- 2025年1月6日
1月30日に発売される週1回皮下投与のインスリン製剤アウィクリについて
東京都中野区にある「中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科」院長で、糖尿病専門医の大庭健史です。
糖尿病治療薬は日々進歩しており、毎年のように新薬が登場しています。このたび、今月末に世界初となる週1回投与の基礎インスリン製剤「アウィクリ」(インスリンイコデグ)が発売されることになりました。
当クリニックのブログの「5月31日に製造販売承認された週1回皮下投与のインスリン製剤アウィクリとは」では、アウィクリについて概要をお伝えしましたが、今回はさらに一歩踏み込み、具体的な使用方法や、どのような方にアウィクリの使用が適しているかについて詳しくお話しさせていただきます。
(出典:ノボ ノルディスク ファーマ ホームページ)
アウィクリの特徴とその使用方法について
アウィクリは1週間分の基礎インスリンを1回で投与するため、ランタスやトレシーバなど従来の基礎インスリン製剤の約7倍の濃度で作られています。
この高濃度により、既存の基礎インスリン製剤から切り替えても皮下に投与する薬液量は変わりません。
ただし、アウィクリの注射器は1目盛が10単位となっているため、従来製剤と比べると投与量の微調整がやや難しい印象があります。
従来の基礎インスリン製剤からアウィクリへ切り替える場合、従来製剤の投与量の約7倍にするのが基本です。
しかし、アウィクリは8週間投与後の血中半減期が約164時間と非常に長く、効き目がゆっくり現れるため、初回投与時のみ約1.5倍の量を投与します。
一方、低血糖のリスクが高い患者さんでは、遷延性低血糖(持続的な低血糖)を避けるために初回投与量を1.0~1.4倍に調整する必要があります。
また、インスリン未使用の患者さんにアウィクリを新規導入する場合は、血糖値や体格などを考慮して30~50単位から開始するのが一般的です。
アウィクリの投与は、毎週同じ曜日であれば注射する時間が多少前後しても問題ありません。
ただし、注射を忘れた場合は気づいた時点で直ちに注射し、その後のスケジュールを調整します。次の注射は、元の曜日に戻すのではなく、4日以上の間隔を空けてから行い、その後は再び1週間ごとのスケジュールに戻します。
アウィクリの臨床試験について
アウィクリが製造販売承認された背景には、大規模臨床試験「ONWARDS試験」の結果があります。この試験は1~6までの6つの臨床試験で構成されています。それぞれの試験結果について以下で詳しく解説します。
・ONWARDS 1試験
インスリン未使用の2型糖尿病患者を対象に、アウィクリと既存の基礎インスリン製剤であるランタスを比較した試験です。52週間後のHbA1cの減少幅は、アウィクリで-1.55%、ランタスで-1.35%となり、アウィクリの方が優れた有効性を示しました。一方で、有害事象の一つである低血糖は、52週間でアウィクリの方が約1.64倍多かったものの、統計的な有意差は認められませんでした。(https://www.nejm.jp/abstract/vol389.p297)
(N Engl J Med 2023; 389: 297-308)
・ONWARDS 2試験
基礎インスリン治療中の2型糖尿病患者を対象に、アウィクリと既存の基礎インスリン製剤であるトレシーバを比較した試験です。26週間後のHbA1cの減少幅は、アウィクリで-0.93%、トレシーバで-0.71%と、アウィクリが優れた結果を示しました。低血糖については、アウィクリの方が約1.93倍多い結果でしたが、こちらも統計的な有意差はありませんでした。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37148899)
・ONWARDS 3~5試験
これらの試験も2型糖尿病患者を対象に実施され、HbA1c 7.0%未満達成率や治療満足度でアウィクリが優れているという結果が得られました。
・ONWARDS 6試験
インスリン治療中の1型糖尿病患者を対象に、アウィクリとトレシーバを比較した試験です。26週間後のHbA1cの減少幅は、アウィクリで-0.47%、トレシーバで-0.51%と、両者の有効性は同等という結果でした。しかし、低血糖についてはアウィクリの方が約1.89倍多い結果が示されています。(https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(23)02179-7/fulltext)
アウィクリの使用が適している方とは
ONWARDS試験の結果を踏まえると、1型糖尿病の方にはアウィクリではなく、既存の基礎インスリン製剤であるトレシーバを使用するのが最善と考えられます。
また、1型糖尿病と類似した病態を持つ膵性糖尿病など、インスリン分泌が著しく低下している方に対しても、アウィクリの使用は適していないと考えます。
また、アウィクリは統計的な有意差はないものの低血糖のリスクがやや高い傾向にあるため、既存の基礎インスリン製剤と比較して必ずしも優れているとは言い難い状況です。
そのため、2型糖尿病の方についてアウィクリの使用が適しているケースは、以下のような特定の条件に限られると考えられます。
・認知症などにより、患者自身でインスリンを注射できず、介護者(家族や訪問看護師など)が注射を行う必要がある場合
・注射が苦手、または心理的・身体的な理由で毎日インスリンを打つことが困難、もしくは希望しない場合
まとめ
アウィクリの登場により、糖尿病治療の選択肢が広がることは非常に喜ばしいことです。
しかし、新薬については薬価基準収載の翌月から1年間は、1回の外来受診で14日分までしか処方できないという制約があります。
アウィクリの場合、この制約により2025年12月1日までは、月に2回受診可能な方に限り処方が可能です。
当クリニックでは、2025年12月以降にアウィクリの使用が適している方について、順次切り替えを推奨していく予定です。
一方で、早期にアウィクリを使用したいとご希望の方は、お早めに当クリニックへご相談いただければと思います。
(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)