- 2024年11月14日
- 2024年11月13日
1型だけでなく2型糖尿病の人も注意すべき糖尿病性ケトアシドーシスについて
11月14日は、インスリンを発見したカナダ人フレデリック・バンティングの誕生日です。
この日は、1991年に世界保健機関(WHO)と国際糖尿病連合(IDF)が「世界糖尿病デー」に制定し、2006年12月20日には国際連合総会で公式に認められました。
日本では、毎年この世界糖尿病デーを含む1週間(2024年は11月11日~17日)を「全国糖尿病週間」としています。今年も、渋谷ヒカリエやスクランブルスクエアなど、様々な施設がブルーにライトアップされる予定です。
当クリニックでは、今年も糖尿病週間に合わせて糖尿病に関連するブログをアップさせていただきます。
今回は、あまり知られていない「糖尿病性ケトアシドーシス」という危険な病態について詳しくお話しいたします。
糖尿病性ケトアシドーシスとは
糖尿病性ケトアシドーシスは、体内のインスリンが絶対的に不足することによりケトン体という物質が蓄積し、その結果として血液が極端に酸性に傾いてしまう糖尿病の深刻な合併症の一つです。
これは主に1型糖尿病の患者さんに多く見られますが、2型糖尿病の患者さんにも起こることがあります。
糖尿病性ケトアシドーシスでは、口渇、多飲、多尿、体重減少、全身倦怠感など、糖尿病に典型的な症状が急激に現れます。
さらに悪化すると、悪心、嘔吐、腹痛、意識障害、呼吸困難などが引き起こされます。
この状態が続くと、生命に関わる危険が生じるため、迅速な治療が必要です。この状態に至る原因については、次の章で詳しく説明いたします。
糖尿病性ケトアシドーシスの原因について
私たちの体は、主に食べ物を分解して得られるブドウ糖(グルコース)をエネルギー源として利用しています。
しかし糖尿病患者さんの体内では、インスリンというホルモンが不足したり、その作用が弱まったりするため、ブドウ糖が細胞に取り込まれにくくなります。
その結果、私たちの体は代わりに脂肪を分解してエネルギーを得ようとします。
この脂肪分解の過程で「ケトン体」という酸性物質が生成され、これが過剰に増えると血液が酸性に傾く「ケトアシドーシス」という状態を引き起こします。
糖尿病性ケトアシドーシスの原因として、以下の要因が挙げられます。
①患者さんがしっかり服薬できていない(服薬アドヒアランス不良)
インスリンの投与を忘れたり、自己判断でインスリンの投与量を減らしたりすると、血糖コントロールが悪化し、糖尿病性ケトアシドーシスを発症することがあります。特に1型糖尿病や膵性糖尿病などインスリン分泌能が低下している方は注意が必要です。
②感染症や手術などによる体へのストレス
身体に強いストレスがかかると、ステロイドホルモンやカテコラミンなどといった血糖値を上昇させるホルモンが過剰に分泌され、インスリン抵抗性が高まり、インスリンの効き目が弱まります。その結果、糖尿病性ケトアシドーシスを引き起こすことがあります。風邪やインフルエンザ、肺炎などの感染症がきっかけとなることが多く、手術やケガなど大きなストレスがかかる場合にも発症することがあります。
③清涼飲料水の多量摂取
清涼飲料水を大量に飲むと血糖値が急激に上昇し、インスリン分泌が追いつかなくなるため、体内でブドウ糖をエネルギーとして利用できなくなります。すると、体は脂肪を分解してエネルギーを補おうとし、その過程でケトン体が過剰に生成されて糖尿病性ケトアシドーシスを引き起こします。これは「ソフトドリンクケトーシス(ペットボトル症候群)」とも呼ばれ、2型糖尿病の方でも発症することがあるため注意が必要です。
糖尿病性ケトアシドーシスの治療について
糖尿病性ケトアシドーシスは、命に関わることもあるため緊急の医療対応が必要です。治療の主な目的は、血糖値の正常化、ケトン体の排出、そして体液や電解質のバランスを回復させることです。
まず、点滴による水分補給と不足しているインスリンの補充を行います。その後、インスリン投与による電解質の変動に対応しながら、補液治療を進めます。
特に2型糖尿病患者では、1型糖尿病患者と比較して補液量やインスリン、カリウムの補充が多くなると報告されており、患者さんの病態に合わせたオーダーメイド治療(個別化医療)が重要です。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27499457)
また、糖尿病性ケトアシドーシスを引き起こした原因への対策も重要です。
糖尿病治療や食事についての見直しをすることで再発を防ぎ、感染症などの体へのストレスが原因の場合は、必要に応じて抗生剤や鎮痛剤を使用して症状の改善に努めます。
まとめ
繰り返しになりますが、糖尿病性ケトアシドーシスは早期に適切な対応を行えば回復可能ですが、放置すると生命に危険を及ぼすことがあります。
そのため、糖尿病治療を継続し、定期的に通院していただくことが大切です。また、日頃から食事療法や運動療法を実践することが、糖尿病性ケトアシドーシスの予防につながります。
当クリニックの院長ブログ「糖尿病の食事療法と当クリニックの栄養指導について」および「糖尿病の運動療法について」も、日々の生活に取り入れていただくための参考にしていただければ幸いです。
(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)