• 2025年8月15日
  • 2025年5月29日

アマリール(グリメピリド)という糖尿病治療薬がおすすめできない4つの理由

2型糖尿病の治療において、経口血糖降下薬の中でもスルホニル尿素薬は、長年にわたり中心的な役割を果たしてきました。

 

その中でもアマリール(グリメピリド)は、2000年に日本で発売されて以来、多くの糖尿病患者さんに処方され、一定の評価を受けてきました。

 

アマリールは、第一世代スルホニル尿素薬であるジメリン(アセトヘキサミド)や、第二世代のオイグルコン・ダオニール(グリベンクラミド)に続く第三世代スルホニル尿素薬として開発されました。

 

低用量でも血糖降下作用があり、作用時間も比較的長いこと、さらに従来のスルホニル尿素薬と比較して膵外作用(インスリン感受性の改善)がある可能性が示唆されたことから、発売当初は理想的な糖尿病治療薬になることが期待されていました。

 

しかし、その後の臨床経験と研究データの蓄積により、アマリールには重大な限界や問題点が存在することが明らかになってきました。

 

現在では、多くの糖尿病専門医がアマリールは第一選択薬として推奨されないとの見解を持っており、当クリニックにおいても新規で処方することはほとんどありません。

 

今回のブログでは、アマリールの問題点を中心に、なぜ現在では推奨されにくくなったのか、代替薬としてどのような選択肢があるのか、そして長期治療における薬剤選択の考え方について、わかりやすく解説していきます。

 

 

アマリールの作用機序と問題点について

アマリールは、スルホニル尿素薬としての基本的な作用機序を持っています。すなわち、膵臓のβ細胞に存在するATP感受性カリウムチャネル(KATPチャネル)を閉じることで細胞膜を脱分極させ、カルシウムの流入を促し、その結果としてインスリンの分泌を促進します。

 

このように、血糖値にかかわらず強制的にインスリンを分泌させるという特性が、低血糖という重大な副作用の原因となります。

 

アマリールは、即効性はそれほど強くないものの、1回の服用で1日近く作用が続くことがあります。

 

そのため、特に高齢者や腎機能が低下している患者さんでは、薬が体内に蓄積しやすく、低血糖が長時間にわたって続くリスクが高くなります。 とくに注意が必要なのは、食事摂取が不規則な高齢の患者さんです。

 

このような方では、軽度の血糖低下でも転倒や意識障害といった深刻な健康被害につながるおそれがあります。そのため、アマリールの使用は慎重に検討する必要があります。

 

低血糖リスクは避けるには

同じスルホニル尿素薬の中でも、グリミクロン(グリクラジド)はアマリールに比べて低血糖のリスクが明確に低いことが、複数の研究で示されています。

 

特に、2011年にSchrammらが報告したデンマークの全国データベースを用いた大規模研究では、グリミクロン使用者は他のSU薬使用者と比べて、全死亡率および心血管イベントのリスクが有意に低いと報告されました。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21471135)

 

さらに、2015年にSimpsonらが発表した研究では、突然の心停止や心室性不整脈のリスクが、グリミクロンと比較してアマリールで有意に高かったことが示されています。(https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5860838)

 

これらの知見を踏まえ、当クリニックではスルホニル尿素薬の使用は極力避ける方針としています。しかし、やむを得ず使用する場合には、アマリールではなくグリミクロンを少量から開始し、低血糖をできる限り回避するよう留意しています。

 

 

スルホニル尿素薬に共通する問題:二次無効の存在

スルホニル尿素薬の本質的な限界の一つに、二次無効(secondary failure)があります。これは、治療開始から数年を経て薬効が減弱し、血糖コントロールが再び悪化してくる現象を指します。

 

スルホニル尿素薬は、膵臓のβ細胞に強い刺激を与えることでインスリンを分泌させるため、長期的にはβ細胞の疲弊を招きやすいとされています。

 

アマリールも例外ではなく、治療効果が3〜5年で明らかに低下することが少なくありません。

 

これに対して、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬など、近年登場した薬剤は、膵臓への負荷が比較的少なく、インスリン分泌も血糖値依存的に調節されるため、二次無効のリスクが低く、長期的な治療に適していると考えられています。

 

 

まとめ:時代とともに見直すべき薬剤の一つ

アマリールは、かつて画期的な糖尿病治療薬として高く評価されていた薬剤です。しかし現在では、以下のような理由から、第一選択として推奨されるべき薬剤ではなくなっています。

・血糖値にかかわらずインスリン分泌を促進してしまう

・高齢者や腎機能の低下した患者では低血糖のリスクが高い

・二次無効化により、長期的な効果が得られにくい

・より安全かつ有効な代替薬が多数登場している

 

医療は常に進歩しています。かつて有効とされていた薬剤であっても、現在のエビデンスや治療環境を踏まえると、必ずしも最良の選択とは言えない場合があります。

 

当クリニックでは、アマリールの新規処方は原則として行っておらず、最新のエビデンスと患者さんお一人おひとりの状態を踏まえた上で、最適な糖尿病治療薬の選択に努めています。

 

また、糖尿病治療では薬物療法に加え、食事療法や運動療法も極めて重要です。詳しくは、当クリニックの以下のブログ記事をご参照ください。

糖尿病の食事療法と当クリニックの栄養指導について

糖尿病の運動療法について

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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