• 2025年10月11日

9月19日に製造販売承認された高コレステロール血症治療薬ネクセトールとは

中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長の大庭健史です。

 

当クリニックのホームページの「脂質異常症」やブログでは、これまで高コレステロール血症の治療の重要性についてお伝えしてきました。今回は、新たに登場した高コレステロール血症治療薬「ネクセトール(ベムペド酸)」についてご紹介します

 

高コレステロール血症は、心筋梗塞や脳梗塞といった動脈硬化性疾患のリスクを高める代表的な生活習慣病のひとつです。

 

特に、心筋梗塞などの虚血性心疾患を発症しやすい家族性高コレステロール血症では、スタチンやエゼチミブなどの従来薬だけではLDLコレステロールを十分に低下させられない場合も少なくありません。その結果、動脈硬化が進行し、虚血性心疾患を発症してしまうケースも見られます。

 

こうした状況の中で、2025年9月19日に日本で新たに製造販売承認を受けたネクセトールは、従来の治療で十分な効果が得られなかった方に対し、新たな治療の選択肢として期待されています。

 

特に家族性高コレステロール血症などでは、これまで高価な注射製剤(例:レパーサ)を使用していたケースでも、内服薬で対応できる可能性が広がると考えられています。今回のブログでは、このネクセトールについて詳しく解説いたします。

 

 

ネクセトールとはどんな薬か

ネクセトールは、ATPクエン酸リアーゼという酵素を抑える新しいタイプの高コレステロール血症治療薬です。

 

従来薬であるスタチンはコレステロール合成経路の下流を阻害しますが、ネクセトールはより上流の段階を抑えることで、肝臓でのコレステロール合成をさらに効果的に抑制します。

 

肝臓でコレステロールの合成が抑えられると、血液中のLDLコレステロールを取り込むLDL受容体が増加します。これにより、血中のLDLコレステロール(俗に「悪玉コレステロール」と呼ばれるもの)が低下します。

 

もう一つの大きな特徴は、肝臓では活性化されるが、筋肉ではほとんど活性化されない点です。スタチンでよく見られる筋肉痛や倦怠感といった副作用は、筋肉での薬の作用によって起こると考えられていますが、ネクセトールは筋肉にほとんど作用しないため、スタチンで筋肉症状が出やすい方にも使用しやすい薬といえます。

 

臨床試験で明らかになった効果

世界的に権威のある医学雑誌「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に掲載された CLEAR Harmony試験では、ネクセトールを投与した結果、12週間後に LDLコレステロール値が平均16.5%低下 することが報告されました。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1803917)

 

(出典:N Engl J Med 2019; 380: 1022-1032)

 

さらに、スタチンの副作用により内服が困難な患者さんを対象とした CLEAR Serenity試験では、ネクセトールによって LDLコレステロールが平均21.4%低下し、副作用の発現も比較的少ないことが確認されています。(https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6509724)

 

 

(出典:J Am Heart Assoc 2019; 2: 8(7) : e011662)

 

また、2023年に同じく「NEJM」に発表されたCLEAR Outcomes試験では、約14,000人の心血管疾患高リスク患者を対象に、ネクセトールの心血管イベント抑制効果が検討されました。

 

その結果、主要心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)の発症リスクが約13%低下することが示されています。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2215024)

 

(出典:N Engl J Med 2023; 388: 1353-1364)

 

これらの結果から、ネクセトールは単にLDLコレステロールを下げるだけでなく、心血管疾患の予防にも寄与する可能性がある薬剤 として注目されています。

 

家族性高コレステロール血症への期待

家族性高コレステロール血症は、遺伝的にLDL受容体の機能に異常があることにより、LDLコレステロールが著しく高くなり、若年期から狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患を発症しやすい疾患です。

 

最大用量のスタチンにエゼチミブを併用しても十分にLDLコレステロールを低下させられないことが多く、そのような場合には、高価な注射薬であるPCSK9阻害薬(レパーサなど)が使用されることもあります。

 

ネクセトールはスタチンとは異なる作用機序を持つため、スタチンや他の薬剤との併用によりさらなるLDLコレステロール低下が期待できる薬剤です。

 

海外では、家族性高コレステロール血症の患者さんを対象にした臨床試験も行われており、既存の治療で目標値に達しなかった患者さんにネクセトールを追加したところ、12週後に約31.9%の患者がLDL-C 100 mg/dL未満を達成したと報告されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38341323)

 

このように、ネクセトールは家族性高コレステロール血症を含む難治性の高コレステロール血症に対して、既存治療を補う新たな選択肢 として期待されています。

 

今後、日本国内での使用経験の蓄積により、どのような患者さんに最も有効であるかがさらに明らかになっていくと考えられます。

 

副作用について

ネクセトールは比較的安全性の高い薬とされていますが、副作用が全くないわけではありません。

 

5%以上の報告がある高尿酸血症には注意が必要で、尿酸値の上昇により痛風発作を起こすことがあると報告されています。また、比較的まれではありますが、肝機能障害や腎機能障害の報告もあります。

 

そのため、ネクセトールを内服する場合は、脂質の変化だけでなく尿酸値などについても注意深く経過をみていく必要があります。

 

今後の展望について

ネクセトールは、スタチンが使用できない患者さんや、スタチンやエゼチミブを併用しても目標値に達しない患者さんにとって、新たな希望となる薬です。

 

筋肉への副作用が少なく、経口薬として服用しやすい点も大きな利点です。一方で、新薬であることから、長期的な安全性や心血管イベント抑制効果の評価には、今後のデータの蓄積が必要とされています。

 

また、脂質異常症の治療は薬だけに頼るものではなく、食事や生活習慣の見直しと並行して行うことが何より重要です。

 

薬によるLDLコレステロール低下はあくまで動脈硬化を防ぐための一手段であり、日々の食事管理・体重コントロール・適度な運動の継続こそが、健康寿命を延ばす最も確かな治療といえるでしょう。

 

まとめ

2025年9月19日に製造販売承認されたネクセトールは、従来の治療で十分な効果が得られなかった方や、スタチン不耐性の患者さんに対して有望な治療選択肢となる可能性があります。

 

家族性高コレステロール血症など、LDLコレステロールの管理が難しい患者さんにとっても、新たな希望をもたらす薬剤といえるでしょう。

 

ただし、尿酸値の上昇や肝機能障害などの副作用が報告されているため、医師の管理のもとで安全に使用することが大切です。

 

当クリニックでは、隔週月曜午後に管理栄養士による栄養相談を行っています。コレステロールを下げるための食事の工夫や、薬との上手な付き合い方など、一人ひとりに合わせた実践的なアドバイスを提供しています。

 

薬物治療と食事療法の両立を図りたい方は、ぜひお気軽にご相談ください。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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