• 2023年10月5日

新型コロナウイルス感染症治療薬は本当に効果があるの?

中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の院長の大庭健史です。今回は感染症コラムの第2回目として、新型コロナウイルス感染症治療薬であるゾコーバ、ラゲブリオ、パキロビッドパックについてお話させていただきます。

 

 

新型コロナウイルス感染症に関して、東京都が2023年9月29日に公表したデータによれば、9月18日から24日の新型コロナウイルス感染症の1定点医療機関あたりの患者報告数は8.89人でした。これは、第9波のピークであった9月4日から10日の16.36人から大幅に減少していることを示しています。

 

そのため、ここから新型コロナウイルス感染症の患者さんは徐々に減っていくと考えられていますが、昨年と同様に年末年始に再度流行する可能性もあることに注意が必要です。したがって、新型コロナウイルス感染症の予防は非常に重要であり、以前のブログ記事「当院における感染症対策と予防接種について」も参考にしていただければと思います。

 

ここからは、もしも新型コロナウイルス感染症に感染した場合についてお話させていただきます。新型コロナウイルス感染症にかかった場合、治療薬としてゾコーバ、ラゲブリオ、パキロビッドパックが使用されることがあります。

 

新型コロナウイルス感染症の治療薬は2023年9月30日までは無償提供されていましたが、2023年10月1日からは公費支援となり、患者さん自身に3000~9000円ほどの負担が発生します。そのため、以前と比べて新型コロナウイルス感染症治療薬は使用しづらくなっています。

 

特に、新型コロナウイルス感染症の重症化のリスクのない患者さんにも使用できるゾコーバは、その使用の是非が問われています。

 

ゾコーバは、塩野義製薬と北海道大学の共同研究によって開発された薬剤で、日本を含むアジアで実施された大規模臨床研究において、症状消失までの時間が通常より約1日短縮し、体内のウイルス量が早く減少することが報告されています。

 

ただ、残念ながら重症化を予防する効果は確認されていません。そのため、当クリニックでは比較的症状が重く、多岐に渡る患者に対してゾコーバの使用をお勧めしています。

 

また、重症化のリスク因子(高齢者、2型糖尿病患者、がん治療中の患者など)を有する場合、新型コロナウイルス感染症治療薬のラゲブリオまたはパキロビッドパックの使用が検討されます。

 

ラゲブリオは、オミクロン株流行前の大規模臨床研究によると、重症化を予防する効果(入院や死亡を減らす効果)は約30%と報告されています。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2116044)

 

しかしながら、オミクロン株流行後の臨床研究では、ラゲブリオは重症化を予防する効果を認めませんでした。(https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(22)02597-1/fulltext)

 

そのため、副作用が少なく使用しやすいラゲブリオですが、変異を繰り返した新型コロナウイルス感染症に対しては、有効とは言い切れない状況になっています。

 

一方パキロビッドパックは、オミクロン株流行前の大規模臨床研究によると、重症化を予防する効果は約89%と報告されています。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa2118542)

 

そしてオミクロン株流行後の臨床研究では、パキロビッドパックは40~64歳の方では重症化を予防する効果は認められませんでしたが、65歳以上の方は以下の図のとおりに重症化を予防する効果を認めました。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2204919)

 

(出典:N Engl J Med 2022; 387:790-798)

 

このため65歳未満の方は、重症化のリスク因子が複数存在する場合のみ、パキロビッドパックの使用を検討することが適切であると考えます。また65歳以上の方については、パキロビッドパックの使用が最適と考えます。

 

しかし、現在日本ではパキロビッドパックの処方が少なく、代わりにラゲブリオがより一般的に処方されています。この状況の主な原因は、パキロビッドパックと併用できない薬剤が多数存在し、処方することが難しいからと推測されます。

 

また、パキロビッドパックには頻度は比較的少ないですが、様々な副作用が報告されています。重大な副作用には、重度の肝機能障害、中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)があります。

 

比較的軽い副作用には、浮動性めまい、頭痛、倦怠感、味覚障害、嘔吐、消化不良、下痢、軟便、筋肉痛、血圧上昇、軽度の肝機能障害、発疹などがあります。これらの副作用が疑われる場合は、速やかに内服を中止し、当クリニックにご相談ください。

 

以上の内容をまとめますと、重症化のリスク因子がない方には通常の風邪と同じ治療薬で十分であると考えますが、症状の早期改善を希望される方にはゾコーバを処方させていただきます。

 

一方、重症化のリスク因子がある方(特に65歳以上の方)については、お薬代が少し高くなってもパキロビッドパックの使用をお勧めします。ただし、内服中の他の薬剤との相互作用の問題から、パキロビッドパックを内服できない場合にはラゲブリオの使用を検討いたします。

 

また、当クリニックは発熱外来での治療だけでなく、新型コロナウイルス感染症の予防のためにもワクチン接種に力を入れております。コロナワクチンについては、ファイザー社のオミクロン株XBB.1.5系統対応のワクチンを接種しております。Webまたはお電話でのご予約が可能ですので、ぜひご活用いただければと思います。

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