• 2026年5月26日

BMI 27以上+中等症以上の睡眠時無呼吸症候群でゼップバウンド使用可能に

目次

  1. はじめに
  2. 睡眠時無呼吸症候群と肥満の深い関係
  3. ゼップバウンドは睡眠時無呼吸症候群にも有効なのか
  4. ゼップバウンドを処方できる医療機関は限られる
  5. 当クリニックでの対応について

 

はじめに

東京・JR中野駅南口すぐにある「中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科」院長の大庭健史です。私は糖尿病専門医・内分泌代謝科専門医として、糖尿病や肥満症、甲状腺疾患などの診療を行っています。

 

当クリニックのブログ「睡眠時無呼吸症候群(SAS)にマンジャロ(ゼップバウンド)は使える?」でも取り上げましたが、これまで大きな課題となっていた「睡眠時無呼吸症候群の患者さんでは、肥満症治療薬を保険診療で使用できるケースが限られていた」という状況が、大きく変わることになりました。

 

2026年5月の添付文書改訂および最適使用推進ガイドラインの作成により、肥満症治療薬であるゼップバウンドの適応範囲が拡大されました。

 

 

これにより、BMI 27 kg/m²以上で、ポリソムノグラフィー(PSG)検査で中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(AHI 15以上)、または簡易型アプノモニター検査で重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(REI 30以上)を合併している肥満症の患者さんにも使用できるようになりました。

 

近年、肥満症は単に「体重が多い状態」ではなく、さまざまな病気の原因となる慢性疾患として考えられるようになっています。肥満症があると、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群などを引き起こしやすくなります。

 

特に睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が止まる病気で、強い眠気やだるさだけでなく、高血圧症、心筋梗塞、脳卒中、不整脈などのリスクとも関連することが知られています。そのため、単に「いびき」の問題として放置せず、体重管理を含めた総合的な治療が重要です。

 

これまで睡眠時無呼吸症候群の治療では、CPAP(持続陽圧呼吸療法)が中心でした。CPAPは睡眠中に空気を送り込み、気道が塞がるのを防ぐ非常に有効な治療です。一方で、CPAPはあくまで「気道を広げる治療」であり、肥満そのものを改善する治療ではありません。

 

そのため、「CPAPを使っていても根本的には改善していない気がする」「体重を減らさないと良くならないと言われた」という患者さんも少なくありませんでした。

 

そこで近年注目されているのが、GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬による減量治療です。これらの薬剤には食欲を抑える作用があり、体重減少をサポートするだけでなく、内臓脂肪の減少、インスリン抵抗性の改善、脂肪肝の改善など、さまざまな効果が期待されています。

 

さらに最近では、こうした薬剤が睡眠時無呼吸症候群の改善にも役立つ可能性が注目されており、肥満症治療の新たな選択肢として期待されています。

 

睡眠時無呼吸症候群と肥満の深い関係

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に空気の通り道である「気道」が狭くなり、呼吸が止まったり浅くなったりする病気です。特に肥満との関係が深いことが知られています。

 

 

体重が増えると、首まわりや舌の周囲にも脂肪がつきやすくなります。その結果、睡眠中に気道が塞がりやすくなり、いびきや無呼吸が悪化しやすくなります。

 

さらに、内臓脂肪が多いタイプの肥満では、呼吸を助ける横隔膜の動きが制限され、呼吸機能そのものが低下することもあります。すると睡眠中に酸素不足を繰り返し、身体に大きな負担がかかります。

 

このような低酸素状態が続くと、自律神経のバランスが乱れ、高血圧症、不整脈、心筋梗塞、脳卒中などのリスクが高まることが知られています。

 

また、睡眠時無呼吸症候群があると睡眠の質が低下するため、日中の強い眠気や疲労感につながります。活動量が低下しやすくなるだけでなく、食欲を調整するホルモンにも影響し、食欲が増えやすくなることもあります。

 

つまり、「肥満によって睡眠時無呼吸症候群が悪化し、睡眠時無呼吸症候群によってさらに肥満が進む」という悪循環が起こりやすいのです。

 

