• 2026年7月18日
  • 2026年7月14日

2026年6月からMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)にウゴービが使用可能

目次

 

はじめに

健康診断で「脂肪肝がありますね」と言われたことはありませんか。

 

 

脂肪肝は以前、「お酒を飲み過ぎる人の病気」や「特に治療の必要はない」と考えられることも少なくありませんでした。

 

しかし近年では、お酒をほとんど飲まない方でも、肥満や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が原因で脂肪肝を発症し、その一部はアルコール性肝疾患と同じように、肝硬変や肝細胞がんへ進行する可能性があることが明らかになっています。

 

特に、脂肪肝に炎症や肝臓の線維化(肝臓が硬くなること)を伴うMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎:Metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)は、進行すると肝硬変や肝がんにつながる可能性があるため、早期発見と適切な治療が重要です。

 

こうした中、2026年6月19日、GLP-1受容体作動薬であるウゴービ(セマグルチド)の適応が日本で拡大され、肝硬変を伴わないMASHに対して保険診療で使用できるようになりました。

 

 

これは、日本で初めてMASHに対して承認された薬物療法であり、これまで食事療法や運動療法が中心だった治療に新たな選択肢が加わったことになります。

 

一方で、ウゴービは脂肪肝と診断されたすべての方が使用できるわけではありません。MASHと診断するためには、脂肪肝が炎症や線維化を伴う段階まで進行していることを専門的な検査で確認する必要があります。

 

また、厚生労働省は最適使用推進ガイドラインを策定し、対象となる患者さんや処方できる医療機関を定めています。

 

今回は、MASHとはどのような病気なのか、ウゴービによる治療の対象となる患者さんはどのような方なのかについて、最新の臨床試験の結果や国内外の承認状況も交えながら、分かりやすく解説します。

 

MASLDとMASHとは?

以前は、脂肪肝の病気は「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」、その中でも炎症を伴うものは「NASH(非アルコール性脂肪肝炎)」と呼ばれていました。

 

しかし、2023年に国際的な専門家による検討を経て、病名が見直され、現在では「MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)」と「MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)」という名称が使われています。

 

MASLDとは、肥満や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を背景に、肝臓へ脂肪が過剰に蓄積した状態を指します。アルコールの飲み過ぎが原因となる脂肪肝を除くと、脂肪肝の多くはMASLDに分類されます。

 

一方、MASHは、脂肪が蓄積しているだけではなく、肝臓に炎症や細胞の障害が起こり、さらに線維化(肝臓が硬くなること)が進行している状態です。

 

MASHを放置すると、線維化がさらに進んで肝硬変となり、肝不全や肝細胞がんを発症するリスクが高くなります。

 

 

また、MASHは肝臓だけの病気ではありません。糖尿病や肥満、脂質異常症などを伴うことが多く、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管疾患のリスクも高まることが知られています。

 

現在、日本では約2,500万人がMASLDであると推定され、そのうち数百万人がMASHへ進行している可能性があると考えられています。

 

特に糖尿病のある方ではMASHを合併しやすく、2型糖尿病患者さんの約3人に1人(31.6%)がMASHを合併しているとの報告もあります。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37491159)

 

世界で相次ぐMASH治療薬の承認

MASHに対する薬の開発は20年以上前から進められてきましたが、これまで十分な効果を示し、承認まで至った治療薬は多くありませんでした。

 

そのような中、2024年3月、米国食品医薬品局(FDA)は、甲状腺ホルモンβ受容体作動薬であるレズメチロム(resmetirom)を、中等度から高度の肝線維化(F2~F3)を伴うMASHに対する世界初の治療薬として承認しました。

 

さらに2025年8月には、GLP-1受容体作動薬であるウゴービがFDAでMASHへの適応追加承認を取得し、その後欧州でも承認されました。

 

日本でも約1年後の2026年6月19日に適応が追加され、肝硬変を伴わないMASHに対して保険診療で使用できるようになりました。

 

日本でウゴービがMASHに保険適用となったことは、これまで食事療法や運動療法が中心だったMASH治療に新たな選択肢が加わったことを意味し、糖尿病診療だけでなく肝臓病診療においても大きな転換点となっています。

 

ウゴービはどのようにMASHを改善するの?

ウゴービは、GLP-1受容体作動薬に分類される週1回の皮下注射薬です。GLP-1は食事をすると小腸から分泌されるホルモンで、インスリンの分泌を促し、食欲を抑える働きがあります。

 

ウゴービには、次のような作用があります。

・食欲を抑えて食べ過ぎを防ぐ

・胃から食べ物が送り出される速度をゆっくりにし、満腹感を持続させる

・体重を減少させる

・インスリンの効きを改善する(インスリン抵抗性の改善)

・内臓脂肪や肝臓にたまった脂肪を減らす

 

MASHは、肥満やインスリン抵抗性が深く関わる病気です。そのため、ウゴービは体重を減らすだけでなく、肝臓や脂肪組織の慢性的な炎症を改善し、肝細胞へのダメージや肝線維化(肝臓が硬くなること)の進行を抑えると考えられています。

