• 2025年3月15日
  • 2025年3月9日

高浸透圧性高血糖状態(HHS)について糖尿病専門医が詳しく解説!

東京のJR中野駅南口からすぐの場所にある「中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科」院長で、糖尿病専門医の大庭健史です。

 

糖尿病患者さんにおいて、緊急の治療が必要となる急性合併症には、「糖尿病性ケトアシドーシス」と「高浸透圧高血糖状態」の2つがあります。

 

糖尿病性ケトアシド-シスについては、以前のブログ「1型だけでなく2型糖尿病の人も注意すべき糖尿病性ケトアシドーシスについて」で詳しく解説しており、今回は高浸透圧高血糖状態について分かりやすく解説させていただきます。

 

(出典:NHK)

 

高浸透圧性高血糖状態とは

高浸透圧高血糖状態(Hyperosmolar Hyperglycemic State, HHS)は、糖尿病(特に2型糖尿病)の重篤な合併症の一つであり、主に高齢者に多く発症します。この疾患は、高度な高血糖と脱水を特徴とし、適切な対応が遅れると生命に関わる危険な状態となります。

 

以前は「高血糖高浸透圧症候群」や「非ケトン性高浸透圧性昏睡」などと呼ばれていました。

 

高浸透圧高血糖状態は、糖尿病性ケトアシドーシスとは異なり、ケトン体の増加による血液の酸性化を伴わない点が特徴です。しかし、放置すれば致死的となる危険な合併症であるため、早期診断と迅速な治療が不可欠です。

 

ここからは、高浸透圧高血糖状態の病態、原因、診断、治療について詳しく解説していきます。

 

高浸透圧性高血糖状態の病態について

高浸透圧性高血糖状態は、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの作用低下と、血糖値を上げるホルモンであるカテコラミン、コルチゾール、グルカゴン、成長ホルモンなどの過剰分泌によって引き起こされる高血糖が主な原因です。

 

極めて高い血糖値(通常600 mg/dL以上)が持続すると、血液から濾過された原尿の浸透圧が上昇し、尿量が増加することで大量の水分と電解質が失われます。

 

その結果、重度の脱水や血漿浸透圧の上昇が生じ、循環不全や臓器障害を引き起こす可能性があります。 ただし、ある程度のインスリン分泌が維持されているため、ケトアシドーシスには至りません。

 

しかし、重篤な場合には意識障害や昏睡を引き起こし、適切な治療が行われなければ死亡する危険性もあります

 

高浸透圧性高血糖状態の原因は?

この疾患の発症要因として、大きく分けて以下の5つが挙げられます。

 

① 糖尿病の管理不良

特に2型糖尿病の患者さんにおいて、インスリンや経口血糖降下薬の不適切な使用や中断が原因で血糖値が上昇し、高浸透圧高血糖状態の直接的な引き金となります。

 

② 感染症

肺炎、尿路感染症、敗血症などの感染症によって、カテコラミンやステロイドホルモンが過剰に分泌されることで高血糖が悪化し、高浸透圧性高血糖状態を引き起こすことがあります。

 

③ 脱水

高齢になると喉の渇きを自覚しにくくなり、水分摂取が不足しがちです。さらに、利尿作用の強い薬(利尿薬やSGLT-2阻害薬など)を服用すると、高浸透圧性高血糖状態のリスクが高まります。

 

④ 薬剤

ステロイド、サイアザイド系利尿薬、β遮断薬、抗精神病薬などは高血糖を引き起こす可能性があり、高浸透圧高血糖状態の原因となることがあります。

 

⑤ 急性疾患

心筋梗塞、脳卒中、外傷、手術などの身体的ストレスによってカテコラミンやステロイドホルモンが過剰に分泌され、高血糖が悪化し、高浸透圧性高血糖状態を発症することがあります。

 

高浸透圧性高血糖状態と診断するには

高浸透圧性高血糖状態の診断には、以下の臨床所見と検査所見が重要です。

 

①臨床所見

・口渇、多飲、多尿、脱水症状(皮膚乾燥、低血圧、頻脈など)

・意識障害(錯乱、昏睡など)

・神経学的症状(片麻痺、痙攣など)

 

②検査所見

・血糖値が600 mg/dL以上

・血漿浸透圧:320 mOsm/kg以上

・重炭酸:18 mEq/L以上(アシドーシスなし)

