• 2023年12月22日

診断率はわずか1%未満? 家族性高コレステロール血症について

生活習慣病を専門にしている中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の院長の大庭健史です。

当クリニックのホームページでは、「脂質異常症」のセクションで「家族性高コレステロール血症」という病気について解説しておりますが、重大な病気のわりにはあまり世間に知られていない印象があります。

そのため、今回のブログではより詳しく家族性高コレステロール血症についてお話しいたします。

 

 

家族性高コレステロール血症の人はどのくらいいるの?

家族性高コレステロール血症は、当初500人に1人くらいと推定されていましたが、最近の研究では311~313人に1人くらいの割合で家族性高コレステロール血症であると報告されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32468833)(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0735109720347501?via%3Dihub)

 

そのため、日本では約40万人前後が家族性高コレステロール血症であると推測されますが、実際に診断されている方は非常に少ないです。ヨーロッパの研究グループが発表した論文によると、日本やアメリカなどでは家族性高コレステロール血症の診断率が1%未満であると報告されています。  (https://academic.oup.com/eurheartj/article/34/45/3478/435928)

 

(出典:European Heart Journal 2013; 34: 3478–3490)

 

なぜ家族性高コレステロール血症は見逃されてしまうの? 

家族性高コレステロール血症の99%以上が診断されていないかもしれない最大の原因は、多くの医師がこの疾患について理解していないため、それを疑って検査しないことです。

 

治療前のLDLコレステロール値が180 mg/dL以上の場合、家族性高コレステロール血症の可能性があると言われています。このブログをご覧になって気になる方は、一度生活習慣病を専門とする医師に相談することをお勧めします。

 

家族性高コレステロール血症はどのように診断するの?

家族性高コレステロール血症は、他の原発性脂質異常症(家族性複合型高脂血症など)や続発性脂質異常症(甲状腺機能低下症やネフローゼ症候群など)を除外した上で、以下の3つの項目中から2つ以上を満たすことで診断されます。

  1. 未治療時のLDLコレステロール値が180 mg/dL以上
  2. 腱黄色腫(手背、肘、膝、アキレス腱などの肥厚)、あるいは結節性黄色腫のいずれかを認める
  3. 第一度近親者(両親、兄弟、姉妹、または子供)が家族性高コレステロール血症あるいは早発性冠動脈疾患を有する

 

この診断基準の中で、特に検査が必要なのはアキレス腱肥厚の有無です。以前は、X線検査で撮影したアキレス腱が9 mm以上でアキレス腱肥厚と診断されていたため、家族性高コレステロール血症と診断できない脂質異常症の方が多数いました。

 

しかし、2022年にガイドラインが改訂され、現在はアキレス腱肥厚を男性8.0 mm以上、女性7.5 mm以上とし、超音波検査での評価(男性6.0 mm以上、女性5.5 mm以上)も可能になりました。これにより、家族性高コレステロール血症と診断される方が増えてきました。

 

また早発性冠動脈疾患の定義は、男性は55歳未満、女性は65歳未満で発症した冠動脈疾患とされています。

 

(出典:Australian Atherosclerosis Society)

 

家族性高コレステロール血症と診断されたらどうすれば良いの?

家族性高コレステロール血症は、動脈硬化性疾患(特に冠動脈疾患)を発症しやすいため、日ごろから定期的な診察が非常に重要です。心電図検査や頸動脈エコー検査などで動脈硬化の進行状況をこまめにチェックすることも大切です。

 

また、問診で冠動脈疾患を疑う症状があれば、負荷心電図、心エコー検査、負荷心筋シンチグラフィーなどの検査を行います。これらの検査で冠動脈疾患を強く疑う場合は、冠動脈CT検査や冠動脈造影検査を実施します。

 

治療については、家族性高コレステロール血症と診断されたら速やかにLDLコレステロール値を下げる必要があります。動脈硬化性疾患の発症リスクは[LDLコレステロール値]×[年齢]とされており、生まれつきLDLコレステロール値が高い家族性高コレステロール血症の患者さんは、年々動脈硬化性疾患の発症リスクが高くなるためこの病気がない方よりもLDLコレステロールを下げる必要があります。

 

具体的には、通常の家族性高コレステロール血症の方はLDLコレステロール 100 mg/dL未満を目標としますが、冠動脈疾患またはアテローム血栓性脳梗塞の既往がある場合はLDLコレステロール 70 mg/dL未満を目標とします。

 

ただし、家族性高コレステロール血症の方では治療薬の反応が悪いこともあり、通常の内服薬(スタチンやエゼチニブなど)だけでなく、レパーサやレクビオなどの注射薬の追加も検討されることがあります。

 

最後に

治療前のLDLコレステロール値が180 mg/dL以上の方は、家族性高コレステロール血症を疑い、アキレス腱肥厚の有無を確認することをお勧めします。

 

当クリニックでは、脂質異常症も専門とする院長が、超音波検査でアキレス腱肥厚についてしっかりと評価いたします。一度当クリニックにご相談いただければ幸いです。

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