 

投与方法は肥満症と同じ

MASHに対するウゴービの投与方法は、肥満症で使用する場合と同じです。

 

まずは週1回、0.25 mgから皮下注射を開始します。その後、副作用をできるだけ少なくするため、4週間ごとに0.5 mg、1.0 mg、1.7 mgと少しずつ増量し、最終的に2.4 mgを維持量として治療を続けます。

 

急に薬の量を増やすと、吐き気、嘔吐、食欲不振、便秘や下痢などの消化器症状が起こりやすくなります。そのため、体を薬に慣らしながら、時間をかけて段階的に増量していくことが大切です。

 

ESSENCE試験が示したMASH改善効果

今回の承認の根拠となったのが、ESSENCE試験と呼ばれる国際共同第Ⅲ相試験です。

 

この試験では、中等度から高度の肝線維化(F2~F3)を伴うMASH患者さん約800人を対象に、ウゴービ2.4 mgまたはプラセボ(有効成分を含まない薬)を週1回、72週間投与し、その効果と安全性が比較されました。

 

その結果、肝線維化を悪化させることなくMASHが改善した患者さんは、ウゴービを使用したグループで約62.9%に達し、プラセボ群の約34.3%を大きく上回りました。

 

また、MASHを悪化させることなく肝線維化が改善した患者さんも約36.8%と、プラセボ群より有意に高い割合でした。

 

さらに、MASHそのものだけでなく、肝機能を示すALTやASTの改善、肝臓にたまった脂肪の減少、約10%の体重減少、HbA1c(血糖値の指標)の改善、ウエスト周囲径の減少なども認められました。

 

このことから、ウゴービは肝臓だけでなく、MASHの原因となる肥満や糖代謝異常などの改善にも役立つことが示されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40305708)

 

副作用としては、吐き気や嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状が比較的多くみられました。しかし、その多くは軽度から中等度で、適切に増量しながら治療を続けることで、多くの患者さんが治療を継続できたと報告されています。

 

MASHは血液検査だけでは診断できません

健康診断で「脂肪肝があります」と指摘されたことがある方は少なくありません。しかし、脂肪肝があるだけではMASHとは診断できません。

 

また、ASTやALTなどの肝機能の数値が正常でもMASHが隠れていることがあり、逆にこれらの数値に異常があってもMASHではない場合もあります。

 

現在のMASH診療では、脂肪肝があるかどうかだけでなく、肝臓の線維化(肝臓が硬くなること)がどの程度進んでいるかを評価することが非常に重要とされています。

 

実際、将来的な肝硬変や肝細胞がんのリスクは、肝臓にたまった脂肪の量よりも、線維化の進み具合と強く関係していることが分かっています。

 

そのため、血液検査は診断の第一歩として重要ですが、それだけでMASHを確定診断することはできません。

 

近年では、FIB-4 indexという指標が広く利用されています。これは、年齢、AST、ALT、血小板数の4項目から計算し、肝線維化の可能性を簡単に評価できるため、MASHが疑われる患者さんを見つけるためのスクリーニング検査として多くの医療機関で用いられています。

 

ただし、FIB-4 indexはあくまでも「肝線維化の可能性」を推定するための指標です。年齢の影響を受けやすく、高齢者では実際より高く、若い方では進行した線維化があっても低く出ることがあるため、この検査だけでMASHを診断したり、治療を開始したりすることはできません。

 

最適使用推進ガイドラインでは専門的な線維化評価が必要

ウゴービは、MASHと診断されたすべての方が使用できる薬ではありません。適正に使用するため、厚生労働省は「最適使用推進ガイドライン」を定めています。

 

このガイドラインでは、治療の対象となるのは、肝硬変を伴わないMASHで、中等度から高度の肝線維化(F2~F3)が確認された患者さんとされています。

 

そのため、健康診断で「脂肪肝があります」と指摘されたり、血液検査でASTやALTが高かったりするだけでは、ウゴービを使用することはできません。

 

実際にウゴービの治療を開始するには、超音波エラストグラフィ(FibroScanなど)、MRエラストグラフィ、または肝生検によって、中等度以上(F2以上)の肝線維化が確認される必要があります。

 

なぜ中等度~高度の線維化(F2~F3)が対象で、肝硬変(F4)は対象外なの?

