- 2024年4月8日
妊娠糖尿病の診断・治療と出産後の注意点について専門家が分かりやすく解説!
中野駅前内科クリニック院長で、糖尿病専門医の大庭健史です。
私は大学病院での勤務医時代に、妊娠糖尿病の方の出産直前の血糖管理方法に関するプログラムを立ち上げた経験があります。
そして、勤務医から開業医となった現在も、妊娠糖尿病の血糖管理に注力して取り組んでいます。
当クリニックのホームページの「糖尿病」のカテゴリーの中に「妊娠糖尿病とは」という項目があり、そこで妊娠糖尿病について簡単に説明していますが、今回ブログではより詳しく解説していきます。
妊娠糖尿病の歴史と変遷
以前の日本の妊娠糖尿病の診断基準は、1984年に日本産科婦人科学会が提案したものでした。
この基準では、75gブドウ糖負荷試験において、空腹時血糖100 mg/dL以上、1時間値180 mg/dL以上、2時間値150 mg/dL以上のいずれか2つ以上を満たした場合に妊娠糖尿病と診断されました。
そして、2008年に日本を含まない世界9か国で25,505人を対象とした大規模な臨床研究(HAPO研究)が行われました。
この研究により、母体の血糖値が高ければ高いほど、巨大児、新生児低血糖、帝王切開、肩甲難産、妊娠高血圧症候群などのリスクが高まることが明らかになりました。(https://www.nejm.jp/abstract/vol358.p1991)
この研究成果を元に、巨大児などのリスクが1.75倍となる母体の血糖値を基準として妊娠糖尿病を定義することとなりました。
日本でも2010年7月から、75gブドウ糖負荷試験で空腹時血糖92 mg/dL以上、1時間値180 mg/dL以上、2時間値153mg/dL以上のいずれか1点以上を満たした場合に「妊娠糖尿病」と診断することとなりました。
妊娠してからの血糖関連の検査について
妊娠糖尿病は周産期合併症のリスクを増加させるため、妊娠された方は皆さん血糖関連の検査が必須となります。
まず、妊娠初期に血糖測定を行い、糖尿病または妊娠糖尿病の可能性がある方を早期に発見するようにしています。この検査で血糖値が100 mg/dL以上(施設によっては95 mg/dL以上)の場合は、妊娠糖尿病を疑って75 gブドウ糖負荷試験を行います。
また、この検査で異常がない場合でも、妊娠24~26週頃に再度血糖測定もしくは50 gブドウ糖負荷試験(50 gグルコースチャレンジテスト)を行います。
血糖測定値が100 mg/dL以上(施設によっては95 mg/dL以上)または50 gブドウ糖負荷試験の1時間値が140 mg/dL以上であれば、妊娠糖尿病疑いのため妊娠26~28週頃に75 gブドウ糖負荷試験を行います。
妊娠糖尿病と診断されると、出産まで治療が必要となります。
妊娠糖尿病の目標値と食事療法について
妊娠期間中の目標とする血糖値は、空腹時血糖値が95 mg/dL未満かつ食後2時間後の血糖値が120 mg/dL未満とされています。
この目標値を達成することが周産期合併症の発生率を減らすというエビデンス(科学的根拠)は確立されていませんが、この目標値は妊娠糖尿病ではない方の血糖推移を基に設定されているため、当クリニックもこの目標値を達成するように治療を行っています。
妊娠糖尿病の治療は、まず食事療法から始めます。1日の摂取カロリーは、標準体重(=22×[身長m]2)×30 kcalに妊娠時期に応じた付加量を加えたものとなります。
付加量は、妊娠16週未満(妊娠初期)が+50 kcal、妊娠16~28週未満(妊娠中期)が+250 kcal、妊娠28週以降(妊娠後期)が+450 kcalとなりますが、妊娠前に肥満(BMI≧25)がある場合は付加量なしとなります。
また、血糖値をコントロールするために食事を1日6回に分けて摂取するよう心がけます。具体的には、通常の食事(朝食・昼食・夕食)の量を少し減らし、各食後2時間後に糖質の多いもの(おにぎり、うどん、クラッカーなど)を80~160 kcal程度摂取します。
食事の回数を増やすことで、以下の表のように食後の血糖上昇をある程度抑えることができます。
