• 2023年10月3日
  • 2023年10月5日

高中性脂肪血症と低HDLコレステロール血症について解説

中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の院長の大庭健史です。今回は脂質異常症コラムの第2回目として、高中性脂肪血症と低HDLコレステロール血症についてお話させていただきます。

 

 

中性脂肪は脂質の一種で、コレステロールと同様に蛋白と結合して血液中に溶け込んで全身に運ばれます。コレステロールは細胞膜やホルモンなどの一部を構成し、中性脂肪は分解されて筋肉や心臓組織などでエネルギーとして利用されます。

 

中性脂肪やコレステロールなどの脂質は私たちにとって不可欠なものですが、脂質が過剰になると動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患のリスクが高まります。

 

したがって、高中性脂肪血症は治療が必要ですが、高LDLコレステロール血症と比較して動脈硬化性疾患のリスクはそれほど高くはありません。そのため、中性脂肪とLDLコレステロールの両方が高値である場合、薬物治療は高LDLコレステロール血症の方を優先することが一般的です。

 

ですが、著明な高中性脂肪血症(中性脂肪が500 mg/dL以上)の場合、それが急性膵炎のリスクになることが報告されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23183821)

 

中性脂肪が1000 mg/dL以上の場合、膵炎発症のリスクは約8%と言われており、中性脂肪が2000 mg/dL以上に上昇すると、そのリスクは約10~20%に増加するとされています。さらに、中性脂肪が2000 mg/dL以上になると、膵炎がより重症化しやすくなるという報告もあります。

 

そのため、高中性脂肪血症は高LDLコレステロール血症と同様に、積極的な治療が必要とされます。そして、まずは食事療法と運動療法が基本となります。

 

食事療法については、まず糖質を多く含む食品(清涼飲料水、お菓子、白米など)に注意が必要です。清涼飲料水やお菓子などの糖質を過剰に摂取すると、食後に急速に血糖値が上昇し、膵臓からインスリンというホルモンが多く分泌されます。そのインスリンが、余ったグルコース(ブドウ糖)を中性脂肪に変えてしまうため、高中性脂肪血症となってしまいます。

 

 

そのため、まず糖質を多く含む食品の摂取を控えることが大切です。特に清涼飲料水とお菓子は減らすよう心がけましょう。また、果物やフルーツジュースは健康的に思えるかもしれませんが、これらも糖質が多いため、中性脂肪が増えやすいことに留意が必要です。

 

それに加えて、GI(グリセミック・インデックス)が低い食品を選ぶことも重要です。以前のブログ「糖尿病の食事療法と当クリニックの栄養指導について」でおすすめした白米を雑穀米または玄米に切り替えることは、急速な血糖上昇を抑えることができるので中性脂肪の改善にも有効です。

 

また、アルコール摂取についても注意が必要です。アルコールは、中性脂肪の原料である脂肪酸の合成を促進するSREBP-1cという酵素の活性を高める作用があります。一方で、脂肪酸の分解を促進するAMPKという酵素は、アルコールによってその働きが抑制されます。そのため、食事のときにアルコールを一緒に摂取すると中性脂肪が次々と作られてしまいます。

 

アルコールは、日本の大規模な臨床研究の結果から、男性は1日当たり純アルコール10~19 gが最も死亡率が低いと報告され、また女性については男性よりも少ないほうが良いということが明らかになっています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10588080)

 

そのため、アルコールの摂取については1日あたり20 gまでが推奨されています。例えば、ビールでは中瓶1本(約500 mL)、日本酒では1合(約180 mL)、ワインではグラス1杯(約120 mL)までが適切な摂取量です。

 

また、中性脂肪を改善する食品としては、EPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)といったn-3系多価不飽和脂肪酸を豊富に含む青魚(サンマやサバなど)や植物油(ごま油やアマニ油)があります。これらの食品を適度に摂取することも大切です。

 

最後に、低HDLコレステロール血症についてお話させていただきます。1974 年に冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症など)の患者さんではHDLコレステロール値が低いことが報告され、1979年に発表されたフラミンガム研究ではHDLコレステロール値が男性では 45 mg/dL以下、女性では 34 mg/dL 以下で冠動脈疾患になるリスクが高まることが報告されています。(https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/364764)

 

また日本で行われた大規模臨床研究でも、HDLコレステロール値が40 mg/dL 以下で冠動脈疾患のリスクが高まることが報告されています。(https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/01.CIR.89.6.2533)

 

以上のことから、HDLコレステロール値が低いことは大きな問題になるのです。そこで、低HDLコレステロール血症の治療を目指して、ファイザー社はHDLコレステロール生成を促進するトルセトラピブという薬剤を開発していました。しかしながら、臨床試験で患者さんの死亡や心臓疾患が増加したため開発中止となり、現在も低HDLコレステロール血症の治療薬はありません。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17984165)

 

そのため、低HDLコレステロール血症の治療は食事療法と運動療法が中心となります。食事療法については、以前のブログ「脂質異常症(高LDLコレステロール血症)における食事療法について」でも触れた通り、トランス脂肪酸の摂取を制限することが非常に重要です。トランス脂肪酸は、マーガリンやショートニングを多用する洋菓子やパンなどに多く含まれており、過剰な摂取は虚血性心疾患のリスクを高めることが明らかになっています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19424218

 

さらに、コーン油などの植物油や動物性脂肪に多く含まれるn-6系多価不飽和脂肪酸は、HDLコレステロール値を低下させる傾向があります。したがって、これらが豊富に含まれる食品の摂取を制限することも重要です。 ここまで、高中性脂肪血症と低HDLコレステロール血症の食事療法についてお話ししましたが、食事療法を日常的に実践するのは簡単ではありません。

 

当クリニックでは、管理栄養士が隔週の月曜日の午後に栄養指導を行っています。20~30分ほどの時間をかけて、食事に関する質問や疑問に対して丁寧にアドバイスし、サポートいたします。お気軽にご利用いただければと思います。

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