- 2025年11月24日
- 2025年11月22日
2025年10月30日より発売が再開された禁煙補助薬チャンピックスについて
皆さんは「チャンピックス」って聞いたことがありますか?
喫煙されている方で、「そろそろ本気で禁煙したい」と思ったことがある方なら、一度は耳にしたことがあるかもしれません。
チャンピックスは禁煙補助薬の一つで、「自分の意志だけではなかなかやめられない…」という方にとって、まさに救世主のような存在になり得るお薬です。
今回は、このチャンピックスについて、作用や飲み方、副作用、そして一時期話題になった「出荷停止の理由」と、その後どうして再開できたのかまで、少し踏み込んで分かりやすく解説いたします。

なぜタバコはやめるのが難しいのか
チャンピックスがどういう薬なのかを理解するために、まず「なぜタバコがやめづらいのか」からお話しします。
タバコにはニコチンという物質が含まれており、このニコチンこそが依存の大きな原因です。ニコチンが体内に入ると、脳内で「ニコチン性アセチルコリン受容体」という場所にくっつき、そこで快楽物質であるドーパミンが大量に分泌されます。
その結果、気分が良くなり、「ホッとする」「落ち着く」と感じるわけです。 しかし問題はその後です。タバコを吸ってからしばらくするとニコチンの作用が切れ、逆に気分が落ち込んだり、イライラしたり、集中しづらくなったりといった離脱症状が出てきます。
その不快感を抑えるために、またタバコを吸ってしまう。この繰り返しが、タバコをやめられない悪循環です。
さらに、ニコチンはコカインやヘロインといった違法薬物と同程度の身体的依存性があるとも言われており、単に「根性が足りない」では片づけられない強力な依存を生み出しています。
チャンピックスとはどんな薬?その仕組みと効果
ここでチャンピックスの話に戻ります。チャンピックスは脳内でニコチンが作用する部位に対して、ニコチンと似たような働きを「部分的に」行う薬です。
完全に同じ強さで刺激するわけではなく、ほどよく刺激することで少量のドーパミンを放出させ、禁煙に伴うイライラや落ち込みなどの離脱症状を和らげてくれます。
つまり、「タバコを吸わなくても、ある程度は脳が落ち着いていられる状態」をつくってくれるのです。
さらにチャンピックスにはもう一つ大きな特徴があります。それは、チャンピックスを服用している間に万一タバコを吸ってしまっても、ニコチンがくっつく場所をブロックすることで、タバコから吸収されたニコチンの作用を弱める働きがあるという点です。
この作用により、タバコを吸っても以前ほど「おいしい」「落ち着く」と感じにくくなり、「吸ってもあまり良いことがない」という経験を通じて、喫煙そのものの魅力を下げていきます。

