• 2026年8月27日
  • 2026年3月3日

糖尿病三大合併症の1つである糖尿病網膜症とは?予防と管理について解説

目次

 

糖尿病網膜症とは

東京都中野区、JR中野駅南口からすぐの場所でクリニックを開業している糖尿病専門医の大庭健史です。

 

糖尿病網膜症は、糖尿病によって網膜の毛細血管が障害され、視力低下や失明につながる可能性がある合併症です。

 

糖尿病では細い血管が慢性的な高血糖の影響を受けて傷み、血流不足(虚血)や血液成分の漏出が起こります。

 

網膜は神経組織であり、一度大きく損傷すると元に戻ることはありません。そのため糖尿病網膜症は進行性の疾患であり、現在でも日本における失明原因として、緑内障に次いで第2位とされています。自覚症状が出にくいことがこの疾患の最大の特徴です。

 

 

大規模臨床試験で明らかとなった血糖コントロールの重要性

糖尿病網膜症の予防において、血糖管理が極めて重要であることは、複数の大規模臨床試験によって明確に示されています。

 

1型糖尿病を対象としたDCCT試験では、HbA1cを約9%で推移していた群と比較し、約7%に維持した群では、網膜症の発症リスクが76%減少し、さらに進行リスクも54%減少することが報告されました。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24356593)

 

2型糖尿病を対象としたUKPDS 35試験では、HbA1cが1%低下するごとに、網膜症を含む微小血管合併症のリスクが約35%減少することが示されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10938048)

 

また、日本で実施されたJ-DOIT3試験においても、厳格な血糖管理を行いながら低血糖をできるだけ抑制した治療群では、従来療法群と比較して網膜症の新規発症リスクが約17%低下することが確認されました。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41129145)

 

これらの結果は海外の研究とも一致しており、日本人においても「良好な血糖コントロールが網膜症予防に有効」であることが示されています。

 

一方で、急速な血糖改善や重度の低血糖は、一時的に網膜症を悪化させる可能性があることも知られています。そのため、血糖値は安全性を確保しながら、段階的かつ安定的に改善していくことが重要です。

 

これらのエビデンスが示すのは、「血糖値をできるだけ早期から、そして長期にわたり安定して良好に保つこと」が、将来の視力予後を大きく左右するという事実です。単に一時的に下げるのではなく、継続的で無理のない管理こそが最も重要なのです。

 

糖尿病網膜症の進行段階

前述の大規模臨床研究が示すように、良好で安定した血糖管理は糖尿病網膜症の発症および進行を大きく抑制することが明らかになっています。

 

では実際に、網膜症はどのような過程を経て進行していくのでしょうか。臨床的には、重症度に応じて以下の3段階に分類され、それぞれで失明リスクや治療方針が大きく異なります。

 

・単純糖尿病網膜症

最も初期の段階で、毛細血管瘤、点状・斑状出血、硬性白斑などがみられます。多くの場合は無症状で、自覚症状がないまま経過します。しかし、この段階で血糖管理に加え、血圧・脂質管理を含めた全身管理を徹底することが進行予防の鍵となります。適切に介入できれば、その後の重症化リスクを大きく低下させることが可能です。

 

・前増殖糖尿病網膜症

毛細血管の閉塞が進み、網膜の虚血が拡大する段階です。新生血管が形成される直前の状態で、軟性白斑や静脈異常、出血の増加などがみられます。かすみや視力低下を自覚することもありますが、無症状のまま進行するケースも少なくありません。失明リスクが高まる段階であり、進行予防のために眼科では網膜光凝固術(レーザー治療)などの積極的治療が検討されます。

 

・増殖糖尿病網膜症

網膜虚血に反応して新生血管が実際に増殖する段階です。新生血管は非常に脆弱で、硝子体出血や牽引性網膜剥離を引き起こすことがあります。急激な視力低下や失明につながるリスクが高く、レーザー治療に加えて硝子体手術などの外科的治療が必要となる場合もあります。また、この段階まで進行すると、血糖値が改善しても網膜症自体の進行が完全には止まらないこともあるため、早期発見・早期介入が極めて重要です。

 

 

このように、糖尿病網膜症は段階的に進行する疾患であり、「どのステージで発見されるか」が視力予後を大きく左右します。

 

そのため、日々の血糖管理と並行して、症状がなくても定期的な眼底検査を受けることが、視力を守るための最も確実な方法といえます。

 

フェノフィブラートと網膜症予防

近年、脂質異常症治療薬であるフェノフィブラートが糖尿病網膜症の進行抑制に寄与する可能性が報告されています。

 

2型糖尿病患者を対象としたFIELD試験では、フェノフィブラート投与群において網膜レーザー治療の必要性が約31%有意に減少しました。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17988728)

 

さらに、ACCORD-Eye試験では、スタチン治療にフェノフィブラートを追加した群で、網膜症進行リスクが約40%低下したことが示されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20587587)

 

これらの結果から、フェノフィブラートは単なる脂質改善薬としてだけでなく、糖尿病網膜症進行抑制における補助的な治療選択肢となり得る可能性があります。

 

ただし、すべての患者さんに適応となるわけではありません。腎機能、併用薬、全身状態などを十分に考慮した上で、個々の症例に応じて慎重に適応を判断することが重要です。

 

定期的な眼底検査の重要性

糖尿病網膜症は進行速度に大きな個人差があり、その経過を正確に予測することは困難です。そのため、自覚症状がなくても定期的な眼底検査が強く推奨されます。

 

特に、それまで高血糖状態が長期間続いていた患者さんにおいて、インスリン治療や内服薬などによる強化療法で血糖値を急速に改善させた場合、一時的に糖尿病網膜症が進行・悪化することがあります。

 

この現象はEarly Worsening of Diabetic Retinopathy(EWDR)と呼ばれます。血糖コントロール自体は長期的には網膜症抑制に有益であることが明らかですが、治療開始後しばらくは特に注意深い眼科フォローが重要です。

 

受診間隔の目安は、重症度に応じて以下の通りです。

・網膜症がない方:1年に1回

・単純糖尿病網膜症:6か月に1回

・前増殖糖尿病網膜症:2か月に1回

・増殖糖尿病網膜症:1か月に1回

 

このように、病期に応じた適切な頻度で受診を継続することが、視力予後を守るうえで極めて重要です。

 

まとめ

糖尿病網膜症は、静かに進行する失明リスクのある疾患です。しかし、大規模臨床試験が示している通り、良好で安定した血糖コントロールは強力な予防効果を持ちます。

 

さらに、脂質管理や適切な薬物療法を組み合わせることで、進行リスクをより一層低減できる可能性があります。

 

糖尿病治療の目的は、単にHbA1cの数値を整えることではなく、将来の合併症を予防し、生活の質(QOL)を守ることにあります。視力を守るためにも、日々の血糖管理と定期的な眼科検査を継続していきましょう。

 

また、糖尿病の合併症には、糖尿病腎症や糖尿病神経障害などもあります。これらについて詳しく知りたい方は、こちらもあわせてご覧ください。

 

 

当クリニックの糖尿病外来への受診をご希望の方は、予約ページよりご予約いただけます。糖尿病は継続的な管理によって将来のリスクを大きく減らすことができる疾患です。不安や疑問がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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