- 2026年6月26日
- 2026年6月3日
2026年8月1日からマンジャロが25%値下げへ―メリットと注意点を解説
目次
はじめに
東京のJR中野駅南口すぐの場所で診療を行っている糖尿病専門医の大庭健史です。
当クリニックには、肥満を伴う2型糖尿病の患者さんからのご相談が多く寄せられており、近年はGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬を用いた治療を行う機会が増えています。
なかでもマンジャロ(一般名:チルゼパチド)は、優れた血糖改善効果に加えて高い体重減少効果も期待できることから、国内外で大きな注目を集めている薬剤です。
そのマンジャロが、2026年8月1日から厚生労働省による「持続可能性特例価格調整」の対象となり、薬価が約25%引き下げられる予定となりました。
糖尿病治療は長期間に及ぶことが多いため、今回の薬価改定は患者さんの経済的負担を軽減し、治療を継続しやすくするという点で大きな意義があります。
一方で、マンジャロはSNSやインターネット上で「やせる注射」として取り上げられることも多く、薬価の引き下げによって美容目的での不適切な使用や安易な利用が増えることも懸念されています。

今回は、マンジャロの薬価引き下げによって期待されるメリットと、注意すべきポイントについて、糖尿病専門医の立場からわかりやすく解説します。
マンジャロとはどのような薬か
マンジャロは、2022年6月にアメリカで発売され、日本では2023年4月から使用できるようになった2型糖尿病治療薬です。

(出典:田辺三菱製薬ホームページ)
マンジャロは、もともと私たちの体内にあるGIPというホルモンの働きを応用して開発された薬です。効果が長く続くように設計されており、血中半減期は約4.9日と長いため、週1回の注射で治療を行うことができます。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6308032)
従来のGLP-1受容体作動薬はGLP-1というホルモンの働きを利用していましたが、マンジャロはGLP-1に加えてGIPにも作用することが大きな特徴です。
そのため、インスリンの分泌を促して血糖値を改善する効果に加え、食欲を抑えたり満腹感を持続させたりする作用によって、高い体重減少効果も期待できます。
実際に、マンジャロは従来のGLP-1受容体作動薬を上回る血糖改善効果と体重減少効果が報告されており、糖尿病治療に大きな変化をもたらした薬の一つといえます。
もともとは2型糖尿病の治療薬として開発されましたが、その優れた効果から世界的に注目を集めており、近年は肥満症治療の分野でも大きな期待が寄せられています。
論文で示された大きな体重減少効果
マンジャロが注目されている最大の理由は、その優れた体重減少効果です。
2022年に医学雑誌「New England Journal of Medicine」に掲載されたSURMOUNT-1試験では、肥満症の患者さん2,500人以上を対象にマンジャロの効果が検証されました。
その結果、72週間の治療により、平均体重減少率は5 mgで15.0%、10 mgで19.5%、15 mgで20.9%に達しました。

特に15 mgでは平均で20%を超える体重減少が認められ、70%以上の患者さんが15%以上の減量を達成しています。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2206038)

