• 2026年8月1日
  • 2026年6月2日

2025年11月6日に発売されたヨビパス(副甲状腺機能低下症治療薬)とは

目次

 

はじめに

中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科の院長の大庭健史です。当クリニックでは、糖尿病をはじめとする生活習慣病や、甲状腺・副甲状腺などの内分泌疾患を専門に診療しています。

 

今回は、体内のカルシウムバランスや骨の健康を維持するために重要な「副甲状腺ホルモン」が不足する病気である副甲状腺機能低下症について解説します。

 

 

2025年11月6日、副甲状腺機能低下症に対する新しい治療薬「ヨビパス(一般名:パロペグテリパラチド)」が日本でも発売されました。

 

ヨビパスは、日本で初めて承認された副甲状腺ホルモン補充療法であり、副甲状腺機能低下症の治療を大きく変える可能性を持つ薬として注目されています。

 

これまでの治療は、カルシウム製剤や活性型ビタミンD製剤を使用して血液中のカルシウム濃度を保つことが中心でした。

 

しかし、これらは不足した副甲状腺ホルモンを直接補う治療ではなく、症状や検査値を改善するための対症療法でした。

 

ヨビパスは、不足している副甲状腺ホルモンの働きを補うことで、病気の根本的な原因にアプローチできる初めての治療薬です。今後、副甲状腺機能低下症の治療選択肢を大きく広げることが期待されています。

 

副甲状腺機能低下症とはどのような病気か

副甲状腺機能低下症は、副甲状腺ホルモンというホルモンが不足することで起こる病気です。副甲状腺は首にある甲状腺の裏側に付いている米粒ほどの小さな臓器で、血液中のカルシウム濃度を一定に保つ重要な役割を担っています。

 

副甲状腺ホルモンが不足すると、血液中のカルシウムが不足し、反対にリンが増えてしまいます。その結果、手足のしびれや筋肉のけいれん、こむら返り、全身のけいれんなどの症状が現れます。重症の場合には、のどの筋肉がけいれんして呼吸が苦しくなり、救急治療が必要になることもあります。

 

また、症状はしびれやけいれんだけではありません。慢性的にカルシウムが不足した状態が続くことで、疲れやすさ、不安感、気分の落ち込み、集中力や記憶力の低下などがみられることもあり、仕事や家事など日常生活に大きな影響を与えることがあります。

 

副甲状腺機能低下症は比較的まれな病気です。手術が原因ではないタイプの副甲状腺機能低下症は、日本では指定難病に指定されており、患者数は全国で約2,300人と推定されています。

 

一方で、甲状腺の手術などが原因で発症するケースも多く、こうした患者さんを含めると国内には3万人以上の患者さんがいると考えられています。

 

原因として最も多いのは、甲状腺がんやバセドウ病などの手術後に副甲状腺の機能が低下してしまうケースです。そのほかにも、自己免疫の異常や遺伝的な要因などによって発症することがあります。

 

患者数は多くありませんが、適切な治療を受けないと長期間にわたって症状に悩まされることがあります。そのため、早期に診断し、適切な治療を続けることが大切な病気です。

 

これまでの治療の限界

副甲状腺機能低下症に対しては、急性期のテタニーやけいれん発作に対してカルチコールの静脈投与が行われます。

 

一方、慢性期には活性型ビタミンD製剤やカルシウム製剤による治療が中心となります。活性型ビタミンD製剤としては、ワンアルファ(アルファカルシドール)などが広く使用されています。

 

こうした治療によって血液中のカルシウム濃度を正常に近づけることはできますが、一つ大きな課題がありました。それは、不足している副甲状腺ホルモンそのものを補っているわけではないという点です。

 

副甲状腺ホルモンは、骨や腎臓、小腸に働きかけながら体内のカルシウムバランスを細かく調整しています。

 

