- 2026年10月9日
- 2026年7月7日
認知症のリスクは下げられる!予防のカギは生活習慣病にあり
目次
- はじめに
- 認知症は「脳の病気」だけではない
- 糖尿病は認知症リスクを高める
- 高血圧症も認知症リスクを高める
- 肥満や脂質異常症も無関係ではない
- 世界的に注目されているLancet Commission
- 日本人を対象とした研究でも示される関連性
- 認知症予防のために今できること
- まとめ
はじめに
東京都中野区にある「中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科」院長の大庭健史です。私は糖尿病専門医・内分泌代謝科専門医として、糖尿病、脂質異常症、高血圧症などの生活習慣病や、甲状腺疾患をはじめとするホルモンの病気を中心に診療しています。
今回のブログのテーマは「認知症」です。認知症というと脳の病気というイメージが強く、「糖尿病や高血圧症などを専門とするクリニックとはあまり関係がないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし近年の研究によって、認知症の発症には糖尿病や脂質異常症、高血圧症、肥満といった生活習慣病が深く関わっていることが明らかになってきました。
「認知症は年齢のせいだから予防できない」と考えられがちですが、生活習慣病を適切に管理することが認知症予防につながる可能性が示されており、世界的にも注目されています。
認知症は単に脳だけの病気ではなく、全身の血管や代謝の異常とも密接に関係しています。普段から生活習慣病の診療に携わる立場から、今回は生活習慣病と認知症の関係について、最新の知見や代表的な論文を交えながらわかりやすく解説します。

認知症は「脳の病気」だけではない
認知症にはさまざまな種類がありますが、最も多いのはアルツハイマー型認知症で、全体の約半数以上を占めます。次いで、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症が代表的な認知症として知られています。

血管性認知症は脳梗塞や脳出血などによって脳の血流が障害されることで起こります。そのため、糖尿病や脂質異常症、高血圧症といった動脈硬化の原因となる病気が重要な危険因子となります。
一方で、アルツハイマー型認知症についても、近年では生活習慣病が発症に関与することが明らかになっています。
糖尿病によるインスリン抵抗性や慢性的な炎症、血管障害などが脳に影響し、アミロイドβの蓄積や神経細胞の障害を促進する可能性が指摘されています。
糖尿病は認知症リスクを高める
糖尿病のある方は、糖尿病のない方と比べて認知症を発症するリスクが約1.5~2倍高くなることが知られています。
近年の研究では、糖尿病は単に血糖値が高くなる病気ではなく、脳の健康にも深く関わっていることがわかってきました。
高血糖の状態が長く続くと、全身の血管に負担がかかります。脳の細い血管も例外ではなく、動脈硬化が進むことで脳への血流が低下し、神経細胞に十分な酸素や栄養が届きにくくなります。その結果、記憶力や判断力などの認知機能の低下につながると考えられています。
また、糖尿病の背景には「インスリン抵抗性」という状態が存在することがあります。インスリン抵抗性とは、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが十分に分泌されていても、体がその働きに反応しにくくなった状態のことです。肥満や運動不足、内臓脂肪の増加などが原因となり、2型糖尿病の発症に深く関わっています。
実はインスリンは血糖値を調節するだけでなく、脳の神経細胞の働きを維持する役割も担っています。そのため、インスリン抵抗性によって脳内でインスリンの働きが低下すると、神経細胞の機能が障害される可能性があります。
さらに、糖尿病による慢性的な炎症や血管障害は、アルツハイマー型認知症の原因とされるアミロイドβの蓄積やタウ蛋白の異常を促進すると考えられています。
こうした変化が長期間続くと、脳の神経細胞が徐々に失われていく「神経変性」が進行し、認知機能の低下につながります。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3273076)