しかし、これらの食事療法を行っても血糖コントロールが十分ではない場合は、妊娠中に経口血糖降下薬を使用することができないため、出産するまでインスリン治療を行います。
妊娠糖尿病の薬物治療について
経口血糖降下薬のメトホルミンは、海外では妊娠糖尿病の方に使用することができ、その使用により周産期合併症が増えないことが世界で最も権威ある医学雑誌の1つであるThe New England Journal of Medicineで報告されています。(https://www.nejm.jp/abstract/vol358.p2003)
しかし、先ほど述べたように日本ではメトホルミンを含む経口血糖降下薬の使用が原則禁止されています。そのため妊娠糖尿病となった場合、自分自身で血糖測定を行い、インスリンを使用して血糖管理を行うことが一般的です。
当クリニックでの妊娠糖尿病治療について
妊娠糖尿病の血糖管理は、母体(ご自身)だけでなく胎児のためにも非常に重要です。目標の血糖値を達成しているかを確認するためには、自己検査用グルコース測定器による血糖測定が必要です。
しかし、保険診療で自己検査用グルコース測定器を使用するには条件があります。具体的には、75gブドウ糖負荷試験の診断基準(空腹時血糖92 mg/dL以上、1時間値180 mg/dL以上、2時間値153 mg/dL以上)のいずれか2点以上を満たす、もしくはいずれか1点以上かつ妊娠前のBMIが25 kg/m2以上が条件となります。これらの条件に該当しない方は、自費で血糖測定を行う必要があります。
当クリニックでは、妊娠糖尿病の方には原則として1日2回の血糖測定をお願いしています。これにより、妊娠糖尿病の方の血糖推移を正確に把握し、インスリン治療の必要性を適切に評価できます。
ただし、自己検査用グルコース測定器は指を穿刺して血糖値を測定するため、毎回若干の痛みを伴うという欠点があります。
そのため、痛みに敏感な方や針に恐怖を感じる方には、自費にはなりますが指を穿刺する必要のないフリースタイルリブレの使用をおすすめしています。この機器は、下図に示される白い円盤のような形をしており、上腕に装着することで約2週間分の血糖データを測定してくれます。
(出典:アボットジャパン社)
いずれの血糖測定方法を使用しても、頻回に空腹時血糖値が95 mg/dL以上または食後2時間後の血糖値が120 mg/dL以上になった場合、インスリン治療を開始します。
インスリン注射については、初めて経験する方が多いですので、ご不安もあるかと思います。そのため、当クリニックでは医師と看護師によりインスリンの投与方法について丁寧にご説明させていただきますので、ご安心ください。
妊娠糖尿病の方の出産後について
妊娠糖尿病治療は、出産と同時に終了します。ただし、妊娠糖尿病であった方は、そうでなかった方と比較して2型糖尿病の発症リスクが7.43倍という報告があります。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19465232)
そのため、産後6~12週に行うことが推奨されている75 gブドウ糖負荷試験において、空腹時血糖が110 mg/dL以上または2時間値が140mg/dL以上である、いわゆる糖尿病予備軍の方は、産後もある程度食事に注意が必要です。
また、この基準に該当しない方も定期的に健康診断を受け、血糖値とHbA1cが上昇していないかを確認していくことが大切です。
最後に
「妊娠糖尿病」と診断された方は、早めに専門のクリニックに行き、必要な治療を受けることが大切です。また、妊娠中の食事療法はもちろんのこと、出産後も食事が重要となります。
当クリニックでは、糖尿病専門医がわかりやすく食事療法について説明するとともに、管理栄養士による栄養指導も行っております。
この相談は隔週(第2週と第4週)の月曜日14時30分から17時30分に実施しており、お一人につき約20~30分かけて食事に関するご相談やアドバイスを管理栄養士が行います。お時間がある方は、ぜひお気軽にご利用ください。
(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)