくい病気ですが、長い年月をかけて確実に体にダメージを与えます。
だからこそ「まだ大丈夫」と思わずに、家庭血圧125/75 mmHg未満をひとつの目標に、日々の生活を工夫しながら前向きに取り組んでいくことが大切です。
私たち医療者も全力でサポートしてまいりますので、ぜひ一緒に取り組んでいきましょう。
(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)
