• 2026年5月8日
  • 2026年3月10日

糖尿病腎症治療の新たな選択肢であるMR拮抗薬のケレンディアについて

目次

  1. はじめに
  2. ケレンディアとは何か
  3. 大規模臨床試験が示した腎・心保護効果
  4. 非ステロイド型MR拮抗薬のミネブロとの比較
  5. ケレンディアの位置づけと注意点
  6. まとめ

 

はじめに

中野区中野で開業している糖尿病専門医の大庭健史です。

 

糖尿病腎症は、わが国における透析導入原因の第一位となっている重要な糖尿病合併症です。初期には自覚症状が乏しく、尿中アルブミンや腎機能の指標であるeGFRの変化によって初めて異常が明らかになることも少なくありません。

 

 

しかし、腎機能の低下は透析導入のリスクを高めるだけでなく、心筋梗塞や心不全といった心血管イベントの発症率を上昇させ、生命予後にも大きく影響します。

 

そのため、腎機能がある程度保たれている早期の段階から、いかに進行を抑えるかが治療の鍵となります。

 

これまで糖尿病腎症治療の基本は、血糖管理と血圧管理、そして高血圧治療薬であるACE阻害薬やARB(アジルバやミカルディスなど)といったRAS阻害薬(レニン・アンジオテンシン系阻害薬)による腎保護でした。

 

さらに近年では、糖尿病治療薬であるSGLT-2阻害薬が加わり、腎機能低下の進行抑制効果が明確に示されています。

 

しかし、それらの治療を行っていても腎症の進行リスクが残る患者さんが一定数存在します。このような「残余リスク」に対する新たな治療戦略が求められていました。

 

 

ケレンディアとは何か

その残余リスクに対する新たな治療選択肢が、非ステロイド型MR(ミネラルコルチコイド受容体)拮抗薬であるケレンディアです。

 

ケレンディアは日本では2022年5月に発売され、糖尿病腎症に対する新しい作用機序の治療薬として注目されています。

 

(引用:バイエルファーマナビ)

 

ミネラルコルチコイド受容体はアルドステロンの作用を仲介し、ナトリウム再吸収や血圧上昇に関与するだけでなく、慢性的な炎症や線維化を促進することが知られています。

 

糖尿病腎症では、この炎症や線維化が腎機能低下の重要な進行因子と考えられています。 ケレンディアは、このミネラルコルチコイド受容体を選択的に阻害することで、炎症や線維化を抑制し、腎臓や心臓に対する臓器保護効果を発揮します。

 

なお、従来のMR拮抗薬と比べると降圧作用は強くありませんが、糖尿病腎症の病態そのものに介入することで腎・心保護効果を示す点が大きな特徴です。 

 

大規模臨床試験が示した腎・心保護効果

ケレンディアの有効性は、FIDELIO-DKD試験およびFIGARO-DKD試験という大規模臨床試験で示されています。

 

高血圧治療薬であるACE阻害薬またはARBを可能な限りの最大量で使用している2型糖尿病合併慢性腎臓病患者さんにおいて、ケレンディアを追加することで、腎機能悪化や末期腎不全への進行が有意に抑制されることが確認されました。

 

さらに、両試験を統合して解析したFIDELITY解析では、心血管イベントおよび腎イベントの双方において明確なリスク低下が示されています。

 

具体的には、心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、心不全による入院)のリスクが約14%減少し、また腎イベント(腎不全や57%以上の腎機能低下など)のリスクも約23%減少しました。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35023547)

 

(引用:Eur Heart J. 2022 Feb 10;43(6):474-484)

 

これらの結果は、ケレンディアが腎臓と心臓の双方を保護する可能性を示すエビデンス(科学的根拠)であり、糖尿病腎症治療における新たな柱の一つと位置づけられています。

 

非ステロイド型MR拮抗薬のミネブロとの比較

同じ非ステロイド型MR(ミネラルコルチコイド受容体)拮抗薬として、ミネブロがあります。ミネブロは主に高血圧症の治療薬として使用されており、ケレンディアと同系統の薬剤です。

 

そのため、臨床現場では「ケレンディアとミネブロのどちらを選択すべきか」と悩む場面も少なくありません。

 

ケレンディアは、糖尿病腎症患者を対象とした大規模臨床試験において、腎機能悪化や心血管イベントの抑制に有効であることが示されています。

 

一方、ミネブロについては尿中アルブミンを低下させることが報告されており、糖尿病腎症の進行抑制につながる可能性を示唆する研究は存在します。

 

しかし、現時点では腎不全や腎機能低下などの腎イベントの発生を減少させることを示した大規模臨床試験は報告されていません。この点だけを見ると、ケレンディアの方が優れた薬剤であるように見えるかもしれません。

 

ただし、血圧管理は糖尿病腎症の進行予防において極めて重要です。ミネブロには明確な降圧作用がある一方、ケレンディアの降圧作用は比較的限定的であることが知られています。

 

また、両薬剤を直接比較した大規模臨床試験は行われていないため、ミネブロがケレンディアより劣っていると結論づけることはできません。

 

そのため、高血圧を合併していない患者さんではケレンディアを選択することが検討される一方、高血圧を合併している患者さんでは、血圧コントロールの状況、腎機能、アルブミン尿の程度、心血管リスクなどを総合的に評価して薬剤を選択することが重要と考えられます。

 

ケレンディアの位置づけと注意点

ケレンディアは、ARB(アジルバやミカルディスなど)やSGLT2阻害薬をすでに使用しているにもかかわらずアルブミン尿が持続している症例などで、追加的に腎保護効果を期待できる薬剤です。

 

一方で、降圧効果は大きくないため、高血圧管理の代替にはなりません。また、高カリウム血症のリスクがあるため、定期的な血液検査による慎重なフォローが必要です。

まとめ

ケレンディアは、糖尿病腎症に対して腎機能低下の進行を抑え、心血管イベントを減少させることが大規模臨床試験で示された、非常に意義のある治療薬です。

 

一方で降圧作用は限定的であり、同じ非ステロイド型MR拮抗薬であるミネブロとの直接比較データは存在していません。

 

そのため、高血圧を合併している場合にはどちらが絶対的に優れているとは言えず、患者さんの病態に応じた慎重な薬剤選択が求められます。

 

当クリニックでは、糖尿病腎症の進行予防に力を入れ、血糖・血圧・脂質を包括的に管理しながら、最新のエビデンスに基づいた治療を行っています。

 

腎機能低下は早期介入が何より重要であり、適切な治療を継続することで将来の透析リスクを大きく減らすことが可能です。尿アルブミンを指摘された方や腎機能が気になる方は、ぜひ一度ご相談ください。

 

また、糖尿病の合併症には糖尿病網膜症や糖尿病神経障害などもあります。これらについて詳しく知りたい方はこちらもあわせてご覧ください。

 

糖尿病外来の受診をご希望の方は予約ページよりご予約いただけます。不安や疑問がある方も、どうぞお気軽にご相談ください。透析を遠ざけるための最善の治療を、共に考えていきましょう。

 

糖尿病腎症は、早く見つけて適切に治療すれば進行を抑えられる可能性の高い病気です。腎臓を守るためにも、気になる症状や検査結果がある場合は早めの受診をおすすめします。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

中野駅前内科クリニック糖尿病・内分泌内科 03-3382-1071 ホームページ