これは従来の肥満治療薬では達成が難しかったレベルの減量効果であり、一部では肥満症に対する手術療法に匹敵する可能性があるとも考えられています。
さらに長期追跡調査では、多くの患者さんが3年間にわたって体重減少を維持できていたことも報告されています。
糖尿病患者さんにとってのメリット
今回の薬価引き下げによる最大のメリットは、治療を継続しやすくなることです。
マンジャロは非常に有効な薬ですが、アメリカや韓国などと比較すると薬価は低く抑えられているものの、他の飲み薬の糖尿病治療薬と比べると高価であることが課題の一つでした。
糖尿病は長期間にわたって治療を続ける必要がある病気であり、毎月の医療費負担は決して小さくありません。薬価が下がることで、経済的な理由から治療継続をためらっていた患者さんにとって大きな助けになることが期待されます。
今回の薬価改定では、マンジャロの全規格が約25%引き下げられます。例えば3割負担の場合、薬剤費の自己負担額は5mg製剤で月あたり約4,600円から約3,460円へ、10mg製剤で約9,200円から約6,920円へ、15mg製剤で約13,900円から約10,380円へ減少する見込みです。
実際には診察料や検査料なども加わりますが、長期間治療を続ける患者さんにとっては大きな負担軽減になると考えられます。
また、マンジャロのメリットは血糖値を下げることだけではありません。体重が減少することで、血圧や脂質異常症、脂肪肝の改善が期待できるほか、肥満が関係する睡眠時無呼吸症候群の改善につながる可能性もあります。
糖尿病そのものだけでなく、糖尿病に関連するさまざまな健康問題の改善が期待できることは、マンジャロの大きな魅力といえるでしょう。
さらに、SURMOUNT-1試験の長期解析では、糖尿病予備群の方において2型糖尿病へ進行するリスクを最大94%低下させたことも報告されています。
糖尿病の治療だけでなく、将来的な糖尿病の発症予防という観点からも注目されている薬剤です。
値下げで懸念される「やせ薬」としての使用拡大
一方で、今回の薬価引き下げには懸念もあります。
近年、マンジャロはSNSやインターネット上で「簡単にやせられる注射」として紹介されることが増えています。しかし実際には、医師の管理のもとで適切に使用すべき治療薬です。
それにもかかわらず、「数 kgだけ体重を減らしたい」「結婚式までに急いでやせたい」「美容目的で使いたい」といった理由で使用を希望する方も少なくありません。
薬価が下がれば自費診療での利用のハードルも下がるため、本来は治療の必要性が高くない方への使用が増える可能性があります。特にBMIが正常範囲の若い女性では、必要以上の体重減少によって健康を損なうおそれがあります。
こうした状況を受けて、2023年4月12日には日本糖尿病学会が「GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解」を公表しました。
その中で、糖尿病や肥満症などの適応疾患を有しない方に対する美容・痩身・ダイエット目的での適応外使用については避けるべきであるとの見解が示されています。
また、薬だけに頼り、食事や運動などの生活習慣改善がおろそかになることも懸念されます。糖尿病や肥満症は慢性的な病気であり、薬だけで根本的に解決できるものではありません。
特に体重管理においては、適切な食事療法や運動療法を継続することが治療の基本となります。 当クリニックでは、マンジャロはあくまで糖尿病治療のための薬であり、美容目的のやせ薬ではないと考えています。
そのため、糖尿病の診断があり、医学的に必要と判断される患者さんに対して保険診療で処方を行っています。一方で、美容目的での自費診療によるマンジャロ処方は行っておりません。
マンジャロの副作用にも注意が必要
マンジャロは非常に有効な薬ですが、副作用がないわけではありません。
最も多いのは消化器症状で、吐き気や嘔吐、下痢、便秘、腹痛、食欲低下などがみられることがあります。これらの症状は投与開始時や増量時に起こりやすく、多くは時間の経過とともに軽快しますが、症状が強く治療継続が難しくなる方もいます。
また頻度は高くありませんが、急性膵炎や胆石症、胆のう炎、低血糖などの重篤な副作用にも注意が必要です。特に低血糖は、他の糖尿病治療薬と併用している場合に起こりやすくなります。
さらに、急激な体重減少によって筋肉量が減少することもあります。特に高齢者ではサルコペニアやフレイルの原因となる可能性があるため、十分な栄養摂取と適度な運動が欠かせません。
「やせる薬だから安全」という考え方は危険です。マンジャロは高い効果を持つ一方で、副作用にも十分注意しながら使用すべき薬であり、定期的な診察や検査を受けながら治療を続けることが重要です。
まとめ
2026年8月1日から予定されているマンジャロの約25%の薬価引き下げは、糖尿病患者さんにとって大きな朗報といえます。
マンジャロは優れた血糖改善効果に加えて高い体重減少効果を持ち、肥満や糖尿病関連合併症の改善が期待できる画期的な薬です。
今回の薬価改定によって経済的負担が軽減されることで、これまで以上に治療を継続しやすくなり、多くの患者さんがその恩恵を受けられることが期待されます。
一方で、価格が下がることで美容目的や適応外での使用が増える可能性もあります。マンジャロは決して気軽に使える「やせ薬」ではなく、副作用やリスクを十分理解したうえで、医師の管理のもと適切に使用すべき治療薬です。
薬価引き下げをきっかけに、この薬に対する正しい理解が広がり、本当に必要な患者さんへ適切に届けられることが望まれます。
また、糖尿病や肥満症の治療では、薬物療法だけでなく食事療法や運動療法などの生活習慣改善が基本となります。
生活習慣を整えることで血糖コントロールの改善につながるだけでなく、将来的な心筋梗塞、脳卒中といった心血管疾患の予防も期待できます。
マンジャロの効果を最大限に引き出すためにも、薬だけに頼るのではなく、生活習慣の見直しを並行して行うことが大切です。
食事療法や運動療法について詳しく知りたい方は、当クリニックのブログもぜひご覧ください。
当クリニックでは、患者さん一人ひとりの病状や生活背景、ご希望に合わせて、マンジャロをはじめとするGLP-1関連薬を含めた最適な治療をご提案しています。
糖尿病や肥満症治療についてお悩みの方は、自己判断で抱え込まず、お気軽にご相談ください。受診をご希望の方は、当クリニックの予約ページよりご予約いただけます。患者さん一人ひとりに合わせた最適な治療をご提案いたします。
(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)
