• 2023年10月21日

青魚に多く含まれるEPAとDHAはどのくらい摂取すれば良いの?

当クリニックのブログをご覧いただいている方々の中には、「青魚に多く含まれるEPAとDHAをたくさん取ると頭が良くなる」といった話を聞いたことがあるかもしれません。

 

 

EPAはエイコサペンタエン酸、DHAはドコサヘキサエン酸の略称です。どちらも体内でほとんど生成されない必須脂肪酸の一種で、いずれも青魚(イワシやサバなど)に多く含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸に分類されます。

 

さらに、何年も前に「おさかな天国」という歌において、「魚、魚、魚、魚を食べると、頭、頭、頭、頭が良くなる~」と歌われたことを思い出される方もいるでしょう。多くの方が、魚(特に青魚)を摂ると頭(脳)に良い影響を及ぼすというイメージを持っているかもしれません。院長自身も、学生の頃に母親から「頭が良くなるから青魚を食べなさい」と言われた記憶があります。

 

実際に、テキサス大学のClaudia Satizabalらによる研究によれば、EPAやDHAなどのn-3系多価不飽和脂肪酸の血中濃度が高い場合、一部の思考力に関する検査結果が良かったと報告されています。また、認知症の患者さんにおいても、n-3系多価不飽和脂肪酸の血中濃度が高い場合、脳の海馬と呼ばれる短期記憶に関与する部分の容積が大きいとの研究結果が示されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36198518)

 

しかしながら、このような成果を出している論文がある一方で、そうではない結果を示す研究も多数存在します。そのため、EPAやDHAなどのn-3系多価不飽和脂肪酸を摂取して脳に良い影響を与えるかどうかについては、明確な結論が得られていない現状です。そのため、頭(脳)を良くすることを目的にEPAやDHAなどのサプリメントまたは薬剤を服用することは、副作用のリスクもあることから一概にはおすすめできません。

 

ですが、薬剤のEPAとDHAは脂質異常症治療薬として使用されており、血中の中性脂肪を下げる効果があります。また、EPAやDHAといったn-3系多価不飽和脂肪酸は、虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など)の予防に有益であるとの研究結果が報告されています。

 

この有益性が最初に示されたのは、1978年にデンマークで発表された研究です。この研究は、グリーンランドに住むイヌイット族とデンマーク人を比較し、イヌイット族の心筋梗塞による死亡率がデンマーク人の約10分の1未満であることが報告されました。その一因として、イヌイット族の食事に多くのn-3系多価不飽和脂肪酸が含まれていることが考えられました。(https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(78)91505-2/fulltext)

 

その後、世界各国で基礎研究や臨床研究が行われ、1989年のDART試験において、虚血性心疾患の二次予防(すでに虚血性心疾患を発症した人の再発を予防する)に対する効果が報告されました。この研究によれば、心筋梗塞を経験した患者の中で魚を多く摂取する方は、死亡リスクが約29%低減したとされています。(https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(89)90828-3/fulltext)

 

また、2008年に発表された日本の大規模臨床試験であるJELIS試験では、脂質異常症治療薬であるスタチンを服用している患者さんに対し、高純度のEPA製剤(1日あたり1.8 mg)を追加投与するグループと、追加投与しないグループとを比較する研究が行われました。

 

この研究の結果、高純度のEPA製剤を追加投与することで、下図のとおり虚血性心疾患の発症リスクが約53%減少することが示されました。(https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0021915008003948)

 

(出典:Atherosclerosis 2008; 200: 135-140)

 

以上のことから、EPAやDHAなどの n-3系多価不飽和脂肪酸は、心臓疾患の予防においては有益であると考えられます。ただし、EPAとDHAを1日にどれくらい摂取して良いのかが問題になってきます。

 

EPAとDHAが両方とも含まれる薬剤は、一見最良の治療薬のように思われるかもしれません。しかし、この薬剤は複数の大規模な臨床研究において、虚血性心疾患の予防に対する明確な効果が認められていません。

 

したがって、JELIS試験の研究結果より、虚血性心疾患を予防するためにはEPAを少なくとも1日に1.8 g以上摂取する必要があります。この摂取量を達成するためには、例えば、イワシなら約150 g、サバなら約200 g、サケなら約350 gを毎日摂取する必要があり、これは現実的ではないと言えます。

 

そのため当クリニックの見解としては、EPAやDHAなどのn-3系多価不飽和脂肪酸を過剰に摂取する必要はないと考えます。やはりバランスの良い食事を心がけるのが良いためです。脂質異常症の具体的な食事療法については、以前のブログ「脂質異常症(高LDLコレステロール血症)における食事療法について」と「高中性脂肪血症と低HDLコレステロール血症について解説」でお話させていただきましたので、そちらを参考にしていただければと思います。

 

また、EPAやDHAなどのサプリメントの摂取もあまりおすすめしていません。サプリメントは医薬品に比べて費用が高めにも関わらず、さらにEPAの含有量が十分でないことが多いため、虚血性心疾患の予防には効果を期待しづらいためです。

 

虚血性心疾患のリスクが高い脂質異常症患者さんに対しては、JELIS試験の結果を踏まえ、スタチン(脂質異常症治療薬)とEPA製剤の併用が有益であると考えます。特に、既に虚血性心疾患を患っている患者さんや、頸動脈エコー検査で進行した動脈硬化が確認された患者さんなどが該当します。

 

当クリニックでは隔週の月曜日の午後に栄養指導を行っております。EPAやDHAなどのn-3系多価不飽和脂肪酸を無理なく食事で摂取する方法や、バランスの良い食事法などについても、ご相談にのります。お気軽にご利用いただければと思います。

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