• 2025年6月30日
  • 2025年6月23日

7~9月にかけての暑い時期に増える「ペットボトル症候群」について解説!

暑い季節になると、冷たい飲み物が手放せなくなりますよね。スポーツドリンクや炭酸飲料などをペットボトルでがぶがぶ飲んでいる方も多いのではないでしょうか?

 

しかし、こうした清涼飲料水の「飲みすぎ」が、思わぬ健康リスクを引き起こすことがあります。それが「ペットボトル症候群」と呼ばれる状態です。

 

今回は、ペットボトル症候群とは何か、なぜ危険なのか、そしてどのようにすればよいのかについて詳しくお伝えします。

 

 

ペットボトル症候群って何?

「ペットボトル症候群」は正式な医学用語ではなく、医療現場ではよく「清涼飲料水ケトアシドーシス」あるいは「ソフトドリンクケトーシス」と呼ばれています。

 

これは、持病の糖尿病に気づかずにいた人が、糖分の多い清涼飲料水を大量に摂取し続けた結果、血糖値が異常に上昇し、血液が酸性になる「ケトアシドーシス」を引き起こすというものです。

 

放置すると意識障害や昏睡、最悪の場合は命に関わることもあります。実際に、ケトアシドーシスに肺血栓を合併し、死亡に至った症例も報告されており、軽視できない危険な病気です。(https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo1958/39/6/39_6_431/_article/-char/ja)

 

なぜ起こるの? 〜甘い飲み物と高血糖の悪循環〜

糖尿病になると、インスリンというホルモンの働きが低下し、血糖(血液中のブドウ糖)がうまく細胞に取り込まれなくなります。その結果、血糖値が高くなります。

 

このとき、体は水分を尿として排出して血糖値を下げようとします。そのため、喉がとても渇くのが特徴です。

 

喉が渇く → 清涼飲料水を飲む → さらに血糖値が上がる → もっと喉が渇く… この「悪循環」により、短期間で急激に血糖値が上昇し、血液中にケトン体という物質が増えて「ケトアシドーシス」を起こしてしまうのです。

 

 

清涼飲料水にはどのくらい糖分がある?

WHOは2015年に発表したガイドラインにおいて、砂糖の摂取量は総エネルギー摂取量の5%未満(1日あたり約25 g)に抑えるべきと推奨しています。

 

しかし、清涼飲料水に含まれる糖分は、私たちの想像をはるかに超える量にのぼります。

 

たとえば、コーラ500 mLには約56.5gの糖分が含まれており、これは角砂糖に換算すると約17個分に相当します。

 

スポーツドリンクも例外ではなく、500 mLあたり約20〜40 g(角砂糖約6〜12個分)の糖分を含んでいます。

 

さらに、果汁入り飲料では約50 g(角砂糖約15個分)、加糖タイプの缶コーヒーでは約12〜36 g(角砂糖約3.5〜11個分)と、日常的に飲まれている多くの飲み物に、非常に多くの糖分が含まれているのが現状です。

 

このように、たった1本の清涼飲料水を飲むだけでも、知らず知らずのうちに大量の糖を摂取していることになります。

 

こうした飲み物を毎日何本も飲む習慣があると、糖尿病を発症したり、すでに糖尿病のある方では症状を悪化させる大きな要因となるのは言うまでもありません。

 

 

こんな人は要注意!ペットボトル症候群になりやすい人の特徴

ペットボトル症候群は、以下のような方に多く見られます。

・普段からジュースやスポーツドリンクをよく飲む

・喉が渇きやすく、こまめに飲み物を口にする

・運動後に清涼飲料水を飲む習慣がある

・健康診断で「血糖値が高め」と指摘されたことがある

・若くて肥満傾向のある男性(特に高校生〜30代に多い)

 

特に夏場は、熱中症対策のつもりで甘い飲み物を多く摂取してしまうケースが増えるため、発症リスクが高まります。水分補給は大切ですが、飲み物の種類にも注意が必要です。

 

症状と重症化のサイン 〜早期発見がカギです〜

ペットボトル症候群は、初期段階で以下のような症状が見られます。

・強い喉の渇き

・尿の回数や量が増える(多尿)

・体重減少

・全身のだるさ(倦怠感)

・吐き気や腹痛

 

これらの症状がある場合は、糖代謝異常が進行している可能性があります。さらに重症化すると、「糖尿病性ケトアシドーシス」と呼ばれる状態に陥り、以下のような命に関わる症状が現れます。

・意識がもうろうとする

・呼吸が深く速くなる(クスマウル呼吸)

・昏睡状態

 

このような場合は、すぐに医療機関を受診することが必要です。早期発見と適切な対応が命を守るカギとなります。

 

ペットボトル症候群の治療は?

ペットボトル症候群の症状が現れている場合、最も重要なのはできるだけ早く医療機関を受診することです。

 

重症化している場合には、脱水や電解質異常に加えて意識障害を伴うこともあり、入院による集中的な治療が必要になることもあります

 

治療の基本は、まず点滴により不足した水分やナトリウム、カリウムなどの電解質を補正することから始まります。

 

続いて、過度に上昇した血糖値をインスリンでコントロールし、血糖を安全な範囲まで下げていきます。

 

さらに、血中にケトン体が蓄積してアシドーシス(酸性血症)を引き起こしている場合には、その是正もあわせて行います。

 

これらの治療は、患者さんの全身状態を丁寧に評価しながら慎重に進める必要があり、場合によっては集中治療室での管理が求められることもあります。

 

また、治療と並行して、清涼飲料水の過剰摂取といった生活習慣の見直しが不可欠です。症状が一時的に改善しても、生活習慣を改善しなければ再発のリスクが高まります。

 

当クリニックでは、隔週月曜日の午後に管理栄養士による栄養指導を実施しています。お一人おひとりに対して20~30分ほどお時間をかけ、食事内容や摂取のバランスに関するご相談、日常生活における疑問にも丁寧にお答えいたします。どうぞお気軽にご利用ください。

 

もし日程が合わず栄養相談を受けられない場合は、当クリニック院長のブログ「糖尿病の食事療法と当クリニックの栄養指導について」も参考にしていただければと思います。

 

最後に

清涼飲料水は、あくまで「嗜好品」です。喉が渇いたからといって、ジュースを水代わりに飲むのは非常に危険です。

 

糖尿病と診断されたことがない方でも、日常的に甘い飲み物を多く摂取していると、気づかないうちに血糖値が高くなっていることがあります。

 

「疲れているときに1本だけなら」と思っても、その1本には角砂糖10個以上に相当する糖分が含まれていることも珍しくありません。

 

健康を守るためには、日頃から飲み物の成分表示を確認し、できるだけ無糖のものを選ぶよう意識することが大切です。

 

また、「最近よく喉が渇く」「急に体重が減ってきた」「なんとなく疲れが取れない」といった症状がある方は、血糖値の異常が隠れている可能性があります。 

 

当クリニックでは、血糖の迅速検査が可能で、採血から15~20分ほどで結果をお伝えできます。気になる症状がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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