• 2023年12月15日

生活習慣病専門の医師による高血圧症の食事療法と運動療法についての解説

中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の院長の大庭健史です。当クリニックホームページの「高血圧症」で高血圧症の治療の重要性についてお話ししてまいりましたが、今回は高血圧症における食事療法と運動療法に焦点を当ててお話ししたいと思います。

 

 

高血圧症とは

診察室で測定された収縮期血圧が140 mmHg以上または拡張期血圧が90 mmHg以上、あるいは自宅で測定された収縮期血圧が135 mmHg以上または拡張期血圧が85 mmHg以上が続く場合に、高血圧症と診断されます。 日本では、高血圧症の患者数は約4300万人と推定されており、その中で約3100万人が適切な管理を受けていないと考えられています。

 

さらに、この中で高血圧症と認識はしているが治療を受けていない方が約450万人、自身が高血圧症であることを自覚していない方が約1400万人、また薬剤による治療を受けているにも関わらず血圧の管理が不十分な方が約1250万人いると推測されています。

 

高血圧症はなぜ治療しなければいけない?

高血圧症を治療する主な目的は、動脈硬化に起因する虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など)や脳卒中(脳梗塞や脳出血など)などの合併症を予防することです。

 

日本国内で行われた質の高い10の臨床研究をまとめた論文によれば、血圧が120/80 mmHg未満の場合、脳心血管病死亡リスクが最も低いことが示され、血圧が上昇するにつれてリスクが増加する傾向が明らかになりました。特に若い年齢層では、そのリスク比が増大すると報告されています。(https://www.nature.com/articles/hr201287)

 

このため、高血圧症に関しては若い年齢の頃から降圧目標を達成するように適切に管理することが重要です。 

 

高血圧症における降圧目標について

高血圧治療ガイドライン2019によれば、脳心血管病予防の観点から、以下の条件に該当する方々に対して、より厳格な降圧目標が推奨されています。

 

それによると、75歳未満の方、糖尿病のある方、両側頚動脈狭窄や脳主幹部動脈閉塞のない脳血管障害を有する方、冠動脈疾患のある方、尿蛋白陽性の慢性腎臓病を有する方、抗血栓薬を服用されている方は、診察室で測定した血圧が130/80 mmHg未満、または自宅で測定した血圧が125/75 mmHg未満を降圧目標とすることが推奨されています。

 

これらの条件に該当しない75歳以上の患者さんに関しては、過去の研究により降圧が予後改善に寄与する明確な証拠がないため、診察室で測定した血圧が140/90 mmHg未満、または自宅で測定した血圧が135/85 mmHg未満を降圧目標とすることが推奨されています。

 

高血圧症はどのように治療するのが良いのか?

高血圧症の治療は、大きくは非薬物治療と薬物治療に分類されます。治療を開始する際は、高血圧緊急症を除き、通常はただちに薬物療法を導入するのではなく、まずは食事療法と運動療法から始めることが一般的です。以下に、食事療法と運動療法について分かりやすく説明いたします。

 

高血圧症の食事療法について

高血圧症の食事療法では、まず減塩が重要です。令和元年の国民健康・栄養調査によれば、日本人の平均食塩摂取量は10.1gと報告されていますが、高血圧症の改善には摂取量を1日6g未満にする必要があります。

 

大規模な臨床研究によると、1日の塩分摂取量を約4.6g減らすことで、高血圧症患者は収縮期血圧が4.96±0.40 mmHg、拡張期血圧が2.73±0.24 mmHg低下し、血圧が正常な方も収縮期血圧が2.03±0.27 mmHg、拡張期血圧が0.97±0.21 mmHg低下すると報告されています。 (https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12444537)

 

しかし、減塩を行うことは世界の平均食塩摂取量を上回る日本人にとっては難しい課題です。まずは塩分摂取量が多くなりがちな外食を控え、できるだけ自宅で食事を摂るよう心がけましょう。外食が避けられない場合は、味の濃い食べ物や塩分が多い料理(ラーメン、カップ麵、漬物、梅干しなど)を控えることが重要です。

 

自宅での食事においても、減塩のための工夫が必要です。減塩醬油の使用、食塩の代わりに香辛料の活用、だしを利かせること、ごま油などでコクを出すこと、酸味を加えること、焦げ目をつけること、料理を適温にすることなどが効果的です。

 

また、肥満症の方の場合は適切な体重になるために摂取カロリーを制限することも大切です。当クリニックのブログ「2024年2月22日から保険診療で使用できる肥満症治療薬ウゴービについて」でもお話しましたが、1日の摂取カロリーを25~27.5×理想体重(=22×[身長m]2)カロリー以下にすることをお勧めしています。また当クリニックでは、過度な糖質制限よるダイエットはリバウンドしやすいため推奨していません。

 

高血圧症患者さんのアルコール摂取について

アルコールを摂取すると、1回の摂取によって数時間の間血圧が低下しますが、長期間飲み続けると血圧は逆に上昇してくることが知られています。大規模な臨床研究によれば、アルコールの摂取を76%控えることで、収縮期血圧が3.31 mmHg、拡張期血圧が2.04 mmHg低下することが報告されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11711507)

このため、アルコールの摂取に関しては、1日に1合(ビール500 mL、日本酒180 mL相当)までに制限し、かつ定期的な休肝日を設けることが望ましいです。

 

 

高血圧症の運動療法について

運動療法については、糖尿病患者さんや肥満症患者さんと同様に、速歩やジョギングなどの比較的軽めの有酸素運動が効果的とされています。定期的かつ(できれば毎日)30分以上持続して行うことが推奨されています。

 

当クリニックのブログ「糖尿病の運動療法について」でもお話しましたが、運動においてはあまり細かいことを気にせず、負担が少なくかつ継続可能な運動を行うことが重要です。日常生活の中で「何か1つ変えてみよう」という意識が重要です。

 

最後に

高血圧症などの生活習慣病は、まずは食事療法と運動療法をしっかり行うことが基本になります。しかしながら、これらの対策だけでは降圧が不十分な場合は、薬物治療が必要となります。

 

当クリニックには、生活習慣病専門の医師と管理栄養士がおりますので、生活習慣病でお悩みの方はぜひ一度当クリニックにいらしてご相談ください。

中野駅前内科クリニック糖尿病・内分泌内科 03-3382-1071 ホームページ