• 2024年12月16日

20~30歳代の女性に多いバセドウ病について内分泌代謝科専門医が徹底解説!

東京都中野区にある「中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科」の院長、大庭健史です。

 

前回のブログ「女性の約3〜10%が罹患している橋本病(慢性甲状腺炎)について徹底解説!」では、橋本病について詳しくお話させていただきましたが、今回は橋本病とは正反対の特徴を持つ病気ともいえる「バセドウ病」について詳しくお話しします。

 

 

バセドウ病とは

バセドウ病は女性に多く見られる自己免疫疾患で、女性では100~150人に1人程度が発症するとされています。

 

この病気は、橋本病と同様に免疫システムの異常が原因で発症します。

 

通常、免疫は細菌やウイルスから体を守る役割を果たしますが、バセドウ病では免疫が誤って甲状腺を攻撃し、甲状腺ホルモンの過剰分泌を引き起こします。

過剰な甲状腺ホルモンの影響で、次のような症状が現れることがあります。

動悸

多汗

体重減少

手の震え

精神的なイライラ

 

 

適切な治療を行わず放置すると、感染症や手術、強いストレスが引き金となり、「甲状腺クリーゼ」と呼ばれる重篤な状態に陥ることがあります。

 

甲状腺クリーゼは致死率が10%以上と報告されており、このような事態を防ぐためにも、バセドウ病は早期に適切な治療を受けることが非常に重要です。

 

バセドウ病の歴史について

バセドウ病の名称は、1840年にドイツの医師カール・フォン・バセドウが、甲状腺腫、頻脈、眼球突出、精神症状、下痢などを呈した3例を報告したことに由来します。

 

一方、英語圏では「Graves’ disease(グレーブス病)」と呼ばれています。

 

これは、1835年にアイルランドの医師ロバート・ジェームス・グレーブスが、脱力、頻脈、眼球突出を伴った3例の女性患者について報告したことにちなむものです。

 

バセドウ病はなぜ起こるのか?

バセドウ病の主な原因は自己免疫の異常です。

 

通常、免疫系は細菌やウイルスから体を守る働きをしますが、この病気では「甲状腺刺激ホルモン受容体抗体」という異常な抗体が作られ、甲状腺を過剰に刺激してしまいます。

 

この抗体が作られる詳しい原因はまだ解明されていませんが、遺伝的な体質に加え、強いストレス、ウイルス感染、出産などが発症のきっかけになると考えられています。

 

バセドウ病はどのようにして診断するのか?

バセドウ病は、以下のいずれかの症状がみられる場合に診断が進められます。

びまん性(病変が広い範囲に広がっている状態)の甲状腺腫大

頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加などの甲状腺中毒症状

眼球突出などのバセドウ病特有の眼症状

 

さらに、以下の4つの検査所見がすべて揃うことで確定診断となります。

①TSH(甲状腺刺激ホルモン)の低値

②甲状腺ホルモン(FT3・FT4)の高値

③抗TSH受容体抗体または甲状腺刺激抗体の陽性

④放射性ヨウ素(またはテクネシウム)の甲状腺摂取率が高値、またはシンチグラフィ(放射性物質を使った甲状腺の検査)でびまん性の集積が確認される

 

ただし、シンチグラフィは大規模な医療機関でしか実施できないため、一般的には①~③の所見が揃えば診断を確定することが可能とされています。

 

バセドウ病の症状について

バセドウ病の代表的な症状として、メルゼブルクの3と呼ばれる次の3つが挙げられます。

甲状腺の腫大

頻脈

眼球突出

 

ただし、これら3つの症状がすべて揃わないケースも少なくありません。

 

その他にも、動悸、多汗、体重減少、指の震え、精神的なイライラなどの甲状腺中毒症による症状も、バセドウ病の特徴の一つです。

 

女性の場合、生理不順が生じることもあります。

 

また、激しい運動後や炭水化物を多く摂取した後に低カリウム血症が引き起こされ、突然手足が動かなくなる発作が起こることもあります。

 

これは「周期性四肢麻痺」と呼ばれるもので、特にアジア人の男性に多く見られる症状です。

 

バセドウ病の治療について

バセドウ病は、自然に寛解または治癒することはほとんどありません。そのため、まずは薬物治療を行うことが一般的です。

 

薬物治療の基本は、抗甲状腺薬であるメルカゾールまたはチウラジール(プロパジール)の使用です。ただし、これらの薬剤は投与量が増えるほど副作用のリスクが高まることが報告されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19445623)

 

そのため、治療開始時には副作用の少ないヨウ化カリウムを併用することが一般的です。

 

また、動悸などの交感神経刺激症状が強い場合には、β遮断薬(メインテートやインデラルなど)を併用することがあります。

 

抗甲状腺薬の副作用には、軽度のものとして肝機能障害、かゆみ、皮疹、筋肉痛、関節痛などがあり、これらは1~6%の頻度で発生します。

 

一方、重度の副作用として、重度の肝機能障害、無顆粒球症(好中球の著しい減少)、ANCA関連血管炎、多発関節炎などがあり、その頻度は0.1~0.5%程度とされています。

 

これらの副作用は、投与開始後3か月以内に発生することが多いため、治療開始初期には2週間ごとに採血を行い、経過を慎重にフォローすることが推奨されます。

 

薬物治療で十分な改善が得られない場合や、副作用により治療を継続できない場合には、放射性ヨウ素を用いたアイソトープ療法(放射性ヨウ素内用療法)や手術が検討されます。

 

アイソトープ療法を選択される場合が多いですが、以下のような場合には手術が選択されることがあります。

甲状腺が著しく大きい場合

活動性のバセドウ病眼症がある場合

早期に妊娠を希望している場合

甲状腺癌を合併している場合

 

まとめ

バセドウ病は、日常生活に支障をきたすことも多く、治療薬には副作用が多い上に再発しやすいという厄介な病気です。

 

治療を途中で中断される方も珍しくありませんが、治療を中断することで「甲状腺クリーゼ」と呼ばれる重篤な状態を引き起こすこともあります。

 

当クリニックでは、バセドウ病の患者さんには安心して治療を受けていただけるよう、丁寧で分かりやすい説明を心がけています。

 

バセドウ病に関する不安や疑問がありましたら、どうぞお気軽に専門医のいる当クリニックにご相談ください。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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