(出典:ファイザー社 ホームページ)
こうした2つの作用によって、チャンピックスは禁煙の成功率を高めてくれることが、臨床試験でも示されています。
南アフリカで行われた大規模臨床試験では、チャンピックス単独投与群の9〜12週目の連続禁煙率は45%と推定されており、薬の力を上手に借りることで、意志の力だけに頼るよりも禁煙の成功率を大きく高められることが分かっています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25005652)
チャンピックスの服用方法
では、チャンピックスはどのように服用すれば良いのでしょうか。チャンピックスはニコチンパッチやニコチンガムのようにニコチンを補う薬ではありません。
そのため飲み方も少し独特です。 通常は、1~3日目に0.5 mgを1日1回食後に服用し、4~7日目は0.5 mgを1日2回(朝・夕食後)に増やし、8日目以降は1 mgを1日2回(朝・夕食後)に増量していきます。
ニコチネルTTSのように「徐々に減らす」のではなく、むしろ徐々に薬の量を増やしていくのが特徴です。
これは、ニコチンそのものではなく、ニコチンと似た作用をもつ薬で脳を安定させながら、身体のニコチン依存を段階的に減らしていく、という考え方に基づいています。
ニコチンが抜けてつらくなる時期に、代わりにチャンピックスの量を増やして支えるイメージです。
チャンピックスの副作用と注意点
チャンピックスには、薬そのものの副作用と禁煙による離脱症状があります。禁煙を始めると、気分が落ち込む・不安になる・イライラするなどの症状が出ることがあります。
もともと精神疾患のある方は悪化する可能性があるため、慎重な経過観察が必要です。
おもな副作用は、吐き気 12.2%、便秘 2.8%、不眠症 1.7%、胃炎 1.6%、頭痛 1.1% などで、消化器症状が多く見られます。吐き気は内服初期に多く、内服を少量から開始する理由のひとつです。ただし、ほとんどは軽度で、投薬中止に至ることは比較的まれです。
一時期の「出荷停止」はなぜ起こったのか
「そういえばチャンピックスって、一時期出荷停止になっていなかった?」と記憶されている方もいるかもしれません。
実際、2021年6月に一部ロットから発がん性の可能性があるN-ニトロソ化合物のN-ニトロソバレニクリンが検出されたことがきっかけで、国内外で出荷が停止され、大きなニュースになりました。
N-ニトロソ化合物の一部は動物実験で発がん性が指摘されており、医薬品中の含有量には世界的に厳しい基準が設けられています。
当時検出された量は「直ちに健康被害が出るレベルではない」と評価されましたが、国際的な基準値を超えていたため、出荷停止という対応が取られました。
その結果、日本ではチャンピックスを用いた禁煙治療が一時中断となり、多くの医療機関でニコチンパッチやガムなどの代替療法で対応せざるを得ない状況が続きました。
「チャンピックスが使えないので禁煙外来を諦めた」という方も少なくなかったと考えられます。
どうして製造・出荷が再開できたのか
では、チャンピックスはなぜ再び使えるようになったのでしょうか。出荷停止後、製造会社が不純物の量や発生メカニズムを詳しく調べ、製造工程を見直した結果、問題となったN-ニトロソバレニクリンを基準値以下に抑えられることが確認されました。
現在は、出荷停止前とは異なる改良された製造プロセスで供給されています。 この新しい製造方法に基づいて作られたチャンピックスでは、N-ニトロソバレニクリンの含有量は国際的な基準から見ても許容範囲内に管理されています。
もちろん「ゼロリスク」の薬はありませんが、喫煙を続けるリスクと比べると、適切に管理されたチャンピックスを一定期間使用するメリットは非常に大きいと考えられます。
喫煙継続リスクとチャンピックスのメリット
ここで改めて、「喫煙を続けること」と「チャンピックスを用いて禁煙に取り組むこと」を比べてみましょう。
喫煙は肺がんをはじめ、多くのがんや心筋梗塞、脳卒中、COPDなどのリスクを大きく高めることが明らかになっています。

一方、チャンピックスは通常12週間の服用で禁煙成功率を高めてくれる薬であり、製造方法の見直しにより、不純物に関する問題にも対応済みです。
短期間の服用で禁煙に成功し、その後の人生で喫煙によるさまざまな健康リスクから解放されるのであれば、総合的な健康上のメリットは非常に大きいと言えます。
当クリニックでのチャンピックスの取り扱いと受診の流れ
当クリニックでは、これまでの経緯と最新の情報を踏まえたうえで、現在チャンピックスを用いた禁煙治療を行っています。
以前チャンピックスで禁煙に成功したものの再喫煙してしまった方、ニコチンパッチやガムではうまくいかなかった方、健康診断などで動脈硬化の進行を指摘され「今度こそ本気でやめたい」と考えている方などには、チャンピックスによる治療をお勧めしています。
初診では、これまでの喫煙歴や禁煙のチャレンジの有無、合併症(糖尿病、高血圧症、脂質異常症、心疾患など)、精神面の状態などを丁寧にお伺いし、チャンピックスが適しているかどうかを判断します。
そのうえで、服用スケジュール、副作用が出たときの対応、フォローの方法などを分かりやすくご説明しますので、気になる点があれば遠慮なくご質問ください。
最後に ― 不安があってもまずは相談を
禁煙は「気合い」だけではなかなかうまくいきません。適切な薬と医療者のサポートを組み合わせることで、成功率は大きく高まります。
チャンピックスは一時的に出荷停止となった経緯こそありますが、その原因となった不純物に対して製造方法が見直され、基準値以下に抑えられることが確認されたうえで、現在は再び使用できる薬となっています。
チャンピックスについて不安や疑問がある方、これをきっかけに禁煙を考えてみたい方は、どうぞお気軽に当クリニックまでご相談ください。
当クリニックの禁煙外来についての詳しい説明は、こちらもあわせてご覧ください。
(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)
