• 2026年2月5日
  • 2025年12月17日

日本肥満学会が新たに提唱したFUS(女性の低体重/低栄養症候群)について

東京・JR中野駅南口すぐにある「中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科」院長の大庭健史です。

 

日本では経済発展とともに健康志向が高まり、さまざまなダイエット法が流行しては消えていきました。

 

その一方で、近年は若い女性を中心に見た目を重視するあまり、過度な食事制限に走るケースが増えています。

 

身長から体重を引いた数字が120になる体型(いわゆるスペック120)を目指すような人も出ており、極端なやせ志向が問題となっています。

 

以前の当クリニックのブログ「GLP-1受容体作動薬はダイエットのために使用して良いのか?」でも触れましたが、本来の適応とは異なる方法で薬を用いた無理なダイエットが広がっているのも現状です。

 

こうした痩せ志向が、いま医学的な問題として顕在化しています。日本肥満学会は、女性の低体重と栄養不足がもたらす深刻な健康リスクに注目し、2025年4月に FUS(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:女性の低体重/低栄養症候群) という新しい概念を提唱しました

 

これは単なる「やせ」を指すのではなく、栄養不足によって筋肉量、骨の健康、免疫機能、ホルモンバランスなど、多方面に悪影響が及んだ状態を示すものです。

 

美容目的で体重を過度に落とすことが、かえって身体機能を弱らせる危険性があるという事実に対し、専門学会があらためて公式に警鐘を鳴らしたことになります。

 

(出典:日経Gooday)

 

日本女性の平均BMIは先進国で最も低い水準にある

世界的にみても、日本女性の「痩せ」の傾向は際立っています。25歳時点の日本人男性の平均BMIは、戦後間もない1948年の21.4から2010年には22.3へと上昇している一方で、日本人女性の平均BMIは同期間に21.8から20.4へとむしろ低下しています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26057102)

 

さらに、日本国内の18〜29歳女性では、約20〜25%がBMI18.5未満の「低体重」に該当し、先進国の中でも突出して高い割合となっています。

 

 

こうした若年女性の痩せ傾向は長年続いており、国際的に見ても特異なパターンです。 このように低BMIの層が一定割合で存在し続けている現状は、単なる文化的・社会的背景にとどまらず、今後の健康状態や将来の妊娠・出産、骨・代謝の健康などに影響を及ぼす可能性が指摘されています。

 

FUSとは何か

日本肥満学会が提示したFUSは、BMIが低いだけではなく、食事量や栄養素の不足によって身体の機能が総合的に低下した状態を意味します。

 

女性は特に、ホルモンバランスが栄養状態に敏感であるため、低体重の影響を受けやすいと言われています。

 

FUSに該当する女性では、疲れやすさや冷え、生理不順、筋力低下などがみられるだけでなく、将来的な骨粗鬆症やフレイルのリスクが高まることが問題視されています。

 

栄養学的には、たんぱく質や脂質が不足すると筋肉や骨の材料が不足し、基礎代謝が低下し、さらに体温や免疫にも影響が出ます。

 

外見上は「細くてスタイルが良い」と見えても、体内では深刻な栄養不足が進んでいるケースが少なくありません。

 

痩せすぎが骨に及ぼす影響

若い女性の過度な痩せは、特に骨の健康面で大きな懸念があります。骨量は20歳前後でピークに達し、その後は維持期を経て緩やかに低下していきます。

 

しかし、このピーク形成の時期に十分な栄養が確保されていない場合、最大骨量が十分に獲得できず、将来的な骨粗鬆症のリスクが高まることが知られています。

 

 

実際、低BMIの女性では骨密度が低下しやすく、骨折リスクが有意に高まることが複数の臨床研究で示されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37477723

 

特に閉経後は骨量の減少が急速に進むため、若い時期の痩せがそのまま将来の骨折リスク増大につながります。

 

骨折は寝たきりや日常生活機能の低下を招く可能性があり、健康寿命にも大きく影響します。若い年代から適切な体重と栄養状態を維持し、骨の健康を確保することは、長期的な生活の質を守るうえで非常に重要です。

 

フレイルとの関連

フレイルとは、加齢に伴って心身の活力が低下し、要介護状態に至る一歩手前の段階を指します。一般には高齢者の問題と考えられがちですが、若年期の低体重が将来のフレイルの土台となる可能性が指摘されています。

 

 

筋肉量が十分に形成されないまま中年期を迎え、さらに閉経後の急激な骨量低下が加わることで、体力低下や転倒リスクは一層高まります。

 

実際に、BMIが低い女性ほど将来フレイルを発症するリスクが高いことが、大規模な臨床研究でも報告されています。

 

若い時期の過度な痩せが、高齢期のフレイルにつながることは、医学的にも裏付けられているのです。 (https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9410572)

 

女性ホルモンと低栄養

食事量が少なく、体に必要なエネルギーが不足すると、女性ホルモンのバランスは乱れやすくなります。

 

体はエネルギー不足を「非常事態」と判断し、生理に関わるホルモンの働きを弱めてしまいます。その結果、生理が不規則になったり、止まってしまったり、妊娠しにくくなることがあります。

 

このような状態は、激しいトレーニングを行う女性アスリートにみられる「女性アスリートの三主徴(無月経・骨密度低下・体に使えるエネルギーの不足)」と共通しています。

 

近年では、過度なダイエットなどを背景に、同様の状態が一般の女性にも広がっているのではないかと懸念されています。

 

健康を守るための食事の考え方

FUSを改善するうえで最も大切なのは、「不足している栄養素を補い、バランスのとれた食事を続けること」です。

 

私たちの体は、たんぱく質・脂質・炭水化物という三大栄養素のどれが欠けても、正常に働くことができません。

 

 

たんぱく質は、筋肉や骨、血液、ホルモンなどをつくる重要な材料であり、特に意識して摂りたい栄養素です。肉や魚、卵、大豆製品、乳製品などを、できるだけ毎食取り入れることが望まれます。

 

一方で、脂質を極端に控えることも、かえって健康を損ねる原因になります。脂質は細胞膜やホルモンの材料となるため、適量をきちんと摂ることが必要です。

 

また、炭水化物は体を動かすための主なエネルギー源であり、不足すると体は筋肉を分解してエネルギーを補おうとしてしまいます。

 

さらに、骨の健康を守るためにはカルシウムやビタミンDも欠かせません。特に、日光を浴びる機会の少ない若い女性ではビタミンD不足が非常に多いことが、国内の研究でも報告されています。

 

食事内容の見直しに加え、生活習慣も含めて総合的に整えていくことが大切です。

 

最後に

日本肥満学会がFUSを提唱した背景には、「日本女性の痩せすぎが国民的な健康問題になりつつある」という強い危機感があります。

 

スリムであることは美しさの象徴として語られることもありますが、過度な痩せは、気づかないうちに体の内側にダメージを蓄積させてしまいます。

 

体重や食生活に不安がある方、疲れやすさや冷え、生理不順など気になる症状がある方は、ぜひ一度、医療機関で栄養状態や骨密度をチェックしてみてください。

 

若い時期の健康への投資は、将来の自分自身を守るための、最も確かな手段です。

 

当クリニックでは、主に第2と第4月曜日の午後に、管理栄養士による栄養指導を行っています。

 

お一人おひとりに20~30分かけて、食事の内容や栄養バランス、日常生活でのちょっとした疑問まで、丁寧にご相談をお受けしています。ご希望の方は、どうぞお気軽にお声がけください。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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