• 2024年5月30日
  • 2024年5月22日

6月4日にマンジャロの限定出荷解除!高用量のマンジャロの有用性と問題点とは

中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の院長で、糖尿病専門医の大庭健史です。

 

以前、当クリニックのブログの「GLP-1受容体作動薬の効果を超えるマンジャロという薬剤について」でマンジャロ(チルゼパチド)について詳しくお話しさせていただきましたが、今回は2024年6月4日から処方が可能となる高用量のマンジャロの有用性と問題点についてお話しさせていただきます。

 

(出典:田辺三菱製薬ホームページ)

 

マンジャロとは

マンジャロは、ヒトのグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)をベースに作られたもので、血中半減期が約5日と長期間効果を発揮するため週1回のみの投与が可能となった薬剤です。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6308032)

 

この薬剤はGIP受容体だけでなく、GLP-1受容体も刺激できるため、類似薬のGLP-1受容体作動薬を超える血糖改善効果と体重減少効果が期待されています。

 

マンジャロは2023年4月18日に発売され、2024年4月1日からは2週間以上の長期処方が可能となりました。しかし、発売開始から間もなく、7.5mg以上の高用量のマンジャロの入手が困難な状態となりました。

 

高用量のマンジャロが入手困難となった理由は?

7.5mg以上の高用量のマンジャロが入手困難になった最大の理由は、アメリカなど海外での予想を超える需要の増加です。

 

アメリカのマンジャロの薬価は日本の少なくとも5倍以上であるため、特に需要のある高用量は日本にあまり流通しませんでした。 さらに、「マンジャロは2.5mgから開始し、その後は4週間以上の間隔で2.5mgずつ増量する」という投与方法を守らない一部の自費診療を行っているクリニックがあったことも大きく影響しています。

 

当院開業前に私が所属していた病院でも発売日にマンジャロを患者さんに処方し、投与方法を遵守して理論上最速で7.5mgを処方しようとしましたが、すでに7.5mgは入手困難となっており、処方できませんでした。

 

その後、アメリカで2023年12月にマンジャロが商品名を変えて肥満治療薬ゼップバウンドとして発売されました。その結果、チルゼパチド(マンジャロおよびゼップバウンド)の需要がさらに増加し、日本の高用量のマンジャロの供給不足が続くだけでなく、2024年3月下旬にはアメリカでも供給不足となりました。

 

 

 

そのため、当クリニックでは高用量のマンジャロが入手できず、他の薬剤に切り替えざるを得なかった患者さんもいらっしゃいました。処方したい薬剤が処方できないという異常事態です。

 

 しかし、この異常事態は2024年6月4日からマンジャロの限定出荷が解除されることで解消される見込みです。次の項目では高用量のマンジャロの有用性についてお話しさせていただきます。

 

高用量のマンジャロの有用性について

マンジャロは、インスリンを除けば最も血糖降下作用のある薬剤の一つであり、また最も体重減少作用のある薬剤です。

 

日本の2型糖尿病患者を対象とした臨床研究のメタ解析によると、マンジャロ5 mgを使用すると、使用しなかった場合と比較してHbA1cは2.39%、体重は4.56 kg減少したと報告されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37828829)

 

さらに、この論文ではマンジャロを5 mgから徐々に増量して15 mgにすることで、さらにHbA1cが0.44%、体重が4.9 kg減少することが報告されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37828829)

 

 これらの結果から、マンジャロ5 mgを使用してもHbA1cが7.0%以上または肥満が解消されない方には、マンジャロの増量という選択肢があっても良いと思います。

 

高用量のマンジャロの問題点について

マンジャロは、吐き気、食欲低下、腹痛、下痢、便秘などの消化器症状が比較的多いのが特徴です。

 

 

この副作用は、マンジャロを増量することでリスクがさらに高まります。 また、マンジャロを増量すると、日本ではアメリカとは異なり医療費が増加します。

 

医療費の3割負担の方の場合、マンジャロ5 mgの薬剤費は月4618円ですが、マンジャロ15 mgの薬剤費は13853円と、より高額になります。マンジャロを増量する際は、これらの問題点を考慮することが重要です。

 

当クリニックでのマンジャロ増量の方針について

当クリニックでは、安易なマンジャロの増量は行いません。その理由は、食事療法と運動療法を十分に行えない患者さんは、たとえマンジャロを最大量投与しても、血糖と体重の良好なコントロールが得られにくいからです。

 

マンジャロを増量する前に、まずは食事と運動の見直しを行います。問診で食事に問題がある場合は、管理栄養士による栄養指導を受けていただくこともあります。

 

運動については、当クリニックのブログ「糖尿病の運動療法について 」で詳しくお話しさせていただきましたが、「何か1つだけ変えてみよう」という気持ちで、ご自身にとって継続可能かつ負担の少ない運動を行うことをお勧めしています。

 

そして、食事療法と運動療法を徹底しても血糖値と体重が改善しない場合は、マンジャロの増量を検討し、必要に応じて増量いたします。

 

最後に

マンジャロとGLP-1受容体作動薬は、有望な肥満治療薬であることは間違いありません。しかしこれらの薬剤は、先述した副作用の他にも胆嚢炎や胆管炎などのリスクも高めることが報告されています 。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8961394)

 

そのため、美容・痩身・ダイエットなどを目的とした適応外使用については推奨しません。

 

マンジャロとGLP-1受容体作動薬については、糖尿病を専門とする医師の診察を受け、リスクとベネフィットを比較した上で処方してもらうことをお勧めします。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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