• 2025年5月30日
  • 2025年5月27日

ウゴービ vs ゼップバウンドの比較試験「SURMOUNT-5」とは?

東京のJR中野駅南口すぐの場所にある「中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科」の院長、大庭健史です。私は、糖尿病専門医・内分泌代謝科専門医として日々の診療にあたっています。

 

最近、テレビやインターネットなどでも話題になっている肥満治療薬「ウゴービ(セマグルチド)」「ゼップバウンド(チルゼパチド)」をご存じでしょうか。

 

いずれも週1回の注射製剤で、特に“食欲を抑える”という作用を通じて、顕著な体重減少効果が得られることから注目を集めています。

 

これまで、この2つの薬剤のうち、どちらがより効果的なのかについては明確な答えがありませんでした。

 

しかし、2025年5月に世界的に権威のある医学雑誌「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に掲載された「SURMOUNT-5試験」の結果により、その優劣が科学的に示されました。(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2416394)

 

今回は、この話題の論文をわかりやすく解説いたします。その前に、まずはウゴービとゼップバウンドがどのような薬剤なのか、簡単にご紹介します。

 

 

ウゴービとゼップバウンドとは?

ウゴービは、もともと2型糖尿病の治療薬として開発されたオゼンピックを、またゼップバウンドは同じく2型糖尿病治療薬であるマンジャロを、それぞれ肥満症の治療にも使用できるようにした薬剤です。

 

日本では、ウゴービが2024年2月22日に、ゼップバウンドが2025年4月11日に発売されました。

 

どちらの薬剤もGLP-1受容体に作用し、食欲を抑える、胃の動きをゆっくりにする、血糖値を下げるといった効果があります。

 

ウゴービは、GLP-1受容体作動薬の中でも特に体重減少効果が高いことが報告されています。

 

一方、ゼップバウンドはGLP-1受容体だけでなくGIP受容体にも作用するため、従来のGLP-1受容体作動薬を上回る効果が期待されています

 

NEJMに掲載された最新研究の内容とは?

2025年5月に発表された最新の臨床試験「SURMOUNT-5試験」では、2型糖尿病を有さない肥満の成人751人を対象に、ウゴービとゼップバウンドの減量効果が比較されました。

 

治療期間は72週間で、両薬剤を最大推奨用量(ウゴービ2.4mg、ゼップバウンド15mg)で週1回皮下注射するデザインでした。

 

主要評価項目は「体重の変化率」、つまりどれくらい体重が減ったかです。結果は以下のとおりでした。

・ウゴービを使った人は、平均で体重の13.7%(約15.0 kg)減少

・ゼップバウンドを使った人は、平均で体重の20.2%(約22.8 kg)減少

 

(出典:The New England Journal of Medicine)

 

つまり、ゼップバウンドのほうが、ウゴービよりも約1.5倍近い減量効果を示したのです。

 

さらに副次評価項目でも、ゼップバウンドがウゴービを上回っていました。

体重の25%以上を減らせた人の割合:

・ウゴービ:16.1%

・ゼップバウンド:31.6%

 

(出典:The New England Journal of Medicine)

 

ウエスト周囲径の減少:

・ウゴービ:平均14.7 cm

・ゼップバウンド:平均20.0 cm

 

 (出典:The New England Journal of Medicine)

 

このように、ゼップバウンドはより多くの患者さんで大幅な減量をもたらし、体型(特に腹囲)にも顕著な改善が認められたことが分かります。

 

 副作用や注意点について

どちらの薬剤も、主な副作用として吐き気・下痢・便秘などの胃腸症状が見られます。これらの症状は、服用開始初期に多くみられるもので、多くの場合は時間の経過とともに軽減していきます。

 

ただし、もう一つ大切な点があります。それは薬をやめると体重が戻ってしまいやすいということです。

 

実際に、SURMOUNT-4試験では、ゼップバウンドの使用を中止したところ、52週間後に平均14.0%の体重増加が認められました。(https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2812936)

 

つまり、薬を使用している間は体重が減っても、中止後には再び体重が増加するリスクがあるということです。そのため、薬に頼るだけでなく、日々の食事・運動・生活習慣の見直しが非常に重要です。

 

特に食事療法は体重管理の要となります。食事についてお悩みの方は、当クリニックで実施している栄養指導(毎月第2・第4月曜日 14:30~17:30)をぜひご活用ください。

 

また、当クリニックのブログ「肥満症の食事療法と運動療法について専門家が分かりやすく解説」も、ぜひ参考になさってください。

 

まとめ:どちらを選ぶべき?

ゼップバウンドは、最新の研究によりウゴービよりも高い減量効果があることが示されています。そのため、当クリニックでは肥満症の治療にゼップバウンドをおすすめしています。

 

ただし、これらの薬剤を使用できるのは、以下の条件を満たす方に限られます。

・2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症のいずれかを有する肥満症の方

・食事療法および運動療法を6か月以上行っても、十分な効果が得られない方

・BMIが35 kg/m²以上、または以下に示す肥満に関連する健康障害を2つ以上有する方

 

肥満に関連する健康障害

・耐糖能障害(2型糖尿病、耐糖能異常)

・脂質異常症(高脂血症)

・高血圧症

・高尿酸血症(痛風を含む)

・冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)

・脳梗塞または一過性脳虚血発作(TIA)

・非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)

・月経異常または女性不妊

・閉塞性睡眠時無呼吸症候群、肥満低換気症候群

・運動器疾患(変形性関節症:膝・股関節・手指関節、変形性脊椎症)

・肥満関連腎臓病

 

また、この治療を受けるには「最適使用推進ガイドライン」に沿って、大学病院などの限られた医療機関において、食事療法などの肥満症治療を6か月以上行っても効果が得られなかった場合に限られます。

 

そのため、当クリニックではウゴービまたはゼップバウンドによる治療を希望される方には、使用条件を満たすかどうかを慎重に判断したうえで、必要に応じて医療連携を結んでいる大規模病院などへご紹介しております。

 

肥満症でお悩みの方は、ぜひ一度、当クリニックにお気軽にご相談ください。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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