しかし、活性型ビタミンDやカルシウム製剤だけでは、この複雑な仕組みを完全に再現することはできません。そのため、血液中のカルシウム濃度を維持するために、多くの薬を必要とする患者さんもいます。

 

また、治療によって血液中のカルシウム濃度が保たれていても、尿の中にカルシウムが過剰に排泄されてしまうことがあります。これが長期間続くと、腎結石や腎機能の低下を引き起こす可能性があります。

 

さらに、カルシウムとリンのバランスが崩れた状態が続くことで、血管や体の組織にカルシウムが沈着する「異所性石灰化」が起こることもあります。

 

このように、これまでの治療は低カルシウム血症による症状を改善する上で非常に重要な役割を果たしてきましたが、本来不足している副甲状腺ホルモンを補う治療ではなかったため、長期的なカルシウム代謝の管理には限界がありました。

 

その課題を解決する新しい治療法として期待されているのが、副甲状腺ホルモンを補充する治療薬「ヨビパス」です。

 

ヨビパスとはどのような薬か

ヨビパスは、副甲状腺ホルモンの働きを長時間持続させるように設計された新しい治療薬です。皮下注射すると、体内で薬の成分がゆっくりと放出されるため、副甲状腺ホルモンの働きを持続的に補うことができます。

 

(引用:TEIJIM Medical Web)

 

その結果、1日1回の自己注射で24時間にわたって副甲状腺ホルモンの働きを維持できるようになりました。これは、短時間だけ作用する骨粗しょう症治療薬のフォルテオ(テリパラチド)とは大きく異なる特徴です。

 

これまでの副甲状腺ホルモン関連薬は、主に骨を作る働きを高めることを目的として使用されてきました。一方、ヨビパスは不足している副甲状腺ホルモンの働きを持続的に補うことで、体本来のカルシウムやリンのバランスをより自然な状態に近づけることを目指しています。

 

つまりヨビパスは、これまでの対症療法とは異なり、不足しているホルモンそのものの働きを補う「ホルモン補充療法」として位置づけられる新しい治療薬なのです。

 

臨床試験で示された有効性

ヨビパスの有効性と安全性は、海外および国内の臨床試験で確認されています。特に海外で実施された「PaTHway試験」は、副甲状腺機能低下症治療の新たな可能性を示した研究として大きな注目を集めました。

 

この試験では、活性型ビタミンD製剤やカルシウム製剤で治療を受けていた副甲状腺機能低下症の患者さんにヨビパスを投与しました。

 

その結果、26週時点で約8割の患者さんが血液中のカルシウム値を正常範囲に維持しながら、活性型ビタミンDやカルシウム製剤を減量または中止できました。さらに52週時点では95%の患者さんが従来の治療から離脱し、活性型ビタミンDを必要としなくなりました。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39376010)

 

特に注目されたのは、尿中カルシウム排泄量が大きく改善したことです。24時間尿中カルシウム排泄量は平均376 mg/日から195 mg/日まで減少しました。

 

これは単に血液中のカルシウム値を正常化するだけでなく、腎臓でカルシウムを適切に再吸収するという、本来の副甲状腺ホルモンの働きが再現された可能性を示しています。

 

また、腎機能にも良い影響が認められました。腎機能の指標であるeGFR(推算糸球体濾過量)は、52週時点で平均9.3 mL/min/1.73m²改善し、その効果は長期投与でも維持されました。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38691316)

 

 

副甲状腺機能低下症では、長年にわたる高カルシウム尿症によって腎機能が低下することがあるため、腎臓を守る可能性が示されたことは重要な成果と考えられています。

 

さらに、患者さん自身が症状や生活の質を評価する指標でも改善が認められました。疲れやすさや身体機能などが改善し、その効果は長期間にわたって維持されました。

 

このようにヨビパスは、血液検査の数値を改善するだけでなく、従来治療への依存を減らし、腎機能の保護や生活の質の向上にもつながることが期待される新しい治療薬です。

 

