- 2023年12月6日
GLP-1受容体作動薬の効果を超えるマンジャロという薬剤について
中野駅南口からすぐのところで開業している糖尿病専門医の大庭健史です。当クリニックのホームページの「糖尿病」でも簡単にお話しさせていただきましたが、今回はGLP-1受容体作動薬の効果を超える新たな糖尿病治療薬であるマンジャロ(チルゼパチド)について、より詳しくお話させていただきます。
(出典:田辺三菱製薬ホームページ)
マンジャロとは
マンジャロは、2022年6月7日にアメリカで発売され、日本では2023年4月18日に発売されました。この薬剤は、小腸上部のK細胞から分泌されるインクレチンのグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)と小腸下部のL細胞から分泌されるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の双方の作用を有しています。
マンジャロは天然のGIPをベースに作られたものですが、GIP 受容体だけでなくGLP-1受容体にも長時間結合できるため、GIP/GLP-1受容体作動薬に分類されます。
マンジャロの効果について
マンジャロは、GLP-1受容体だけでなくGIP 受容体にも作用することから、GLP-1受容体作動薬よりもHbA1cと体重の改善効果が高いとされています。この効果は、肥満の人が多い欧米はもちろんのこと、比較的肥満の少ない日本人を対象とした臨床研究でも同様の結果が得られています。
横浜市立大学附属病院の研究グループから報告された18個の質の高い臨床研究をまとめて解析した論文によると、マンジャロの最大容量である15 mgを使用すると、HbA1cは2.83%、体重は9.46 kg減少したと報告されています。これは、GLP-1受容体作動薬の中で最も効果が高いとされるオゼンピック(セマグルチド)の最大容量である1 mgでのHbA1c 2.30%、体重 4.39 kg減少を上回っています。さらに、内服のGLP-1受容体作動薬であるリベルサス(セマグルチド)の最大容量である14 mgでのHbA1c 1.60%、体重 2.62 kg減少をも上回っています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37828829)
マンジャロに心血管イベント抑制効果や腎保護効果はあるのか?
GLP-1受容体作動薬については、トルリシティ(デュラグルチド)がREWIND試験、ビクトーザ(リラグルチド)がLEADER試験、オゼンピックがSUSTAIN6試験で心血管イベントの抑制効果を示しています。また、GLP-1受容体作動薬の腎保護作用についても多数報告されています。
一方で、マンジャロについては2023年12月現在、心血管イベントの抑制効果や腎保護効果に関する報告はまだありません。ただし、マンジャロは血糖改善と体重改善効果においてGLP-1受容体作動薬を上回ることが示されています。そのため、心血管イベントの抑制効果や腎保護効果がある可能性は高いと考えられます。
マンジャロの安全性について
マンジャロの副作用は、GLP-1受容体作動薬と同様、吐き気・嘔吐・下痢・便秘などの消化器症状が比較的多く報告されています。トルリシティと比較すると副作用は多いものの、GLP-1受容体作動薬の中で最も効果が高いとされるオゼンピックとは副作用の差がないと報告されています。
また、マンジャロは世界初のGIP/GLP-1受容体作動薬であることから、長期的な安全性についてはまだ解明されていません。類似のGLP-1受容体作動薬は発売から13年経過しているため、当クリニックのブログ「GLP-1受容体作動薬はダイエットのために使用して良いのか?」でも触れていますが、急性胆道系疾患(胆嚢炎、胆管炎など)のリスクが高まることが報告されています。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8961394)
またGLP-1受容体作動薬については、統計学的な有意差は認められないものの、胆のうがんのリスクが1.43倍、胆管がんのリスクが1.97倍となっている論文があります。そのため、マンジャロの使用にもこのようなリスクが生じる可能性が考えられます。このことから、マンジャロの使用は専門の医師による診察を受け、リスクとベネフィットを検討した上で慎重に行うべきだと考えます。当然ながら、痩身クリニックなどで行われている自費でのダイエットのみを目的とした使用はお勧めできません。
マンジャロの課題について
マンジャロは新薬であり、2023年12月現在、1回の診察で処方できるのは14日分までとなっています。そのため、長期処方が可能となる2024年4月1日までは使用しづらい状況となっています。
また、日本ではマンジャロの高用量が入手困難な状況が続いています。特に10 mg以上の製剤は希少で、ほとんど流通していません。この問題の背景には、海外での急激な需要増加があります。特にアメリカではマンジャロの薬価が高いことと、低用量と高用量で同じ価格であるため、10 mg以上の高用量はアメリカに優先的に供給される傾向があります。
製薬メーカーのイーライリリーは新しい工場を設立してマンジャロの増産を計画していますが、アメリカでは2023年11月8日にマンジャロが商品名を変えて肥満症治療薬ゼップバウンドとして承認されました。
そのため、今後もしばらくは日本に高用量のマンジャロが供給されにくいと予想されます。 マンジャロは、高用量の製剤の供給不足、長期処方できないこと、エビデンスの不足などの課題が存在しますが、これらの問題が解決されれば肥満を伴う2型糖尿病患者さんにとって第一選択薬となる可能性は大いにあるでしょう。
マンジャロの今後について
先に述べた通り、アメリカでは糖尿病のない肥満患者さんにも、マンジャロと同じ成分のゼップバウンドが使用されるようになりました。日本でも糖尿病治療薬であるオゼンピックと同じ成分のウゴービが、2024年2月22日に肥満症治療薬として発売されます。したがって、今後は日本でもマンジャロが糖尿病のない肥満患者さんにも使用可能になると考えられます。
また、今後はマンジャロを上回る効果が期待されるGIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬のレタトルチドについても、第2相の臨床研究の結果がThe New England Journal of Medicineで報告されました。この報告によれば、レタトルチド12 mgの使用で24.2%の体重減少が認められました。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37366315)
したがって、この薬剤が実用化されればマンジャロの需要も落ち着く可能性があります。今後の糖尿病などの生活習慣病の治療薬の更なる進歩に期待したいと考えます。
(出典:N Engl J Med. 2023; 389: 514-526)
最後に
糖尿病や肥満症などの生活習慣病は、やはりまずは食事療法と運動療法が大切です。これについては、当クリニックのブログ「糖尿病の食事療法と当クリニックの栄養指導について」と「糖尿病の運動療法について」を参考にしていただければと思います。
また、当クリニックでは生活習慣病専門の医師と管理栄養士がおりますので、お悩みの方は一度当クリニックにいらしてご相談ください。