また、糖尿病では重い低血糖を繰り返すことも認知機能の低下に関係するといわれています。そのため、認知症予防の観点からは、単に血糖値を下げるだけではなく、低血糖を避けながら安全に血糖を管理することが重要です。
高血圧症も認知症リスクを高める
高血圧症は、認知症との関連が最もよく研究されている生活習慣病の一つです。特に40~60歳代の中年期に高血圧がある方は、将来認知症を発症するリスクが高くなることが、多くの研究で明らかになっています。
高血圧の状態が続くと、脳の細い血管が少しずつ傷つき、気づかないうちに小さな脳梗塞や脳の変化が積み重なります。その結果、記憶力や判断力などの認知機能が低下し、認知症につながると考えられています。
2020年に発表された209件の研究をまとめた解析では、中年期の収縮期血圧が130 mmHgを超えると認知機能が低下するリスクが高くなることが示されました。また、中年期の高血圧は認知機能低下のリスクを約1.19〜1.55倍高めることも報告されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32450739)
高血圧は、適切な治療や生活習慣の改善によってコントロールできる病気です。血圧をしっかり管理することは、脳卒中や心臓病の予防だけでなく、将来の認知症予防にもつながることが期待されています。
肥満や脂質異常症も無関係ではない
肥満や脂質異常症についても認知症との関連が指摘されています。特に40~60歳代の中年期に肥満がある方は、将来認知症を発症するリスクが高くなることが報告されています。
肥満によって内臓脂肪が増えると、体の中で慢性的な炎症が起こりやすくなり、動脈硬化やインスリンの働きの低下を通じて、脳にも悪影響を及ぼすと考えられています。
また、LDLコレステロールが高い状態も認知症リスクを高める可能性があることが明らかになってきました。脂質異常症を適切に治療し、コレステロール値を良好に保つことは、心筋梗塞や脳梗塞の予防だけでなく、将来の認知症予防にもつながることが期待されています。
世界的に注目されているLancet Commission
認知症予防に関する最も影響力の大きい報告の一つが、英国医学誌「Lancet」に掲載されたLancet Commissionです。
2020年の報告では、高血圧、糖尿病、肥満、喫煙、運動不足、うつ病、難聴、社会的孤立など12の危険因子が示されました。
そして2024年には高LDLコレステロールと視力障害が追加され、合計14の修正可能な危険因子が提唱されています。
これらの危険因子を改善できれば、認知症の約40~45%は予防または発症を遅らせる可能性があるとされています。(https://www.thelancet.com/article/S0140-6736(24)01296-0/abstract)

日本人を対象とした研究でも示される関連性
日本人を対象とした研究でも、高血圧や糖尿病などの生活習慣病が認知症や認知機能の低下と深く関係していることが明らかになっています。
福岡県で長年続けられている「久山町研究」では、70歳の地域住民を3年間追跡した結果、糖尿病のある方は認知機能が低下しやすく、特に高血圧を合併している方では、そのリスクがさらに高くなることが報告されています。また、脳卒中を経験した方では、血管性認知症を発症するリスクが高くなることも知られています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28230198)
こうした研究から、認知症予防は70歳や80歳になってから始めるものではなく、40~60歳代のうちから血圧や血糖値を適切に管理し、生活習慣を整えることが、将来の脳の健康を守るために重要であると考えられています。
認知症予防のために今できること
認知症を完全に予防する方法はまだありません。しかし、生活習慣病の管理によって発症リスクを下げられる可能性が高いことがわかっています。
血圧を適切に管理すること、糖尿病を放置しないこと、肥満を改善すること、禁煙すること、運動習慣を持つこと、十分な睡眠をとることなどは、心筋梗塞や脳卒中だけでなく、認知症予防にもつながります。
近年では「脳を守るために血管を守る」という考え方が重視されています。健康診断で高血圧や血糖異常、脂質異常を指摘されても自覚症状がないため放置してしまう方は少なくありません。しかし、その積み重ねが10年後、20年後の脳の健康に大きな影響を与える可能性があります。
まとめ
認知症は年齢を重ねることで発症しやすくなる病気ですが、加齢だけが原因ではありません。糖尿病、高血圧症、脂質異常症、肥満などの生活習慣病は、脳の血管や神経細胞に影響を与え、認知症のリスクを高めることがわかっています。
一方で、近年の研究では、生活習慣の改善や適切な治療によって、認知症の約40~45%は予防したり、発症を遅らせたりできる可能性があると報告されています。
血糖値や血圧、コレステロールを適切に管理することは、心臓や腎臓を守るだけでなく、将来の脳の健康を守ることにもつながります。
認知症予防のためには、症状が出てからではなく、40~60歳代のうちから生活習慣病を予防・治療することが大切です。
糖尿病、高血圧症、脂質異常症、肥満などでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。当クリニックでは、お一人おひとりの状態に合わせた治療をご提案しています。受診をご希望の方は、予約ページよりご予約ください。
また、生活習慣病について詳しく知りたい方は、当クリニックのホームページに掲載している「糖尿病」「高血圧症」「脂質異常症」などの解説ページもぜひご覧ください。
(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)
