- 2025年2月28日
- 2025年2月26日
生活習慣病の専門家が7つの高血圧症治療薬について詳しく解説
中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の院長の大庭健史です。当クリニックでは、生活習慣病や甲状腺疾患をはじめとする内分泌疾患を専門に診療しています。
当クリニックのホームページ内「高血圧症」のページでは、高血圧症の治療の重要性についてご説明してまいりました。今回は、7つの高血圧症の治療薬に焦点を当てて解説いたします。

高血圧症の治療について
高血圧症は、心血管疾患や脳卒中、腎障害などの重大な合併症のリスクを高める疾患であり、適切な治療が不可欠です。
治療の基本は、減塩・適度な運動・体重管理・禁煙・節酒といった生活習慣の改善ですが、これだけでは十分な降圧が得られない場合、薬物療法が必要になります。

高血圧症治療薬にはさまざまな種類があり、それぞれ異なる作用機序を持っています。
単剤では十分な降圧効果が得られない場合、異なる機序の薬剤を併用することで、より効果的な降圧や副作用の軽減が期待できます。
主な高血圧症治療薬として、以下の種類があります。
・カルシウム拮抗薬
・アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)
・アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)
・アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)
・利尿薬
・β遮断薬
・α遮断薬
次に、それぞれの降圧薬の特徴について詳しく解説していきます。

1. カルシウム拮抗薬(CCB)
カルシウム拮抗薬は、血管平滑筋のカルシウムチャネルを遮断することで血管を拡張させ、血圧を下げる薬剤です。
この薬剤は、作用の違いにより、血管選択性が高く主に血管を拡張させるジヒドロピリジン系と、心臓への影響が強く心収縮力を抑え、脈拍を低下させる非ジヒドロピリジン系に分類されます。
高血圧の治療では、主にジヒドロピリジン系のアムロジン、アダラート、アテレックなどが用いられます。これらの薬剤は、降圧効果が高く、副作用が比較的少ないため、高血圧症の治療において第一選択となることが多いです。
カルシウム拮抗薬には以下のような副作用が報告されています。
・手足の浮腫
・頭痛
・めまい
・動悸や頻脈
・顔面の紅潮
・便秘
・歯肉肥厚
2. アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)
アンジオテンシンII受容体拮抗薬は、主にアンジオテンシンIIタイプ1受容体を遮断し、アンジオテンシンIIによる血管収縮作用やアルドステロン分泌を抑制することで、血圧を低下させます。
ROADMAP試験により、この薬剤が2型糖尿病患者さんの糖尿病腎症の進行を予防する効果を持つことが示されたため、糖尿病腎症第2期以上の糖尿病患者さんには第一選択薬として使用されることが一般的です。(https://www.nejm.jp/abstract/vol364.p907)
降圧効果の強さは、アジルバ、オルメテック、ミカルディス、アバプロ、ブロプレス、ディオバン、ニューロタンの順であるとされており、治療抵抗性高血圧の患者には、より強力なアジルバやオルメテックが使用されることが多いです。
アンジオテンシンII受容体拮抗薬には以下のような副作用が報告されています。
・高カリウム血症
・腎機能障害
・頭痛
・めまい
3. アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)
アンジオテンシン変換酵素阻害薬は、アンジオテンシンIからアンジオテンシンIIへの変換を阻害し、血圧を低下させる効果を持ちます。
さらに、キニナーゼの阻害により血中ブラジキニンが上昇し、血管拡張作用が強まります。
しかし、ブラジキニンには血管透過性を高める作用があるため、血管浮腫を引き起こしやすく、また気道を刺激することで咳が生じやすくなるといった副作用があります。
そのため、この薬剤の使用は近年減少傾向にありますが、一方で、咳が誘発されることで誤嚥を防ぐ可能性があるため、高齢者に使用されることもあります。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬には以下のような副作用が報告されています。
・空咳
・血管浮腫
・高カリウム血症
・腎機能障害
・頭痛
・めまい
4. アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)
アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬であるエンレストは、アンジオテンシンII受容体拮抗薬とネプリライシン阻害薬を組み合わせた薬剤です。
血管拡張作用や利尿作用を有することから、当初は心不全の治療薬としてのみ使用されていました。
その後、強力な降圧作用が認められ、2021年に高血圧症の治療薬としても承認され、使用されるようになりました。
しかし、高血圧症の治療においては第一選択薬とはならず、アンジオテンシンII受容体拮抗薬を使用しても十分に血圧が低下しない場合などに限り使用されます。
アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬には以下のような副作用が報告されています。
・高カリウム血症
・血圧低下
・腎機能障害
・血管浮腫
5. 利尿薬
利尿薬は腎臓に作用し、ナトリウムと水の排泄を促進することで循環血液量を減少させ、血圧を低下させます。
利尿薬は、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(ミネブロ、セララ、アルダクトン)、サイアザイド系利尿薬(フルイトラン、ナトリックス)、ループ利尿薬(ラシックス、ダイアート、ルプラック)に分類されます。
ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は原発性アルドステロン症の治療によく使用され、サイアザイド系利尿薬は塩分を多く摂取する人に適しています。
ループ利尿薬に関しては、慢性心不全の予後を悪化させる可能性があるとの報告や、使用量が多いほど予後が悪化するとの報告があります。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16709595)(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16765130)
また、ループ利尿薬は強力な利尿作用を持つため、高血圧症単独の治療目的で使用されることは比較的少ないのが現状です。
利尿薬には以下のような副作用が報告されています。
・低ナトリウム血症
・脱水
・高カリウム血症(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)
・低カリウム血症(サイアザイドとループ利尿薬)
6. β遮断薬
β遮断薬は、交感神経のβ受容体を遮断することで心拍数を減少させ、血圧を低下させる薬剤です。
降圧効果は比較的弱いため、高血圧の治療において単独で使用されることは比較的少ないですが、安定した慢性心不全や頻脈性不整脈を合併する高血圧患者さんにはよく使用されます。
β遮断薬には以下のような副作用が報告されています。
・徐脈
・気管支収縮(喘息患者さんでは禁忌)
・四肢冷感
・倦怠感
・めまい
7. α遮断薬
α遮断薬は、血管のα1受容体を遮断することにより血管を拡張させ、血圧を低下させる薬剤です。
降圧効果は比較的弱いものの、褐色細胞腫による高血圧症などで使用されます。
α遮断薬には以下のような副作用が報告されています。
・起立性低血圧
・反射性頻脈
・めまい
・倦怠感
まとめ
高血圧症の治療薬には多くの種類があり、それぞれ異なる作用機序と適応があります。
患者さんの年齢や合併症、リスク因子などを考慮して、適切な薬剤を選択することが重要です。さらに、薬剤の選択だけでなく、生活習慣の改善も治療において重要な要素です。
当クリニックには、生活習慣病専門の医師と管理栄養士が揃っておりますので、高血圧症を含む生活習慣病でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談にいらしてください。
(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)
