- 2026年6月13日
- 2026年2月16日
妊婦さんの約0.3%に発症する妊娠一過性甲状腺機能亢進症とは?
目次
- 妊娠一過性甲状腺機能亢進症とは
- 妊娠中の検査で甲状腺ホルモン高値を指摘されたら
- 甲状腺の役割と妊娠による変化
- 妊娠と甲状腺ホルモン変動の仕組み
- どんな症状がみられるのか?
- バセドウ病との違い
- 妊娠一過性甲状腺機能亢進症に治療は必要か?
- 赤ちゃんへの影響と安心感
- 出産後のフォロー
- 最後に
妊娠一過性甲状腺機能亢進症とは
東京都中野区にある中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科院長の大庭健史です。
私はこれまで大学病院やレディースクリニックにおいて、不妊治療中および妊娠中の甲状腺疾患の診療を専門的に行ってまいりました。
現在も当クリニックでは、妊娠と甲状腺疾患に関する専門診療を行っています。 今回は、妊娠初期にまれにみられる妊娠一過性甲状腺機能亢進症(gestational transient thyrotoxicosis:GTT)について、原因や特徴を分かりやすく解説します。

妊娠中の検査で甲状腺ホルモン高値を指摘されたら
妊娠中の健診で血液検査を受けた際、甲状腺ホルモン値が高いと指摘され、「妊娠による一時的な変化なのか」「何か病気が隠れているのではないか」と不安になる方は少なくありません。
このような場合に診断されることがあるのが「妊娠一過性甲状腺機能亢進症」です。これは妊娠に伴うホルモン変化によって一時的に甲状腺が刺激され、甲状腺ホルモンが高値となる状態を指します。
甲状腺の役割と妊娠による変化
甲状腺は、喉ぼとけの直下に位置し、蝶が羽根を広げたような形をしている臓器です。

この臓器は、全身の新陳代謝や成長の促進に関与するホルモン(甲状腺ホルモン)を分泌します。妊娠中は体内環境が大きく変化するため、それに伴い甲状腺ホルモン値が変動することがあります。
日本国内で23,163人の妊婦を対象に行われた大規模臨床研究では、妊娠一過性甲状腺機能亢進症の発生頻度は0.285%と報告されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9861323)
妊娠と甲状腺ホルモン変動の仕組み
妊娠中は、hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンが急激に増加します。
hCGは胎児の成長を支える重要なホルモンですが、その構造がTSH(甲状腺刺激ホルモン)と似ているため、甲状腺を刺激する作用があります。
その結果、一時的に甲状腺ホルモンが高値となることがあり、これが妊娠一過性甲状腺機能亢進症と呼ばれる状態です。
この状態は妊娠初期、特に妊娠8〜11週頃にみられることが多く、一般的には妊娠16週以降になると自然に落ち着いていきます。
hCGの値が低下すると甲状腺への刺激も弱まり、甲状腺ホルモン値も正常範囲へ戻ります。
どんな症状がみられるのか?
妊娠一過性甲状腺機能亢進症では、動悸(心臓がドキドキする)、手の震え、暑がりやすい、やや不安を感じやすいといった、甲状腺機能亢進症にみられる症状が現れることがあります。

ただし、これらは妊娠初期のつわりの症状と似ているため、症状だけで判断するのは難しい場合が多いです。
多くの場合、妊婦健診などで行われた採血検査によって甲状腺の値の異常が偶然見つかることが多く、症状のみでこの状態を自己判断するのは困難です。
バセドウ病との違い
妊娠中に甲状腺ホルモン高値と診断されると、バセドウ病を心配される方は少なくありません。
バセドウ病は免疫の異常によって甲状腺が過剰に刺激される病気で、抗甲状腺薬(プロパジールなど)による治療が必要になります。
一方、妊娠一過性甲状腺機能亢進症は、妊娠に伴う一時的なホルモン変化が原因で起こるもので、自己抗体(TSH受容体抗体:TRAb)は通常陰性であり、甲状腺の腫大や眼球突出などの所見もみられません。
血液検査で抗体検査を行い、詳しく調べることで、バセドウ病との区別が可能です。
妊娠一過性甲状腺機能亢進症に治療は必要か?
多くの場合、積極的な治療は不要で、経過観察が中心となります。
これは、この状態が妊娠に伴う一過性の変化によって起こるためで、ホルモン刺激が弱まるにつれて自然に改善していくのが一般的だからです。
ただし、症状が非常に強く日常生活に支障をきたす場合や、妊娠中に他の合併症がある場合には、症状を和らげる薬剤を使用することもあります。
赤ちゃんへの影響と安心感
妊娠一過性甲状腺機能亢進症そのものが、お腹の赤ちゃんに重大な悪影響を与えることはほとんどありません。
つまり、多くの場合は甲状腺ホルモンの軽度の上昇が一過性で終わるため、母体と胎児にとって深刻な影響を及ぼすことは稀です。
ただし、全体の妊娠管理において甲状腺の状態を含めて総合的に判断することは大切です。
出産後のフォロー
妊娠一過性甲状腺機能亢進症は、出産後に自然に消失するのが一般的ですが、まれに産後になって別の甲状腺異常が見つかることがあります。
そのため、念のため出産後にも一度、甲状腺機能検査を受けることをおすすめします。妊娠中に甲状腺の異常を指摘された方ほど、産後のフォローを行うことで安心につながります。
最後に
妊娠中の体調の変化や検査結果は、初めての妊娠や多胎妊娠の場合、特に不安を感じやすいものです。
当クリニックでは、内科および甲状腺の専門知識をもとに、妊娠一過性甲状腺機能亢進症の診断から経過観察、必要な検査まで丁寧に対応しています。
また、一般的な甲状腺疾患について詳しく知りたい方は、当クリニックのホームページ「甲状腺・内分泌」もご参照ください。
「妊娠中に甲状腺の値が高いと言われた」「何に気をつければよいのか分からない」といったお悩みをお持ちの方は、ぜひご相談ください。受診をご希望の方は予約ページよりご予約いただけます。安心して妊娠生活を送れるよう、全力でサポートいたします。
(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)