副作用と注意点

ヨビパスで最も注意が必要な副作用は、高カルシウム血症です。臨床試験では約9.8%の患者さんに認められました。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39376010)

 

そのため、治療開始後しばらくは定期的に血液検査を行いながら、慎重に用量を調整していく必要があります。また、注射した部位の赤みや内出血、発疹などの注射部位反応が比較的よくみられます。

 

そのほか、頭痛、下痢、吐き気などの副作用も報告されています。 ヨビパスは通常1日18 μgから開始し、血液中のカルシウム値を確認しながら6〜60 μgの範囲で用量を調整します。

 

特徴的なのは、3 μg単位で細かく調整できることです。そのため、一人ひとりの状態に合わせたきめ細かな治療が可能とされています。

 

ヨビパスの薬価と医療費助成制度

ヨビパスは希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)として承認された薬剤であり、薬価は比較的高額です。2026年時点の薬価は、ヨビパス皮下注168μgペンが571,509円、294μgペンが584,139円、420μgペンが596,310円に設定されています。

 

この金額を見ると治療費が非常に高額に感じられるかもしれません。しかし、実際には公的な医療費助成制度を利用することで、自己負担額を大きく抑えられる場合があります。

 

特発性副甲状腺機能低下症など、指定難病の認定を受けている患者さんでは、難病医療費助成制度を利用できる可能性があります。

 

認定を受けると、所得に応じて毎月の自己負担上限額が設定されるため、高額な薬剤であっても自己負担額は一定額までに抑えられます。

 

一方、甲状腺手術後などの術後性副甲状腺機能低下症では、一般的に指定難病医療費助成の対象とはなりません。しかし、その場合でも健康保険の「高額療養費制度」を利用することができます。

 

高額療養費制度では、1か月の医療費自己負担額が一定額を超えた場合に超過分が払い戻されるため、薬剤費が高額であっても実際の負担額は一定範囲に抑えられます。

 

また、高額な医療が長期間続く場合には「多数回該当」により、自己負担額がさらに軽減されることがあります。

 

このように、ヨビパスの薬価自体は高額な薬剤ですが、指定難病医療費助成制度や高額療養費制度を利用することで、実際の自己負担額は大きく異なります。

 

治療を検討する際には、主治医や医療機関のスタッフと相談し、ご自身が利用できる医療費助成制度について確認しておくことをおすすめします。

 

まとめ

ヨビパスは、日本で初めて承認された副甲状腺ホルモン補充療法であり、副甲状腺機能低下症治療における大きな転換点となる可能性があります。

 

これまでの治療は、活性型ビタミンD製剤やカルシウム製剤によって不足したカルシウムを補うことが中心でした。

 

一方、ヨビパスは不足している副甲状腺ホルモンそのものを補う治療であり、より根本的な治療法として期待されています。

 

臨床試験では、血清カルシウム値の安定化だけでなく、尿中カルシウム排泄の改善や腎機能への良好な影響、さらには患者さんの生活の質の向上も示されました。

 

副甲状腺機能低下症は単なるカルシウム不足ではなく、副甲状腺ホルモンの不足によって生じる全身性の疾患です。しびれや筋肉のけいれんなどの症状だけでなく、長期的には腎障害や腎結石のリスクにも注意が必要です。

 

ヨビパスの登場により、これまで治療に難渋していた患者さんや、従来治療だけでは十分なコントロールが得られなかった患者さんに、新たな治療選択肢がもたらされることが期待されています。

 

副甲状腺機能低下症をはじめとする内分泌疾患でお困りの方は、自己判断で悩まず、お気軽に当クリニックへご相談ください。受診をご希望の方は予約ページよりご予約いただけます。

 

また、甲状腺疾患や内分泌疾患についてさらに詳しく知りたい方は、当クリニックのホームページ「甲状腺・内分泌」のページもぜひご覧ください

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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