実際に、体重を減らすことでAHI(無呼吸低呼吸指数)が改善することは以前から知られていました。近年では、GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬による大きな減量効果が、睡眠時無呼吸症候群の改善にもつながる可能性が注目されています。

 

ゼップバウンドは睡眠時無呼吸症候群にも有効なのか

近年、睡眠時無呼吸症候群の治療において特に注目されているのが、肥満症治療薬「ゼップバウンド」です。

 

(出典:田辺三菱製薬株式会社) 

 

大きな話題となったのが、「SURMOUNT-OSA試験」という大規模な臨床試験です。この試験では、中等症〜重症の睡眠時無呼吸症候群を伴う肥満症患者さんにゼップバウンドを52週間使用した結果、大幅な体重減少とともに、AHI(無呼吸低呼吸指数)が大きく改善したことが報告されました。

 

CPAP(持続陽圧呼吸療法)を使用していない患者さんでは、AHIが平均約25回/時減少し、CPAPを使用している患者さんでも平均約29回/時減少しました。

 

また、AHIが50%以上改善した患者さんは60〜70%以上に達し、軽症レベル、あるいは寛解に近い状態まで改善した患者さんも多く認められました。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38912654)

 

さらに、平均17〜20%前後という大きな体重減少に加え、睡眠中の低酸素状態、血圧、炎症マーカー、日中の眠気、睡眠の質の改善も報告されています。

 

この結果は、「体重が減った」というだけではなく、睡眠時無呼吸症候群そのものの改善につながる可能性を示した点で、世界的に大きな注目を集めました。

 

近年では、減量そのものによる効果だけでなく、炎症やインスリン抵抗性の改善を通じて、睡眠呼吸障害そのものにも良い影響を与えている可能性が議論されています。

 

こうした結果を受けて、2024年12月に米国FDAはゼップバウンドを「肥満を伴う中等症〜重症の睡眠時無呼吸症候群」の治療薬として承認しました。さらに日本でも適応拡大により使用可能となりました。

 

ゼップバウンドを処方できる医療機関は限られる

今回の適応拡大により、BMI 27 kg/m²以上で、PSG検査で中等症以上の睡眠時無呼吸症候群(AHI 15以上)を伴う肥満症患者さんに対して、ゼップバウンドが新たな治療選択肢となりました。

 

一方で、ゼップバウンドはどの医療機関でも処方できるわけではありません。処方には「最適使用推進ガイドライン」を満たす必要があり、一定の条件を満たした医療機関のみで使用可能となっています。

 

具体的には、肥満症や睡眠時無呼吸症候群などの診療に関わる学会(日本内分泌学会、日本糖尿病学会、日本循環器学会、日本呼吸器学会、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会など)から、教育研修施設として認定を受けている必要があります。

 

そのため、実際には大学病院や一部の専門医療機関が中心となり、一般のクリニックで自由に処方できる状況ではありません。

 

当クリニックでの対応について

当クリニックでは、現在のところゼップバウンドの処方は行っておりません。

 

ただし、2型糖尿病のある方には、病状や体質に応じてマンジャロを用いた治療をご提案しております。また、ゼップバウンドの適応となる可能性がある方については、連携している高度医療機関へのご紹介を行っております。

 

睡眠時無呼吸症候群は、「いびきが大きいだけ」と思われがちですが、実際には高血圧症や糖尿病、心筋梗塞・脳卒中などの心血管疾患とも深く関係する重要な病気です。

 

特に肥満を伴う場合には、CPAPによる治療だけでなく、減量を含めた根本的な治療が非常に重要になります。

「CPAPを使っていても十分に改善しない」

「体重を減らしたいのに、なかなかうまくいかない」

「睡眠時無呼吸症候群と肥満をまとめて改善したい」

 

このようなお悩みがある方は、ぜひ一度ご相談ください。受診をご希望の方は、予約ページよりご予約いただけます。患者さん一人ひとりに合わせた、最適な治療をご提案いたします。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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