今回のウゴービの承認は、ESSENCE試験という国際共同臨床試験の結果に基づいています。この試験では、肝硬変まで進行していないMASH患者さん(肝線維化F2~F3)を対象に、有効性と安全性が検証されました。

 

その結果、MASHの改善や肝線維化の改善が確認されたことから、日本でも「肝硬変を伴わないMASH(F2~F3)」が治療の対象となっています。

 

一方、肝硬変(F4)まで進行すると、肝臓は硬くなり、元の正常な構造が大きく変化しています。この段階では、門脈圧亢進症、腹水、肝不全、肝細胞がんなどの重い合併症が起こるリスクも高くなります。

 

現在のところ、肝硬変まで進行したMASHに対してウゴービが十分な効果を示すか、また安全に使用できるかについては、十分なデータが得られていません。そのため、現時点では肝硬変を伴わないMASHが適応となっています。

 

つまり、肝臓が大きく傷つく前の段階で治療を開始し、病気の進行を食い止めることが、現在のMASH治療で最も重要な考え方となっています。

 

専門施設での診療が求められる理由

MASH診療では、「脂肪肝なのか」「MASHなのか」「線維化はどこまで進行しているのか」「肝硬変ではないのか」を総合的に判断する必要があります。

 

また、自己免疫性肝炎や原発性胆汁性胆管炎、ウイルス性肝炎、アルコール性肝障害など、他の慢性肝疾患との鑑別も重要になります。

 

そのため厚生労働省の最適使用推進ガイドラインでは、MASHに対するウゴービは肝疾患診療に十分な経験を有する医師や専門施設のもとで使用することが求められています。

 

当クリニックでできること

当クリニックでは、糖尿病や脂質異常症、肥満症などの生活習慣病を中心に診療を行っていますが、MASHに対するウゴービの処方は行っておりません。

 

これは、厚生労働省の最適使用推進ガイドラインにおいて、MASHに対するウゴービは、専門的な検査や肝疾患の診療体制が整った医療機関で使用することが求められているためです。

 

治療を開始するには、超音波エラストグラフィやMRエラストグラフィなどによる肝線維化の評価が必要であり、継続的な専門診療も重要となります。

 

一方で、健康診断で脂肪肝を指摘された方や、糖尿病・脂質異常症・肥満症などがありMASHが疑われる方については、当クリニックで血液検査などの初期評価を行っています。

 

その結果、MASHや肝線維化が疑われる場合には、超音波エラストグラフィなどの専門的な検査や治療が可能な医療機関をご紹介し、適切な診断・治療につなげています。

 

今後期待されるMASH治療

MASHは世界中で患者数が増加しており、「次の生活習慣病」とも呼ばれています。そのため、現在も世界中で新しい治療薬の開発が活発に進められています。

 

すでに承認されているGLP-1受容体作動薬に加え、GIP/GLP-1受容体作動薬やFGF21製剤、甲状腺ホルモン受容体β(THR-β)作動薬など、さまざまな作用をもつ薬剤が臨床試験で検討されています。

 

また、エフルキシフェルミン(efruxifermin)、ペゴザフェルミン(pegozafermin)、ラニフィブラノール(lanifibranor)なども有望な治療薬として期待されており、今後数年間でMASHの薬物療法はさらに大きく進歩すると考えられています。

 

一方で、どれほど優れた薬が開発されても、MASH治療の基本は食事療法と運動療法による生活習慣の改善です。特に、体重を7~10%以上減量できると、MASHや肝線維化が改善する可能性が高くなることが報告されています。

 

薬物療法は生活習慣の改善をサポートする重要な選択肢ですが、その効果を十分に引き出すためには、食事や運動を継続し、健康的な生活習慣を身につけることが欠かせません。

 

今後は、新しい薬物療法の進歩と生活習慣の改善を組み合わせることで、MASH治療はさらに発展していくことが期待されています。

 

なお、肥満の食事療法や運動療法について詳しく知りたい方は、「肥満症の食事療法と運動療法について専門家が分かりやすく解説」もぜひご覧ください。

 

まとめ

MASHは、脂肪肝の一部が進行して発症する病気です。自覚症状がほとんどないまま進行することも多く、放置すると肝硬変や肝細胞がんにつながる可能性があります。

 

2026年6月19日には、日本でウゴービがMASHに対する適応を取得し、日本で初めて保険診療で使用できるMASH治療薬となりました。

 

ただし、治療の対象となるのは、肝硬変を伴わないMASHで、中等度から高度の肝線維化(F2~F3)が確認された患者さんに限られます。

 

また、MASHは血液検査だけで診断することはできません。必要に応じて、超音波エラストグラフィやMRエラストグラフィ、肝生検などで肝臓の線維化を詳しく評価し、専門的な診断を受けることが大切です。

 

健康診断で脂肪肝や肝機能異常を指摘された方、また糖尿病、肥満、脂質異常症などの生活習慣病がある方は、MASHが隠れている可能性があります。早めに適切な評価を受けることで、病気の進行を防げる可能性があります。

 

当クリニックでは、MASHに対するウゴービの処方は行っておりませんが、脂肪肝や生活習慣病の診療、血液検査による初期評価を行っています。必要に応じて、専門的な検査や治療が可能な医療機関へご紹介いたします。

 

中野駅周辺で脂肪肝や生活習慣病についてお悩みの方は、お気軽に当クリニックまでご相談ください。受診をご希望の方は、予約ページよりご予約いただけます。早期発見・早期治療が、大切な肝臓を守る第一歩です。

 

(文責:中野駅前内科クリニック 糖尿病・内分泌内科 院長・医学博士 大庭健史)

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