• 2025年5月14日
  • 2025年3月20日

大人にも成長ホルモンが必要?成人成長ホルモン分泌不全症(AGHD)を解説!

中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の院長、大庭健史です。当クリニックでは、内分泌疾患や生活習慣病(糖尿病など)を専門に診療しています。

 

今回は「成長ホルモン」に関するお話しになります。成長ホルモンと聞くと、子どもの成長に必要なホルモンというイメージを持つ方が多いかもしれません。

 

 

しかし、成長ホルモンは大人になっても重要な役割を果たしており、不足するとさまざまな健康問題を引き起こすことがあります。

 

今回のブログでは、「成人成長ホルモン分泌不全症(AGHD:Adult Growth Hormone Deficiency)」について詳しく解説し、成長ホルモンの重要性や治療法についてご紹介します。

 

成長ホルモンとは?

成長ホルモン(GH: Growth Hormone)は、脳の下垂体前葉から分泌されるホルモンで、主に子どもの骨や筋肉の成長を促します。

 

成長ホルモンの働きによって子どもの体は成長しますが、個人差はあるものの、男子はおおよそ17歳、女子は15歳を過ぎると骨端線が閉じ、それ以降は身長が伸びなくなります。

 

しかし、成長ホルモンは成人後も筋肉や骨の維持に関わり、年齢とともに減少しやすい筋肉量を保つ働きをします。

 

また、脂肪の代謝を促進し、特に内臓脂肪の増加を防ぐ作用もあります。そのため、成長ホルモンが不足すると筋力の低下や体脂肪の増加が起こりやすくなります。

 

さらに、成長ホルモンは血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きを調節しており、不足すると糖尿病のリスクが高まることが報告されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15539799)

 

また、LDLコレステロールの増加やHDLコレステロールのわずかな減少がみられ、動脈硬化を促進する可能性が指摘されています。

 

成長ホルモンは精神的な健康にも深く関与しており、思考力や意欲、記憶力を高める作用があります。そのため、不足すると倦怠感や気分の落ち込みが生じ、うつ症状の一因となることもあります。

 

また、骨代謝にも関与しており、不足すると骨密度の低下が進み、骨折しやすくなる可能性があります。  

 

このように、成長ホルモンは全身の代謝や健康維持に重要な役割を果たしているため、大人になってからも欠かせないホルモンなのです。

 

成人成長ホルモン分泌不全症とは?

成人成長ホルモン分泌不全症とは、成人において成長ホルモンの分泌が低下し、成人において成長ホルモンの分泌が低下し、身体にさまざまな影響を及ぼす疾患です。その原因として、以下のような要因が挙げられます。

・下垂体や視床下部の障害(下垂体腺腫など)

・頭部外傷(交通事故やスポーツ外傷など)

・脳外科手術や放射線治療の影響

・先天性のホルモン異常(遺伝性)

 

成人成長ホルモン分泌不全症の症状は多岐にわたり、倦怠感、疲労感、気力や集中力の低下、抑うつ、性欲の低下などがみられます。

 

また、筋力低下、筋肉量の減少、骨塩量の低下、内臓脂肪の増加も生じます。これらにより、糖尿病、脂質異常症、代謝異常関連脂肪肝(MAFLD)、骨粗鬆症などのリスクが高まります

 

成人成長ホルモン分泌不全症の診断について

成人成長ホルモン分泌不全症の診断では、まず原因不明の倦怠感や疲労感を主訴に来院された方に対し、血液検査を行います。この検査は、空腹時の状態で、午前の早い時間(当クリニックでは9時30分まで)に実施します

 

血液検査では、成長ホルモンの働きを反映する指標としてIGF-1(インスリン様成長因子-1)の測定を行います。成長ホルモンは一日の分泌量に変動があるため、単純に血中の成長ホルモン濃度を測定しても正確な評価はできません。

 

 

そのため、長期的な成長ホルモンの分泌状態を把握する目的でIGF-1の数値を確認します。IGF-1が低値(-2SD以下)であれば、より正確な診断を行うために成長ホルモン分泌刺激試験を実施します。

 

成長ホルモン分泌刺激試験では、成長ホルモンの分泌を促す薬剤を投与し、その後のホルモンの反応を観察します。

 

代表的な方法として、インスリンを投与して血糖値を一時的に低下させ、成長ホルモンの分泌を評価する「インスリン低血糖試験」があります。また、GHRP-2やアルギニン、グルカゴンを用いる方法もあります。

 

これらの刺激に対して成長ホルモンの分泌が十分でなければ、成人成長ホルモン分泌不全症と診断されます。

 

さらに、成長ホルモン分泌不全の原因を特定するために、視床下部・下垂体領域のMRI検査を実施し、下垂体や視床下部に腫瘍や損傷がないかを確認します。特に、過去に頭部外傷や脳の手術、放射線治療を受けたことがある患者さんでは、画像診断がより重要となります。

 

成人成長ホルモン分泌不全症の治療について

治療は、代謝異常の改善、体組成の正常化、QOLの向上、心血管リスクの低減を目的として、成長ホルモン補充療法を行います。

 

成長ホルモン製剤は注射薬のため、皮下注射によって補充します。以前は毎日1回の注射が必要でしたが、2021年12月に長時間作用型ヒト成長ホルモンアナログ製剤「ソグルーヤ」が発売されたことで、週1回の投与が可能となりました。

 

 (出典:ノボ ノルディスク ファーマ ホームページ)

ただし、悪性腫瘍のある方や妊婦、または妊娠の可能性がある方には投与できないため、注意が必要です。

 

まとめ

成人になっても成長ホルモンは健康維持に不可欠であり、不足するとさまざまな症状が現れる可能性があります。

 

この疾患は診断されないことが多く、慢性疲労症候群や副腎疲労症候群と誤診され、適切な治療が受けられないケースも少なくありません。慢性的な疲労感や倦怠感が続く場合は、内分泌疾患を専門とする医師のいる医療機関にご相談ください

 

また、成人成長ホルモン分泌不全症を含む内分泌疾患は、病態や診断基準が複雑であるため、十分に理解されていないのが現状です。そのため、当クリニックでは内分泌疾患に関する情報をホームページやブログで定期的に更新しています。

 

「もしかしたら自分は内分泌疾患かもしれない」と思われる方は、一度当クリニックまでお気軽にご相談ください。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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