• 2024年3月17日
  • 2024年3月10日

4月から自己負担額が高額となる新型コロナウイルス感染症治療薬について

中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の院長の大庭健史です。今回は新型コロナウイルス感染症治療薬の話題について取り上げたいと思います。

 

新型コロナウイルス感染症治療薬は、2021年10月から全額公費負担が始まりましたが、2023年10月からは公費支援に変更され、治療薬の負担額は年齢や収入などに応じて3000~9000円の自己負担となりました。

 

しかし、この公費支援も2024年3月31日をもって終了することとなりました。その結果、4月1日から新型コロナウイルス感染症治療薬のゾコーバ(エンシトレルビルフマル酸)は5185~15555円、ラゲブリオ(モルヌピラビル)は9431~28293円、パキロビッドパック(ニルマトレルビルリトナビル)は9902~29708円となります。

 

この変更により、新型コロナウイルス感染症治療薬の使用を考えてしまう方もいるかと思います。今回は、今後新型コロナウイルス感染症治療薬であるゾコーバ、ラゲブリオ、パキロビッドパックをどのような方であれば使用をすすめるかについてお話しいたします。

 

 

ゾコーバについて

ゾコーバは、日本を含むアジアで行われた臨床研究において、体内のウイルス量が早く減少することと症状がなくなるまでの時間が約1日短縮することが報告されています。

 

しかし、ゾコーバは新型コロナウイルス感染症の重症化を予防する効果が確認されていません。

 

ほとんどの新型コロナウイルス感染症患者さんは入院が必要ない軽症であり、高額となるゾコーバを使用せずとも通常の感冒薬を使用することで十分な治療が可能です。

 

そのため、ゾコーバの使用を積極的にはおすすめしませんが、症状がつらくて1日でも早く症状を改善させたい方には投与を検討しても良いかもしれません。

 

ラゲブリオについて

ラゲブリオは、経口投与が可能なリボヌクレオシドアナログです。新型コロナウイルスの増殖を抑える薬剤で、重症化リスクのある患者さんに使用されます。

 

この薬剤は、オミクロン株流行前に行われたMOVe-OUT試験において、入院または死亡のリスクを約30%減少させると報告されています。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2116044)

 

(N Engl J Med 2022; 386:509-520)

 

ラゲブリオは、併用できない薬剤がないことから、重症化のリスク因子(高齢、喫煙、糖尿病など)を有する軽症の新型コロナウイルス感染症患者さんに広く用いられています。

 

しかしながら、オミクロン株流行後の大規模臨床研究であるPANORAMIC試験において、ラゲブリオは主要評価項目である「発症してから28日以内の入院と死亡のリスク」を減らす効果が確認されませんでした。(https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(22)02597-1/fulltext)

 

(出典:MSDホームページ)

 

そのため、以前から重症化予防効果が期待しづらいラゲブリオの使用はあまりおすすめしていません。

 

ただし、副次評価項目である「症状緩和までの日数」はオミクロン株であっても有効性を示しているので、ラゲブリオを使用したいという重症化リスクのある患者さんには処方を検討しても良いかもしれません。

 

(出典:MSDホームページ)

 

パキロビッドパックについて

パキロビッドパックは、ニルマトレルビルとリトナビルの2つの薬剤で構成されています。ニルマトレルビルは新型コロナウイルスのメインプロテアーゼを阻害し、一方のリトナビルはニルマトレルビルの体内での分解を抑制することで抗ウイルス薬としての効果を発揮しています。

 

パキロビッドパックは、オミクロン株流行前に行われたEPIC-HR試験によると、入院または死亡のリスクを約89.1%減少させると報告されています。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa2118542)

 

(出典:Pfizerホームページ)

 

そして、オミクロン株流行後の大規模臨床研究では、以前のブログ記事「新型コロナウイルス感染症治療薬は本当に効果があるの?」でも述べましたが、65歳未満の方では有効性が認められない一方で、65歳以上の方では入院のリスクを約73%減少させると報告されています。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2204919)

 

(N Engl J Med 2022; 387:790-798)

 

以上のことから、重症化のリスク因子を有する65歳未満の軽症の新型コロナウイルス感染症患者さんへのパキロビッドパック投与はそれほど推奨されないと考えられますが、65歳以上の方、もしくは65歳未満でも免疫力の低い方(ステロイド内服や糖尿病の方など)には処方が有用だと思います。

 

これからの新型コロナウイルス感染症の治療について

新型コロナウイルス感染症は、ウイルスの度重なる変異によって重症化するリスクが減少していますが、ゾコーバとラゲブリオにはオミクロン株に対する重症化予防効果を認めないなど、新型コロナウイルス感染症治療薬の効果も低下しています。

 

そのため、65歳未満の方であれば原則新型コロナウイルス感染症治療薬は不要と考えます。そして、重症化のリスクのある65歳以上の方や65歳未満でも免疫力の低い方には、高額であっても命を守るためにオミクロン株にも重症化予防効果を認めたパキロビッドパックを使用するのが良いと考えます。

 

最近は、コロナの重症化だけでなくコロナ後遺症(新型コロナウイルス感染症の罹患後症状)も注目されています。

 

コロナ後遺症は、WHOの報告によると新型コロナウイルスに感染した方の約10~20%がなるとされており、まだ十分な治療法が確立されていません。当クリニックでもコロナ後遺症の治療を行っていますが、治療に難渋するケースもあります。

 

新型コロナワクチンは発症予防や重症化予防だけでなく、最近ではコロナ後遺症のリスクを43%低下させることが報告されています。(https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/2802877)

 

このことから、新型コロナワクチンの有効性は治療薬と同様にやや低下していると推測されますが、一方でコロナ後遺症を減らすことは期待されるため、当クリニックでは引き続きワクチン接種を推奨しています。

 

当クリニックでは、ファイザーと第一三共の新型コロナワクチンを用意しています。ワクチンの全額公費による接種は今月末で終了しますので、まだオミクロン株XBB.1.5系統対応のワクチンを接種されていない方はお早めに追加接種されることをお勧めします。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

 

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