• 2023年10月15日

年を取ったら脂質異常症(高コレステロール血症)の治療はやめて良いの?

中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の医師の大庭健史です。今回は脂質異常症コラムの第3回目として、高齢者と脂質異常症の関係についてお話させていただきます。

 

高齢になると、一般的には複数の持病を抱えていることが多く、その結果多くの薬剤を服用することがあります。このような方々の中には、「ポリファーマシー(不必要または不適切な薬物摂取)」の状態に陥ることがあります。

 

日本で行われた臨床研究によれば、薬剤の数が6~7種類以上になると、薬物による有害事象が増加するとの報告があります。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22998384)

 

また、薬剤の数が5~6種類以上となると、高齢者の転倒リスクが増加するとの研究結果も存在します。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22212467)

 

 

このような報告が出てから、薬剤の数に意識を向ける医師が増え、近年では不必要な薬剤を減らすことが増えています。当クリニックもこの考え方が妥当だと考え、「あまり必要のない薬剤は処方しない」という方針にしております。

 

ただこの薬剤を減らす際に、高コレステロール血症の治療薬であるスタチンを中止するケースが多々あります。しかし、海外の臨床研究によると、65歳以上の高齢者がスタチンの服用を中断すると、心不全を含む心血管疾患による入院と死亡のリスクが増加するという報告があります。(https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2780952)

 

そのため、以前から内服している高コレステロール血症の治療薬は、副作用がなければ基本的には継続して服用することが良いでしょう。特に心疾患や脳卒中などのリスクが高い患者さんは、高コレステロール血症の治療薬を中止しないようにすることをお勧めします。

 

また高齢になってから高LDLコレステロール血症になった場合、薬物療法が必要かどうかについてもお話させていただきます。

 

高齢者における脂質異常症の治療効果については、2002年に公表されたPROSPER試験という大規模臨床研究によって初めて検証されました。この研究では、70~82歳の心疾患のリスクの高い患者さんにプラバスタチン(高コレステロール血症の治療薬)を投与することで、冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症など)の予防効果があると報告しています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12457784)

 

この研究結果から、高齢者においても脂質異常症の治療が有益である可能性が示唆されました。ただしこの研究には、すでに冠動脈疾患を有する患者が多く含まれており、また83歳以上の患者さんが含まれていません。従って、冠動脈疾患の発症が比較的少ない世界有数の長寿国の日本において、同様の結果が得られるかは長らく不明でした。

 

この疑問を解決すべく日本で実施されたのが、EWTOPIA75(ユートピア75試験)という大規模な臨床研究になります。

 

この研究は、PROSPER試験と比較して冠動脈疾患のリスクの少ない高LDLコレステロール血症の日本人を対象としています。対象者は平均年齢80.6歳、平均BMI23.6、平均LDLコレステロール161.6 mg/dLで、3411人を2つのグループに分け、治療を強化するグループにはエゼチミブ(高コレステロール血症の治療薬)が投与され、もう一方のグループは食事療法のみとしました。

 

その結果、エゼチミブを使用して治療を強化したグループは、食事療法のみのグループと比較して、心筋梗塞や脳梗塞などの主要な評価項目のリスクが34%減少しました。以下の図からも分かる通り、特に85歳未満のグループでは心筋梗塞や脳梗塞のリスクが42%減少することから、超高齢者(85歳以上)を除いては高コレステロール血症の治療薬を新たに内服するのは有益かもしれません。

 

(出典:Circulation 2019; 140: 992-1003)

 

しかしながら、高齢者を対象とした研究ということもあり、研究を開始してから5年間経過を追跡できた人は約50%しかいません。このため、選択バイアス(偏り)の一つである生存バイアスの影響が大きいため、この研究結果については完全に正しいとまでは言えません。

 

当クリニックとしましては、EWTOPIA75の研究結果を尊重し、高齢者であっても脂質異常症の治療薬を使用していきますが、患者さんとよく相談した上で処方しないという選択肢もあると考えます。特に85歳以上の超高齢であれば、EWTOPIA75の結果から新たに脂質異常症の治療薬を処方する必要はないと考えます。

 

また、食事療法については、以前のブログ「脂質異常症(高LDLコレステロール血症)における食事療法について」でも触れましたが、高齢者であっても高LDLコレステロール血症の改善のために、食物繊維を豊富に含む食品(野菜、大豆製品、海藻、きのこなど)を多く摂取することをおすすめします。

 

ただし、若年者とは異なり、コレステロールと飽和脂肪酸を多く含む食品(肉、卵、乳製品など)を控える必要はありません。 

 

その理由は、肉や卵には良質なタンパク質が豊富に含まれるためです。これらを制限すると、高齢者ではタンパク質の慢性的な不足に陥り、低栄養による免疫力低下を招きます。その結果、肺炎やインフルエンザなどにかかりやすく、また重症化しやすくなります。肥満のない高齢者であれば、食べたいものをしっかり食べるのが良いと考えます。

 

以上のことから、当クリニックの見解としては「高齢になっても脂質異常症(高コレステロール血症)の治療を継続する」ことと「高齢になったら食事療法を適度に続けつつ、しっかり食べること」です。

 

脂質異常症を含む生活習慣病に関するご相談やお悩みがあれば、ぜひ当クリニックにご来院いただければと思います。また当クリニックでは、引き続きブログでの情報発信を通して、皆さんの健康増進に貢献できればと考えております。

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