・pH 7.30以上

・尿と血中ケトンは陰性もしくは軽度陽性

・脱水の指標であるBUN/Cr比の上昇

 

これらの臨床所見と検査所見を総合的に判断し、高浸透圧性高血糖状態と迅速に診断して適切な治療を行うことが重要です。治療については、次の章で詳しく説明します。

 

高浸透圧性高血糖状態の治療について

高浸透圧性高血糖状態の治療では、脱水の補正、電解質異常の是正、血糖管理、原因疾患の治療が中心となります。

 

① 輸液療法

治療で最も重要なのは輸液療法です。通常、生理食塩水を用い、初期は1時間あたり500~1000 mLの速度で投与します。循環動態が安定した後は、速度を適宜調整します。その後、低ナトリウム血症がある場合は生理食塩水で補液を継続し、ナトリウムが正常または高値の場合は5%ブドウ糖液などの低張電解質液に切り替えて治療を行います。

 

 

② インスリン療法

高浸透圧性高血糖状態における血糖管理では、経口血糖降下薬は使用せず、インスリンで治療を行います。ただし、急激な血糖低下は急激な浸透圧の変化を引き起こし、脳浮腫などの重篤な合併症を招く可能性があるため、慎重な管理が必要です。30~60分ごとに血糖を測定しながら、インスリン投与量を調整していきます。

 

 

③ 電解質補正

カリウム補正は特に重要です。高浸透圧性高血糖状態では、治療初期にカリウム値が正常であっても、インスリン投与により低カリウム血症を引き起こしやすくなります。重度の低カリウム血症は致死性不整脈のリスクを高めるため、4~6時間ごとに採血し、慎重に経過を観察しながら適切に補正を行います。また、ナトリウムなどの他の電解質も変動しやすいため、定期的なモニタリングと補正が必要です。

 

④ 原因疾患の治療

高浸透圧性高血糖状態の根本的な改善には、感染症や基礎疾患の治療が不可欠です。例えば、肺炎や尿路感染症が原因の場合は適切な抗生剤を投与し、早期改善を目指します。

 

高浸透圧性高血糖状態の予後と予防について

高浸透圧性高血糖状態の致死率は約16%と報告されており、糖尿病性ケトアシドーシスの致死率1%未満と比較しても、非常に危険な病態といえます。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21752485)

 

高浸透圧性高血糖状態を予防するためには、適切な血糖コントロールが不可欠です。HbA1cの管理目標は医師と相談のうえ適切に設定し、血糖変動を最小限に抑えることが重要です。

 

また、高血糖が続くと浸透圧の上昇によって脱水が進行しやすくなるため、特に高齢者ではこまめな水分補給が必要です。高齢者は口渇感が鈍くなり、気づかないうちに脱水が進行することがあるため、意識的に1日1.5~2 L程度の水分を摂取するよう心がけましょう。

 

さらに、発熱や下痢、嘔吐などの体調不良時には脱水が加速しやすいため、普段以上に水分補給を行い、必要に応じて医療機関を受診することが望ましいです。

 

また、高浸透圧性高血糖状態の予防には適切な服薬管理も欠かせません。糖尿病治療薬の飲み忘れや過剰投与を防ぐために、服薬スケジュールを徹底しましょう。

 

特に、利尿薬やSGLT-2阻害薬を使用している方は脱水リスクが高まるため、適切な水分補給と定期的な医師の診察が必要です。

 

まとめ

高浸透圧性高血糖状態は、極めて高い血糖値と重度の脱水を特徴とする糖尿病の重篤な合併症です。適切な診断と迅速な治療が求められ、特に輸液療法、インスリン療法、電解質管理が重要となります。

 

また、糖尿病患者さんが高浸透圧性高血糖状態を予防するためには、日常的な血糖管理を徹底し、脱水や感染症のリスクを最小限に抑えることが不可欠です。そのため、糖尿病治療を継続し、定期的に通院していただくことが大切です。

 

さらに、日頃から食事療法や運動療法を実践することも、高浸透圧性高血糖状態の予防につながります。当クリニックの院長ブログ「糖尿病の食事療法と当クリニックの栄養指導について」および「糖尿病の運動療法について」では、日常生活に取り入れやすい実践的なアドバイスを紹介しています。

 

ぜひ参考にしていただければ幸いです。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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