• 2024年4月23日
  • 2024年4月17日

メリットは少ない?おすすめできないメトホルミンダイエットについて解説

東京の中野駅南口からすぐのところでクリニックを開業している糖尿病専門医の大庭健史です。 

ダイエット方法は時代と共に移り変わりますが、最近では「メトホルミンダイエット」というものが流行りだしています。このメトホルミンダイエットについてですが、糖尿病の専門家からすると「メトホルミンで痩せる」というのは少し違和感があります。 

 

そこで、今回は2型糖尿病治療薬であるメトホルミンについてわかりやすく解説し、なぜメトホルミンダイエットをお勧めできないのかを詳しく解説させていただきます。 

 

(出典:三和化学研究所) 

 

メトホルミンとは 

中世ヨーロッパでは、重症の糖尿病患者さんの頻尿がフレンチライラック(ガレガ草)の摂取によって緩和されることが知られていました。後に、フレンチライラックに多く含まれるグアニジンが血糖降下作用を持つことが明らかとなりました。

 

 

ただし、グアニジンは毒性が強く治療には使用できません。そのため、1950年代にグアニジン環を2つ結合させた化合物が合成され、そこからメトホルミンなどのビグアナイド薬が開発されました。

 

そして、メトホルミンは1959年にフランスで糖尿病治療薬として承認され、日本では1961年に発売されました。

 

(出典:薬・online) 

 

しかし、1970年代にメトホルミンと類似した薬であるフェンホルミンに関して、乳酸アシドーシスという副作用による死亡例が多数報告されました。

 

そのため、1977年にはフェンホルミンの販売が中止され、その類似薬であるメトホルミンの最高投与量も日本では1日1500 mgから750 mgに引き下げられました。

 

投与量の引き下げによりメトホルミンの有効性は低下し、また乳酸アシドーシスのリスクがあるため、その後日本ではあまり使用されなくなりました。 

 

しかし、海外からメトホルミンの有益性を示す論文が徐々に報告されるようになり、1998年に発表された大規模臨床研究UKPDS34では、肥満を伴う2型糖尿病患者の予後を改善することが示されました。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9742977

 

これによりメトホルミンは再評価され、欧米のガイドラインでは2型糖尿病治療薬の第一選択薬となりました。また、日本でも2010年にメトホルミンの最高投与量が1日750 mgから2250 mgに引き上げられ、多くの2型糖尿病患者さんに使用されるようになりました。 

 

メトホルミンの多面的作用について 

メトホルミンは、主に肝臓での糖新生(糖質以外の物質からグルコースを生成すること)を抑制し、また血糖値を下げるホルモンであるインスリンの効きやすさを改善します。これにより、筋肉や肝臓でのグルコースの取り込みが促進され、血糖値が低下します。 

 

また、メトホルミンには食欲低下やインスリン分泌を促進する作用があるGLP-1を増やす作用や便中にブドウ糖を排泄させる作用などが報告されています。さらに、メトホルミンが腸内細菌に良い影響を与えることで血糖値を低下させるという研究結果もあります。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28770326)  

 

メトホルミンはまだまだ作用機序が分からない部分もありますが、2型糖尿病患者さんにとっては有益性の高い薬剤であることは間違いありません。

 

その上で、なぜメトホルミンが肥満治療に使用することはあまりお勧めできないかについてお話させていただきます。

 

メトホルミンの体重への影響と副作用について 

メトホルミンは2型糖尿病治療薬であり、肥満治療薬ではありません。メトホルミンは先ほど述べたように多面的な作用により、体重に多少良い影響を与えることはありますが、その効果は限定的です。 

 

日本の2型糖尿病患者を対象とした臨床研究によると、下図に示すように、メトホルミンのみを54週間投与したグループ(Monotherapy)では、最終的に-1.03±2.79 kgの体重減少を認めたと報告しています。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6224890

 

(Diabetol Int 2017; 8: 286-295)

 

この結果から、メトホルミンを服用することで体重が減少するケースは多いものの、その効果はわずかであることが示唆されます。また、この報告からは体重が変わらないもしくは増加する人も存在することが分かります。 

 

この結果は、当クリニックのブログ「2月22日から変わる!肥満症治療(ウゴービの発売)と今後の展望について」でお話しした肥満症治療薬ウゴービ(約12.4%の体重減少)と比較すると、体重減少効果は大きく劣っています。  (https://www.nejm.jp/abstract/vol384.p989

 

また、メトホルミンには様々な副作用があり、嘔気や下痢などの消化器症状が比較的多いことで知られています。さらに、まれではありますが乳酸アシドーシスという重篤な副作用のリスクもあります。 

 

以上の理由から、当クリニックではメトホルミンを内服して体重減少を目指すことはお勧めしません。また、メトホルミンダイエットに成功していると感じている方も、それはプラセボ効果の可能性もあり、メトホルミンの適応外使用は控えることをお勧めします。

 

最後に 

肥満の改善はなかなか難しいものです。そのため、どうにか薬物治療で肥満を改善させたいというお気持ちは理解できます。 

 

ただ、肥満改善のためにメトホルミンやGLP-1受容体作動薬などの適応外使用をすることはリスクを伴います。まずは地道に食事療法と運動療法を行っていくことが大切です。 

 

当クリニックでは、BMIが 30 kg/m2以上の方に対して管理栄養士による栄養指導を行っております。肥満改善するための食事療法に関してお困りの方は、ぜひご利用ください。 

 

また、食事療法・運動療法と並行して、適切な薬物治療を受けることも大切です。当クリニックでは、それぞれの治療のメリットとデメリットを丁寧にご説明し、患者さんそれぞれに合った治療を心がけております。まずはお気軽にご相談ください。 

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史) 

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